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文化祭開催、友達からの精読と批評、弟子入り。

「さん!に!いち!スタァートォーー!」

校内全体で雄叫びが上がる。文化祭が始まったらしい。


ホールではオープニングイベントで盛り上がっている。俺はその様子をスマホで見る。今年から文化祭はオフラインだけではなく、オンラインでも開催されており、動画サイトで中継やラジオなどをやるらしい。同時接続数の表示は七人。わー盛り上がってるー。


今、2人1組で作品展示の案内役を任されている。うん、静かだ。俺を含めて3、4人しかいない。何が起こるわけでもないから、暇だ。その暇を潰す為なのか、パートナーの女子は漫画を描くことに集中していた。話しかけても、何も反応がない。すごい集中力。常に描いていて、ペンの速さから何か自分をも熱くさせる凄みをなんとなく感じさせる。それに比べ俺は退屈だ。落胆もした。なまじ興奮が大きかっただけに、落差が激しい。


暇だから作業風景でも眺めていくか。

やはり、クラスの中ではダントツでうまい。授業の課題をこなすだけで、こんな綺麗な絵をあんな速さで書けるものだろうか。そもそもこんな人入学時にいたっけ?名前も知らない。クラスメイトの名前を覚えていないのは流石にやばいか。


特徴的な絵柄だったので、それをと似た絵柄の展示イラストを見つけることが出来た。やはり上手い。作者名の欄には、「高橋沙織」と書かれていた。名前を聞いて、少し思い出した。高橋、あの人か。レクリエーションの自己紹介で声が小さすぎてマイクが拾えなかったあの子だ。あの人も他と同じようなレベルだったはずなのに。どこで差がついたんだ?


「花垣、おじゃまするぞ。」

そんなことを考えていたら、俺に話し掛ける声がした。

佐川とその後ろに委員長がやってきた。

「おぉ!どうぞどうぞ!入って入って〜!」

「ほら、地下の模擬店でお前の昼飯買ってやったぞ。たこ焼き食いな。」

「ありがと委員長!あとで食べるね!」

「もう委員長じゃないから。俺の名前は…」

「無粋なことを言わずに、ここにある作品全部、適当に観て回ろうぜ。」

「花垣くんに佐川くん、君たちねぇ…まぁいいや。」


「早速だけど、花垣!お前の作品ってどこにある?」

「漫画の方はあそこの机で、イラストの方は掲示板のどっかにあった気がする。」

「じゃあ漫画の方を見てみるか。」


佐川は俺が描いた漫画原稿をまとめたファイルを手に取る。

「え、重っ。」

重いだろー。何ページあると思ってんだ?68Pだぞ?

読み始める。佐川の顔がだんだんと表情が苦悶に歪んでくる。序盤にそんな表情をさせるシーンとかってあったっけ?ページをめくる頻度がだんだん多くなってきた。

読み終わり、続けて委員長も読む。同じような過程で表情が歪む。


「花垣。」

「どうだった、どうだった?」

「感想を言う前に質問。ストーリは途中だけど、こっからの展開はどうなるの?」

「ん?」


いや、ネタバレにはなってしまうものの、友達の質問にはちゃんと応えないとな。俺はこれからの展開や結末、その面白さについて語った。

「…てな訳で、伏線を回収しまくって面白くなってくるのよ!」

佐川と委員長は感想を言うのを躊躇しながら、アイコンタクトをとる。

委員長は一度深呼吸する。


「内容薄くない?」

「え。」

思わず固まった。

誰かが吹き出す音がした。多分おまえだな、高橋。

佐川も同調するように息を合わせる。

「まぁ確かにそうだよな。盛り上がり方が単調で退屈だった。もうちょい内容を圧縮して、エンディングまで含めて30Pで済ませられない?」

「これから面白くなるんだってば!」

ため息をつく佐川。

「花垣、伏線回収のための前振りを作るのはいいけど、そこまで読ませる為の対策くらいは少しはしようぜ。序盤3ページでかっこいいアクションシーンをバーン!とか。」

だから、これから…。俺にだって言い分があるんだぞ?


「じゃあ、ここにある中で一番面白かった漫画はどれなのよ?」

「そりゃもちろんあれでしょ。」

「あれだな。」

二人は同じ漫画を指差した。高橋が描いた漫画だった。


「正直、ジャンル・テーマ自体は俺の好みではなかったが、キャラや演出といったいろんなモノを利用して、最後まで面白く読ませようという気概を感じた。」

「概ね同意。」

二人に近づいて小声で話す。

「…わ、賄賂でも受け取ったのか?」

彼らはため息をつく。


「花垣が作りたいモノはだいたいわかる。だけど、それは基本的なことができてから作るモノだ。まずはセオリーってやつをあの子から学ぶべきだ。」

高橋を睨もうと振り向いたら、彼女は少しそっぽを向いていた。嬉しそうに照れてるのか?腹立つ。

「とりあえず、感想ありがとう。文化祭、楽しんできてねー。」

震わせた声で取り繕った後、下唇を噛んだ。


二人が教室から去った後、一人が座れる分の距離を置きながら、高橋の近くに座る。そして、睨みながら聞く。

「高橋さん、聞いてました?」

「少ししか。結構な言われようだったね。ちなみに私はいつだって金欠だから。」

結構聞こえてるじゃねぇか。

「確かにその量のページを描いたのはすごいよ。作品しか見ない一般人はその努力は考慮しない。君の友達は多分間違ったことは言ってないよ。」

「わかってますよ。数少ないダチの言うことですから信頼できる。」

「持ち込みは信頼できるか分からない人にああいう感じで言われるよ。」

心にグサっときた。というより、セロテープで繋ぎ止めていた心がプレッシャーによって自壊した感じだ。

頭を下げた。

「あの、漫画について教えてください。正直にこれ以上、漫画で傷つきたくないです。」

「自分で勉強してください。」

食い気味の即答、そしてまさかのトラウマワード。頭に響く。いいだろう、今回は納得してやる。不敵に自嘲の笑みを浮かべるしかできない。


「花垣さん、あなたの漫画の世界には読者がいない。人気作品と呼ばれている作品は、現代社会とリンクしている時が多い。」

「そのあたりも含めて、教えて欲しいのです。このままダラダラやってたら、性根が腐って、何もかも終わってしまいそうなんです。」

「そっか、私も担当がついて忙しいし、他の人のことなんて私の知るところじゃないし。」

「た、担当!?だったら、尚更引き下がれない!」

彼女は根負けしたのか、少し唸る。

「じゃあ……ん〜。」

何か対価を求めようとして、沈黙。

「じゃあ?」


「文化祭、一緒に回って。」

デートってことすか。

この小説の作者です。

正当な評価を下してくれる友達がいる花垣くんが羨ましいです。

私だって感想が欲しいです。

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