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Lost19 二人の魔王  作者: JHST
第十章 収束する戦果
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⑮闇に染まる

「結界が………。あんな醜いゴミのせいで」

 足を止めたフルフルが周囲を見渡し、結界が消えた事への感情を舌打ちで表現する。


 その時、空気が一瞬で凍り、そして張り詰めた。

 鉄巨兵を挟んだ位置でタイサ達を見ていたシドリーは、それを真っ先に感じ取り、目を大きくさせるなり、無意識に震え始めた唇を噛み締め、漏れてはならない感情を必死に飲み込んでいた。


「………今、何と言った?」

 加えて空気が音を立てて震えている。

 タイサは黒の剣を持って立ち上がり、フルフルを見上げた。その眼は今までのタイサの性格からは想像出来ない程に淀み、くすんでいる。

「俺の愛した女を………醜いと………ゴミと言ったのか?」

 タイサが黒い剣を軽く振るう。


 その背後ではいつしか一人の猫の亜人、バステト族が立っていた。服装はシドリーやオセと同じ白と黒のメイド服だが、二人よりも身長は頭一つ高く、毛並みは収穫前の小麦の様な黄金色で、染み一つない毛並みを波立たせる美しい姿であった。

 その亜人が悲しい表情のまま、声に力を込めて呟く。

「我らが王に繋がる近しき者よ。今二つ目の誓約が果たされました。愛する者を失い、その失意と悲しみの中でも行動せんとする覚悟と気高さ。(わたくし)、コルティは心から貴方を尊敬致します」

 スカートの裾を持ち、コルティと名乗ったメイドはゆっくりと頭を下げた。


「………手を出すんじゃぁねぇ」

「御心のままに」

 コルティは頭を下げたまま一歩下がると、両手を前に組んでタイサの言葉に従った。

 空気の振動が止まらない。

 地面の小石はまるで怯えるが如く、右往左往するように震えていた。

 シドリーはいつしか自分が呼吸をする事すら忘れており、フルフルに近付くタイサを見続ける。

「シドリー、お前も下がっていろ」

 遠くから視線を送るタイサの言葉に彼女は無言で頷き、震える足でフルフル達から距離をあけた。


「………もう一度聞く」

 タイサは三体の鉄巨兵の中心で足を止め、フルフルを見上げて改めて尋ねる。

「俺の女を………俺の愛した女性をゴミと言ったな?」

「………ひっ!」

 生物が本能的に察する感情が漏れ、フルフルの唇は無意識に震えていた。既に世界は二色から解放されていたが、タイサの持つ剣を一度味わっていた彼女は、その恐怖を思い出すかのように言葉を発せずにいた。

「絶対に………絶対に許さねぇ。絶対にだ!」

 タイサが黒い剣を掲げ、両手で握る。

「………ふ、ふざけるな! そんな………そんな小さな剣でこの鉄巨兵を斬れる訳がない!」

 感情を振り絞ったフルフルの指示で、右側に立っていた鉄巨兵が拳を振り下ろす。


「いや、今の俺なら、巨人だろうと山だろうと………全てを斬れる気がする」

 振り下ろされる巨大な拳に対し、タイサは正面を向いて黒い剣を振り下ろした。

 振った数は一度のみ。

 その場に居た全員がそう感じていた。

 だが、鉄巨兵の突き出した鋼鉄の拳は、紫色の障壁をガラスのように粉砕し、金属の腕を賽子(サイコロ)の様に細切れに刻んでいた。

 破片は地面に落ちる前に黒い霧と化し、剣に吸収されていく。


「ほらな?」

 タイサが不敵に笑って見せた。

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