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書店、漫画制作、報告。

文化祭は最終日、二日目。俺は学校ではなく、書店に居た。気持ちが落ち着かない。自分の好きを詰め込んだ壮大な長編漫画を完成させるのはやめた。面白く作れる自信がなくなった。


今は作品を多く作らなければならない。短いお話の漫画を描きたいけど、ネタのストックは長編漫画を描いてて尽きてしまったので、どんなストーリーを描けばいいか分からない。いっそ長編漫画を短編にリメイクするか?いや、同じ話を連続で続けたくない。新たなネタをインプットしようと、書店に足を運んだが、何の成果も得られませんでした。

せいぜい得られたのは尿意だ。トイレに行かねば。


「じゃあ自分を描けば?」

五里霧中な状態は後期の授業まで続いた。そのことを高橋に話したらそう返された。

「自分をモデルにしろってこと?なんかそれって読んでる人に嫌われない?」

「そんなことないよ。花垣くんって好かれそうっていうか、『共感』されそうだし。」

「含みのありそうな言い方だね。」

「どんな媒体でも、人気があるコンテンツは必ず『共感』という要素があるよ。異世界転生だってそうさ。」

異世界転生なら俺もたまに読んでいる。世界観が変わり映えがしないから、最近は控えている。

「ああいうのを好む奴はとにかくストレスを好まない。転生で自分の都合にいい世界に入り、そこでの人間関係は美女ハーレムばかりで、友達をつくろうともしない。ライバルキャラは作れっての。」

高橋の描く手は止まらない。むしろ、怒りを燃料に、スピードが上がっていく。

「お、おい?」

「敗北は序盤やプロローグ以外であえて描かない。難しい表現は厳禁。世界観が完全にMMOとかRPGといった一昔前のゲーム。人気が出る理由はわかるけど、感情的に納得いかない。あと」

彼女の愚痴は止まらない。トラックに親でも殺されたんか?さっきからすごい殺気ムンムンだぞ?


別の女子に話しかけられた。

「高橋さんってそんなに饒舌だったっけ?」

「話をしたのはつい最近だけど、話そうと思えば、結構話すよ。ちゃんと人の話を聞いてくれる。」

「ふーん。」

何か言いたげだな。何もやましいことなどないよ。


「とにかく!」

高橋が怒鳴るように結論づけようとする。

「あ、はい。」

「手っ取り早く面白く描くなら『共感』が大事!その『共感』を得るためにはそれなりに読者像を想像していくことから重要だから!」


読者像か。今までは何となく、自分をターゲットに当てはめてはいたが、そもそも自分がどんな人間かあまり自覚できていなかったかもしれない。手を止めて、うんうん唸るのも効率が悪い。さっきのアドバイスの通りに、自分がモデルの主人公を登場させて、短編漫画を描いてみるか。物語を進めるには目標が必要だ。目標は漫画家になること。じゃあそれを叶えるきっかけは何にしようか?ここは自分の身近にいるものがいいか。猫にしよう。じゃあその猫と出会ったきっかけはこうで…


楽しいが、前に描いた長編漫画とは違った楽しさ。

長編漫画を描いていた時は、読者像が曖昧だったから、自分の嗜好を全部入れたい強迫観念があったけど、こうして誰かを喜ばせるために書こうと思うと、何を描けばいいか、ある程度狭まるから描きやすい。楽しいというより楽だな。

こういう味気のなさも嫌いじゃない。

「高橋さん、この前言ってたイベントって何日後にある?」

「三週間後、だから一作は作れるかもね。」

「頑張るか。」



その夜。

「ってなわけで、そのイベントで持ち込みに行くわ。」

「そんなこと、いちいちお父さんに言わなくてもいいから。」

「自分が頑張ってるってアピールしたいんだよ。」

「あ、でも、ちょっと待て。そういえば…」

お父さんが何かを思い出す。スマホで誰かと電話していた。

「もしもし、お兄ちゃんだぞ。お前、三週間後あたりの同人のイベントに参加するってSNSで言ってたよな?そうそう、なんかそこの編集部に持ち込みするんだって。だから、うんうん。じゃあよろしくー。」

少し嫌な予感がした。


「…相手、誰?というか何を確認したの?」

「弟が、お前の叔父がそこのイベントに出展で参加するらしい、丁度いいことに。接客を手伝ってくれたら、タダで会場に入れるって。同じ業界にいるんだ、叔父に挨拶ぐらいはした方がいいぞ。」

「接客をやるの?」

「コネとか使えるもんがあったら使え。その方が自分のためになるぞ。同人の雰囲気というのも勉強しろ。それともなんだ?何かやましいことでもあるのか?」

「いや、別に。」

「じゃあ行ってきな。」

本当は気まずい。心の中で、叔父の事をバカにしてた時期があった。

何かイザコザが起きない事を願おう。

この小説の作者です。

今回は短めです。

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