②最後の休息
「今まで、そこまで水を節約しなかったじゃないですか………」
「そうだ。確かに今までは十分な水を用意してきたからな、その心配もなかった………だが、今は節約しなければならい状況だ。理由は分かるか?」
タイサは目の前にある荷馬車の半分を占めている巨大な黒鉄球を蹴りつけた。
「こいつのせいだ、こいつの!」
「隊長おおぉぉぉう! 何て事をっ! や、止めてください!」
鉄の塊を何度も蹴りつけるタイサを、ボーマが両手を振って慌てる。
彼の武器である大鉄球。全ての原因がここに集約されていた。鉄の塊はその大きさと重量から、馬車で運ぶようにはできていなかったのである。
ブレイダスの街を出る手前、東門から出る直前で荷馬車が軋み出し、慌てて荷物を減らす事、1時間。さらに馬を一頭増やして速度を解決させ、騙し騙しここまでやって来た。
お陰で、当初の予定以上に食料や水を減らす事になり、今に至る。
「どうして、荷台の床が抜けないのが未だに不思議でならない」
タイサは仕方がないと諦め、僅かに残った水が入っている水筒を鉄球の前に置いた。
「ボーマ、ほらお前の欲しがっていた水だ。よく噛んで飲めよ」
「隊長。それ、縁起悪いですよね、まずい奴っすよね………」
そろそろボーマの顔が震えだしたので、エコーがタイサを呼んで幕引きにさせる。タイサもその辺りを察し、ボーマに水筒を投げた。
「すまん、すまん。冗談だ」
ボーマの受け答えが毎度秀逸過ぎて、心の中で笑いが止まらない。タイサは大きく息を吸って気持ちを落ち着かせた。
馬車を走らせて二時間が経過する。
「ボーマ、あそこにちょっとした林が見えるだろう? あぁ、あの道の横にある奴だ。あそこに馬車を停めてくれ」
「ういっす」
タイサが幌から顔を出し、ボーマの後ろから指を差す。その先には舗装された石畳の道の端に、森と呼ぶには小さいが、十分な木々が集まっている場所があった。
タイサ達は、その林の入口に馬車を停めると、最後の休息がてら、街に着いてからの事を確認する。
「ここから先に進めば、恐らく魔王軍の偵察に引っかかるはずだ」
羽の生えた亜人、バードマン。鳥人間とも呼べる彼らは、小型種のゴブリンを空から運び、時には高所から飛び道具を用いて、騎士達を大いに苦しめた。さらに安全な上空から敵の位置や陣形を把握し、即座に情報を仲間に伝えてくる。
どれも人間には到底真似できない手法であり、極めて有効な戦術であった。




