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嘘ひとつ足りないだけで

作者: 高遠

 遠くの三兄が高台に立ち、私に向かって手を振っている。こちらに来るよう促されているのだ。突然、私はどうしていいか分からなくなった。夕陽がちょうど三兄を照らし、私の目に映るのは深い黒い影だけだ。その影は、彼がこちらを向いているのか背を向けているのかさえ曖昧だ。私は足を踏み出し、彼の立つ土の塊に向かって歩き始めた。

 数年後の午後、私は再び村に戻ってきた。村は山腹の平地に突き出すように作られた集落だ。15歳の時、私は大兄と二兄と共にこの村を逃げ出した。その時の風は、今日と同じく、まるで蒸し器の蓋を開けたような熱気を伴っていた。ほんの数歩歩くだけで額に汗が滲み、ズボンが太ももに張り付き、歩くたびに裾を引っ張らなければならなかった。

人が通るだけの細い山道を進み、村を後にした私たちは、夜になってようやく山を抜けた。空は月明かりに照らされ、私たちの足元に一筋の淡い道を浮かび上がらせた。太陽が再び地平線から顔を出す頃、振り返ると村はもう遥か彼方に消えていた。

 町にたどり着いた私たちは急いで所持金を確認したが、三人合わせても200元ほどしかなかった。空腹をしのぐため、黄色味を帯びた白い饅頭を一人二つずつ買い、橋の影に座ってかじりついた。大兄は坂の下に座り、片肘で饅頭を抱えながら、手元のシワだらけのお札を数えていた。もう片方の手で半分かじった饅頭を口に運びながら、突然振り返って私たちに何かを言った。だが、その言葉は私と二兄には聞き取れなかった。互いに顔を見合わせてから再び彼を見ると、大兄は喉を叩いて食べ物を飲み込んだ後、もう一度こう言った。

「屋台をやるのはどうだ?」

 私たちは全員一致で賛成した。だが、わずかな所持金はすぐに消えてしまい、残ったのは50元といくつかの硬貨だけ。手に入れたのは小さな揚げ鍋、少量の油、いくつかの香腸、そして串だけだった。

「明日の朝、石炭のかけらを拾って火を起こそう。俺たちの屋台を始めるんだ」

星がちらつく夜空を見上げながらそう語る大兄に、私と二兄は言葉なく同意した。

翌朝、薄明かりの中、二兄が怒鳴りながら私たちを叩き起こした。

「昨夜のうちに犬が香腸を二本も持って行きやがった!」

怒り心頭の二兄に叩き起こされた私たちは、家財道具を抱え、町中を巡って石炭のかけらを探した。ようやく見つけた西北角のボイラー室では、夏のせいであまり石炭が残っていなかった。私は石炭の山に登り、適当な塊を掘り起こして大兄に投げた。だが、しばらくして何かがおかしいと気づいた。人数が足りないのだ。

 その時、近くから耳をつんざくような罵声と「泥棒だ!」という叫び声が聞こえた。振り向くと、二兄が上質な石炭の塊を抱えてこちらに走ってきた。怒声を上げる住人を振り切り、私たちは急いで囲いを越えて逃げ出した。町の曲がり角を三人で必死に走り抜けた後、ようやく追っ手が諦めたのを確認した。二兄は抱えた石炭を見て笑い、大兄の怒りもその石炭の質を見て次第に和らいでいった。

東南角の小学校近くで私たちの屋台はようやく始まった。放課後には子供たちが集まり、それなりの収入を得ることができた。夜には橋の下で、稼ぎを数える大兄の顔には笑みが溢れていた。私たちはそのお金を手にして夢中で嗅ぎ、未来への希望を感じた。

だが、次第に兄弟の間には疑念と緊張が生まれた。香腸の事件、石炭の争奪、そしてお互いへの不信感。それらが静かに私たちを引き裂いていった。

ある晩、二兄が大兄に襲いかかり、私の手にあった石が二兄の頭を直撃するという最悪の結末を迎えた。その場は静まり返り、私は震える手で彼らの靴を脱がし、お金を探した。そして夜明け前に町を後にした。

 三兄が再び声を上げ、私はようやく現在に戻った。彼のそばへ歩み寄ると、三兄は夕焼けを見上げながら語りかけた。

「大兄と二兄はどうしたんだ?」

私はポケットから残った4000円を差し出したが、三兄はそれに目もくれなかった。彼の視線はただ、山を越えて広がる夕焼けの中に消えていった


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