⑥残された選択肢
大魔王の力に偽りはなかった。
シドリーはエコーの姿を見て大層驚いていたが、その後、ケリケラの翼から放たれる回復魔法で、ベットに寝込んでいた全員の傷が一斉に完治し、さらに大魔王がブエルの体に手を置き、黒い靄のようなものがその隙間から見えたと思った頃には、ブエルに魔力が補充されていた。
「………これが大魔王の力」
街の商店に残っていた服を拝借してきたエコーが、初めて見る大魔王の姿に息を飲む。
その中で、イベロスが驚きを隠しきれないまま片眼鏡をくいと動かし、今後の方針を打ち立てる。
「問題の殆どは解決しましたが、大事をとって二時間程度は休ませましょう。大魔王様の力で瞬時に移動出来るのであれば、今すぐ急ぐ必要はないのですから」
「そうだな。我々の方では馬車の確保や荷物の積み込みを………その、コルティ………殿に手伝ってもらった。いつでも大丈夫だ」
シドリーが自分の先祖をどう呼べばいいか分からず、敬称の所で少し誤魔化すようにどもらせた。
そして小さく咳払い、無理矢理説明を続けた。
「後は大魔王様の力で、タイサ達の言う集落へ移動。仲間との合流を果たす事になる」
いつしかタイサと呼ぶようになった彼女が視線を送る。
その事について、タイサ自身は特に確認する事もしなかった。
彼女の国の問題である以上、これまでの関係が保たれるのであれば、特にこだわるつもりもなかったからである。
「ああ。さらに俺達はデル達を迎えに行くつもりだ」
敵にとって、先の奇襲は確実に確実を上乗せした作戦だったに違いない。それが失敗に終わり、敵は多くの幹部を失った。新生派と帯同している中立の77柱達が、新生派の行く末や魔王派の状況をどう解釈するかは分からないが、かなりの動揺を受けた事は間違いない。タイサもシドリーもそう感じていた。
それでも数字の上では、新生派に圧倒的な分がある。最早、人が生き残る為には、そして魔王派の魔物達が生き残るには、互いに手を結ぶしか道は残されていない。
その為にはデル達の協力を得る必要がある。
彼等が率いる王国騎士団、タイサが率いる魔王派。この二つ戦力で、進軍を続ける新生派の魔王軍を討つ事が最良の選択であった。
「………決着をつける」
タイサが低く、しかし覚悟を決めた強さで呟いた。




