⑥防御と速度
タイサの踵が地面に沈み始める。
「あの時の礼が、こんな所で返せるとは思ってもみなかったぜ………俺に勝てたら、お前の探している奴について教えてやってもいいぜ？」
牙を食いしばるアモン。
互いに押し合う盾と爪。だが、タイサは盾を傾ける事でアモンの力を外へと逸らさせた。金属同士が削れながら擦れ、盾から爪の跡を這うように火花が生じていく。
「それは良い事を聞いた。そういう事なら、さっさと終わらせてしまおう」
タイサが笑って返す。
そして盾を左下に大きく引き払うと、アモンの右爪が外へと弾かれた。だが、彼も弾かれた勢いを利用して右に半回転し、右の踵でタイサの側頭部を狙う。
タイサは咄嗟に右腕を上げて顔の横へと運ぶが、アモンが右膝を曲げた事で、蹴りが一気に加速した。
「遅ぇ！」
アモンの踵がタイサの右側頭部に入り、そのまま押し込まれるように吹き飛ばされる。
「くっ！」
首を強制的に曲げられたタイサは、無理やり押し込まれる形で後方へと吹き飛ぶ。だが、すぐに浮いた踵を地面に当て、舗装された道路を削りながら勢いを相殺していく。そして爪先へと体重を移動させ、自身の転倒を防いだ。
タイサがゆっくりと姿勢を戻し、正面を見据える。
だがそこにはアモンの姿はなかった。
瞬間、タイサは左右に顔を殴られる。
「くそっ！」
頑丈さに救われて痛みは皆無に近いが、常に殴られ続け、視界が安定しない。
「はっ！ さすがに頑丈だな！」
アモンの笑い声が左右から震えるように聞こえてくる。
タイサも左の大盾を振り回して彼の動きを牽制しようと試みるが、速度のあるアモンの前では殆ど効果がなく、攻撃した二倍、三倍と殴られていく。
少しずつタイサの足が後ろへと下がっていくが、そこで片足に硬い物が当たる。
「この犬っころが！ いつまで殴る気だ！」
タイサは大きく足を上げ、無防備宣言の為に捨てていた片手剣の鞘を踏みつけた。剣は弧を描きながら立ち上がり、偶然にもアモンの右手に当たる。
僅かだが、アモンの動きの連続性に隙間が出来た。
タイサはすかさず直立した剣の柄を逆手で握ると、そのまま右下から切り上げるように剣を抜き、そのまま斬り払った。
「無駄だ………むっ」
アモンは反射的に後方へと飛び避けて斬撃を躱すが、タイサが放った勢いで飛ぶ鞘が遅れて彼を追い掛け、アモンの左肩に命中する。
「生意気な人間風情がっ！」
痛みの内にも入らなかったが、自分よりも鈍足な相手に攻撃を当てられ、アモンが感情をむき出しに見せる。
互いに攻撃の隙を見せる事を良しとしなかった。
タイサは振り払った剣の持ち方を元に戻しながら、軌道を変えて上から振り下ろし、アモンは再度タイサに接近するや、高く上げた右足の裏で剣を受け止め、衝突の勢いを横へと払う。
剣が外に払われ、タイサとアモンの間に道が出来る。
「もらうぜっ！」
アモンが両腕を上下に広げ、ここぞとばかりにタイサの肩から横腹を挟み込むように爪で閉じこむ。
だがタイサも左盾を即座に構え、アモンの爪を上下で受け止めた。騎士の大盾はアモンの爪が上下で食い込み続けたが、その速度は次第に弱まり、タイサの腕で完全に止まる。
