③魔王軍の目的
タイサが静かに周囲を見渡す。
狼男のアモン、顔のない銀色のバルバトスは互いに近い所で壁に背中をつけていた。そして、豹柄のバステトのオセは一番の遠席で足を組み、カエデに手を振っている。
他の者達は初見であった。
一人は先程の片眼鏡の兎の亜人。シドリーの傍に立ち、手を後ろに組んでいる。背は周囲の者達よりもかなり低めだが、それでも黒いコートで紳士的に身なりを整えている一方、コートの裾は長年の使用で綻びが多く見られた。
次に、テーブルの中央の席で座っている男は、茶色い羽の生えたバードマン。革鎧にだぼついた長ズボン、刺々しい茶色い髪の上にはゴーグルがかけられ、オセと同様に長い鳥足を組んだままタイサを見て頬を緩めている。
部屋の隅では、シドリーの腕を再生させた巨大な獅子の魔物ブエルが床に腹をつけて伏せていた。彼は大きく口を開けて欠伸をして、最も緊張感のない表情で時を過ごしている。
「タイサ達も適当に座ってくれ」
シドリーが上座に腰掛け、ドア側に立つタイサに手を差し伸べる。タイサ達は張り詰めた空気を受け止めつつも、タイサを中央にエコー達がその左右に椅子を引いた。
彼女がアモンとバルバトスに視線を送る。だが、アモンが軽く手のひらを横に流すような仕草をすると、シドリーはやや不満そうな表情となって視線をタイサに向け直した。
「済まないが時間が惜しい。早速だが話を始めさせてもらおう」
シドリーがテーブルの上で指を組み、真剣な顔付きになる。
魔王軍の司令官が、一介の騎士に何を聞こうというのか。タイサは、唯々彼女の言葉を待つしかなかった。
そして彼女の口が開かれる。
「我々は人間との共存を望んでいる。それが我らがここまで来た目的だ」
―――共存。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
立ち上がったのはエコーだった。
彼女はどんな表情をして良いのか分からず、人によって困惑とも憤怒にも見える顔をしていた。
「共存も何も、貴方達は一方的に王国に侵攻し、つい前まで殺し合いをしてきたんですよ!? 一体どうしたら、共存が目的だと言えるのですか!」
彼女の厳しくも正論の声に、シドリーは身動き一つしなかった。
「ならば問おう、人間の女よ」
そして反論する。
「戦いによって、人間の数と領土の半分を失って生き長らえる道と全てを失う道。どちらを選ぶ?」
「………脅迫のつもりですか? 自分達はそれだけ強いと」
感情が籠るエコーの言葉に、シドリーはとんでもないと無表情のまま組んだ指を開く。




