③蛮族と呼ばれる者、呼ばれない者
魔王軍は御伽噺の存在であり、悪い魔王に率いられた野蛮な軍隊。人を食らい、笑いながら人の営みを破壊する。そんな話ばかりであった。そしてそれらを証明させるように、実在する蛮族達はその通りに行動してくれていた。
だが、目の前にある光景は全く逆であった。
普通に会話を交わし、笑い、料理を作る、外でも蛮族と呼ばれた者達が秩序を保ち、荷物を運び、指揮系統が整った指示で動いていた。
何故彼らは人間と戦うのか。
カエデの中で当たり前で、だが今まで見えなかった疑問が芽生え始めていた。
「どうした?」
「えっ?」
気がつけばカエデはシドリーの顔をずっと見ていた。相手から声をかけられ、ようやくその事に気付く。
「その………私達の知っている蛮族とは随分違うなって………」
カエデは、人間がもつ一般的な蛮族を簡単に説明した。シドリーは途中から眉を潜めながら聞いていたが、最後まで一言も挟まず、説明を聞き終えた頃には頷き、理解を示した顔つきにな変わっていた。
「人間達が思い描いているそれは、我々で言う四等市民の事だ」
「四等市民?」
初めて聞く言葉に、カエデは思わず四番目の市民という意味かと聞き返す。
シドリーはそうだと肯定すると、指を四本立てた。
「我々の国では、能力や社会への貢献度等によって、身分が四つに分けられている」
魔王軍77柱のように、優秀な才をもち、国家の中で指示を出す側の存在。
次に優れた技能をもち、発明や研究に勤しむ技術者達。
そして高い能力はないものの、兵士としてまたは労働者として社会に貢献している者達。
「そ例外の者達を、我々は四等市民と呼ぶ。つまり、能力もなく、責務も果たさない、努力もせず、自分勝手で他者を害する者達の事だ」
四等市民になると強制的に国外追放となり、二度と祖国の土を踏む事が出来なくなる。
「国外追放って………随分厳しいんですね」
人間の社会であっても、そこまで処される事は殆どないと、カエデは驚きを隠せなかった。
だがシドリーは、それ程驚く事でもないと続きを話し始める。
「どうせ、残ってもろくな事にならん。むしろ義務を果たしている者達の邪魔になる。お前達人間の世界では、そういう人間が社会の中で問題を起こす事はないのか?」
カエデはすぐに答えられなかった。
すぐに思い付いた世界が、王都の北区にあるスラム街だった。自分の住んでいる場所を悪く言うつもりは毛頭なかったが、問題を起こさないかと言われれば、否定出来ない。
「で、でも! 病気の人や子どもやお年寄りといった人達はどうするんですか? シドリーさんの国でも、止むを得ず働けない人はいるでしょう?」
全員が全員追放されるのは可哀想だと、全てを認められずにカエデは精一杯反論したつもりだった。




