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授業、課題、文化祭準備。

漫画の専門学生の心情は楽しさと苦しみの相克で成り立っている。


授業は楽しい。漫画制作やシナリオなど、やりたかったけどやったことのない事を学ぶのは本当に楽しい。あまり縛りが設けられておらず、自由に描いてもいいので、絵や描写に自分の好きな要素をてんこ盛りにできるのは昔までのストレスの捌け口になって気持ちがいい。


気持ち良くなりすぎると、ストーリーも尖ってしまうが、それを読む先生も受け入れてくれて、その上で「こうすればもっと良くなるんじゃない?」と親身になってアドバイスをくれる。本当に優しい。ちなみに、かなりの確率で猫を飼っている。作業中の雑談をするほどに親しみやすくなるのに時間が掛からない。

順風満帆!…とは行かないのが専門学校だ。


とにかく課題が多い。

六つほど授業科目があり、一つの授業につき一つの課題が間髪を容れずに出されている。加えて、担任から出される隔月のポストカード課題コンペなど、一定以上のクオリティを求められる課題も渡される。質と量の両面で、課題が攻めてくるから、これがまたキツい。


二年でプロになるくらいなんだ。課題が多く来るのはわかっていたはずだ。その苦しみは高校で経験したはずだ。自分の絵は吐きそうになるほど下手だが、他のみんなも同じようなレベルの画力だった。最近、描き始めたのだろうか?こんなにも同志が多くいる事を、自分の現状を肯定するのに有効活用した。


そんな感じで入学から二ヶ月過ごしたら、ホームルームで知らせが来た。


「文化祭が始まります。」

教室は大いに盛り上がった。(盛り上がってるな、まだまだ子供だな。)とスカしてはいるものの、やはり心の奥底では、楽しみにしている自分もいる。


高校の時、一人で観に行ったのを思い出す。第一印象としては、全体的に文化祭を盛り上げるための媒体作りに気合がこもっているように見えた。ポスターはイラスト科が描いててとても綺麗。アニメ科が文化祭のPVを作っててなんかそれっぽい。そこに声優科が声を当てたり、文化祭全体の司会として引っ張っていた。


そんな雰囲気の中、漫画科は作品展示の他にコスプレと女装。もっとこう漫画科を宣伝するのに、なんかこう…無かったのか?今思うと、良くも悪くも内輪ノリと宣伝を兼ねていてバランスが良い。


今年もその例に漏れず、漫画科は教室で作品展示をするらしい。

そこで一人のクラスメイトが質問する。

「私たち、そんなに作品作ってないよ?」

「これからの授業で作るんだよ?」

担任の受け答えは即答だった。もしかしたら食い気味だったかもしれない。

直後、教室はざわめく。


俺は別に動揺なんかしなかった。忙しいのは今に始まった事ではない。今までの課題を全てこなせば、展示する作品のストックは多くなる。ならば、文化祭のために出来ることは一つ。質を良くすることだ。漫画制作の授業では16ページ以上の読切を描くという課題が出されている。俺はそこで、映画を一本作れるくらい壮大な話を描く事を決めた。


最近見たハリウッドや日本のアニメの映画を参考にして、ストーリー、ネームを練ったところ、漫画を完結させる為には、110ページ以上を書かなければならない。起承転結に当てはめて、どうページを削ってもこれだ。


「こことここ、あとこの辺りは削ってもいいかもね。」

ネームを拝見した授業担当の先生はストップを掛けた。

「どうしてですか、先生!」

「そ、その壮大な話は後回しにして、まずは小さい話を作ろうか。飼い主と猫の日常でもいいからさ。制作において完成のハードルは少しずつ上げていけばいいからね。」

「いえ、大丈夫です!ハードルは必ず越える為にあるものです!アドバイスありがとうございます!それでは、下書きに入ります!」

計画変更。この課題は他を疎かにしてでも、完成させなければならない。

大丈夫、俺なら出来るはずだ。俺なら


…出来なかった。

夏休みが明けてもなっても完成できない。少なくとも60P以上は完成まで描けた。それでも半分も描けていない。寝る間も惜しんで、制作を進めたかったが、Tシャツのデザインを作ってた時以上に、体力は限界を迎えていた。記憶の中では机に座っていたのに、気がついたらベッドの上で寝ている日もあった。


それに担任は情けをかけたのか、前期の分はそれで大丈夫だから、続きは後期から描いて、夏休みに出したモノを含めた他の課題に集中してほしいと告げられた。ちゃんと睡眠はとってねとも言われた。惨めだ。自分が情けなく感じる。


「自分はもっとできるのに…」

クラスメイトたちに作品が完成させられない事に愚痴をこぼしてしまった。

「でも私たち、読切1作品、だいたい16ページどころか2ページも描けてないから。そのなかで3作品分描けるのはすごいって。」

「え。」


「…そ、そーかなー。」

同志の褒め言葉に思わず、ぎこちなさそうに頬が緩んだ。おれ、すごい?ぐへへ。自分の努力をそう言ってくれると嬉しい。これからも仲良くしよーね。


少し時間が進み、電車の中で、絶望的なクラスメイトの課題の提出状況に顔をしかめた。いやちょっと待て、今って夏休みが明けて9月だよな?16ページ漫画の課題を出された時期って6月だったよな?…大丈夫なのか?


いや他の人のことなんて気にしてられない。とりあえず、今描いている漫画は後期に完成する事に賭けて一旦制作停止、文化祭の作品展示には進捗として出す事にして、ポストカードや夏休みに出された他の課題も終わらせた。


気づいたら文化祭準備期間且つ開催前日だった。授業は休みの代わりに、文化祭の設営をしている。校内のほとんどが整ってきて、仕事が少なくなってきたので一年生の作品を展示している教室を観に行ったら、展示に使ったスペースの半分以上は自分の作品だった。みんなまだ課題終わってねぇのかよ。


複雑な感情を抱えながら、楽しいはずの文化祭を迎える。佐川に招待のメッセージを送ったところ、委員長も一緒に来てくれるらしい。楽しみで興奮はしていたが、今までの疲れが溜まっていたのか、気絶するように寝た。



ちなみに、文化祭後のクラスで聞いた話によると、落ち込んでた時に褒めてくれた女子を含め、同じ道を歩むはずであるクラスメイトの3割は、文化祭が始まる頃には、既に学校をやめてたらしい。以降、その人達とは一生会うことはなかった。神隠しにでも遭ったのだろうか?そもそもその学生は本当に存在していたのでしょうか?その真相は神のみぞ知ることである。

この小説の作者です。

気づいたら消えているクラスメイトは多かったです。

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