①広場に座る男
銀髪の男は、『始めりの地』と呼ばれる集落の広間で世界を眺めていた。
先程まで人間と魔物達が互いに武器を振り下ろそうとしていたが、広場で座る男の介入によって全てが水泡に帰す事態を防いだ。
特に彼自身、積極的に止めるつもりはなかったが、余りにも近視眼な者達が騒ぎ立てていた為、少し睨みを効かせた程度にしか感じていなかった。
「大魔王様」
静かに横で立っていたコルティが、姿勢を維持しながら、視線だけを向け独り言のように語り始める。
「彼は、何故剣の呪いに耐えられるだけの体質をもっていたのでしょうか」
普通の人間は無論、多少抵抗がある程度で、あの剣の力を受け止める事は出来ない。そう作られていた。
「もしかして、彼が―――」
「いや、残念だが違う」
大魔王も、周囲への監視を続けながら独り言を返す。
「奴は、生まれもっていたのではない。与えられたのだ」
幼い頃の病気を克服する為、それを治療しようとした者の手によってある種の呪いを付加されたのだろうと大魔王は考えていた。
「しかし、それ程の呪いを与えられる者など」
コルティとは反対にいたケリケラも会話に参加する。
「そうだ」
大魔王には、呪いを与えて正体に見当がついていた。
「恐らく、こうなる事を察したのだろう。自分がいつか、そうなるだろう、と」
足を組み、膝の上で大魔王が手を組む。そして、溜息をつき、集落よりも遥か遠くを眺める。
「しかし、彼等の力ではあの方に勝てないのではありませんか?」
この時代の者が解決すべきと公言した以上、大魔王は先頭に立って介入するつもりがない。コルティは、それを前提に、この時代の存在で、呪いをかけた存在を打ち破る事は困難だと説く。
「私とコルティでさえ、敵わないのにねぇ」
ケリケラが他人事の様に肩をすくめた。




