⑦妹の怒り
「うおっほん!!」
タイサ達に向かって、大きな砂埃が舞い上がった。髪もなびくほどに強い風と舞い上がった小石と砂が彼らに襲い掛かる。
そこでタイサ達は、自分達が立っている場所を思い出す。
そして白黒メイド服のシドリーに視線を集める。
彼女は顔にしわを集めるように口を閉じ、眉間にもしわを寄せて目を瞑り、がっぷりと腕を組んでいた。
何度も踏み過ぎたのか、シドリーの右足の地面だけが窪んでいる。
「そろそろ、こちらの話をしても良いだろうか?」
「「「あ、はい」」」
タイサ達はその場で小さく頷いた。
シドリーは溜息と同時に組んだ腕を解くと、右手の親指を立てて、やや上向きの背後を指す。
「城壁にいる彼女は、お前達の知り合いか?」
タイサがシドリーの指す方向を見上げると、門の上の城壁でタネガシマを構えているカエデの姿があった。カエデの隣では、タネガシマの持ち主らしきゴブリンが、涙目になって必死に返して欲しそうに懇願していたが、彼女はそれを肘で押し返し、無視し続けている。
「騎士が助けに来たと聞いた時とは随分と彼女の表情が違うのだが………お前達が探しているという人間は彼女の事か?」
「………ああ、一応そうなのだが」
タイサは気まずい顔で頷き、自分の妹だと正直に話すが、シドリーは首を傾け、さらに眉にしわを寄せ始めた。
「彼女は何故怒っている? 仲間が、それも兄妹が助けに来たのならば、普通は喜ぶものではないのか?」
「普通は………そうだな」
タイサには妹が起こっている理由がある程度想像できていた。そしてその原因が、自分達にある事だという事にも気付いていた。
エコーが半歩ずつ、タイサから離れていく。
「おぃ、汚いぞ。俺から離れないんじゃなかったのか?」
「申し訳ありません、隊長。五分後からはそうします」
エコーが三歩下がった所で、タイサの頬を高速の鉄球が通り過ぎた。鉄球はタイサの背中の騎兵槍の柄に当たって砕け散り、破片の一部がタイサの後頭部に命中する。
「い、痛い………」
タイサは膝をつき、後頭部を抑え込んだ。
「兄貴の馬鹿ぁぁぁぁっ!」
門の上から風に乗ってカエデの叫びが届けられる。
「ほぉ………良い腕だ。良き狩人は武器を選ばないと聞いた事があるが、まさか人の手でそれを成す者がいるとはな。良い物を見せてもらった」
唯一人。シドリーがカエデを見上げ、その技量に頷き感心していた。
そしてシドリーが視線を前に戻すと、彼女は歩き始め、膝をついているタイサの前で止まる。
「お前達に話がある。カエデも含め、お前達の身の安全は私の名において保障する。悪いが、街まで来てもらおうか?」
タイサは後頭部を擦りながら無言で立ち上がると、顔を一度撫でるように拭い表情をつくり直した。
「………話が終わったら、無事に街から出してくれる保証も貰っても?」
疑う訳ではないがと、タイサは大げさに両手を広げ、なるべく穏やかな顔を見せる。
シドリーは、余り時間も置かずに自信をもって頷いた。
「良いだろう。お前達が望めば、そう計らおう」
彼女はタイサに背中を向け、街へと歩き始めた。
それが『ついて来い』という意味をもっている事は誰の目にも明らかであった。タイサは、エコーやボーマに顔を合わせると二人の頷きを確認し、足を前に進めた。




