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卒業式、入学式、レクリエーション。

ある人はみんなで笑いあい、ある人は啜り泣き、ある人はそれをが慰める。

今日は別れの悲喜交々を作り合う卒業式。この別れに対する感じ方は人それぞれだろう。

俺はというと、

「卒業できたぁーーーーーあーーーーーッッ!」

こんな感じで、留年もせず無事に卒業できた事に歓喜の咆哮をあげていた。感動する卒業式の雰囲気をぶち壊すほど歓喜していた。せっかく専門学校には合格できたのに、テストで赤点を獲りまくって、留年になったら本当に笑えない。留年回避の道のりは涙なしでは語れないほどに厳しかった…あれは、委員長に頭を下げたところまで遡る…


え、そこはどうでもいい?なんで、専門学校に合格するまでの過程を語らないからって?書類を書いて出願するだけだっただけだったから、詳細を言ってもカタルシスもクソもなかったよ。テスト勉強の方がまだ面白く語れる自信がある。だから、そっちを語らせてもらうよ。


直後、自分語りを阻止するように頭をチョップされる。

「花垣、自分の世界に浸るのも程々にな。」

「すまん佐川、つい興奮しちゃって。」

「卒業式で吐くセリフじゃねぇなぁ。」

佐川は四年制の大学に行く。オープンキャンパスに一緒に行ったあの日から、一念発起して誰もが聞いたことがあるいい大学に行く為に、テストだけではなく受験の勉強もしていたらしい。俺には真似できない。


「そういえば、委員長はどこ?」

「あっちで、みんなから写真撮影を頼まれて、それに付き合ってる。ちなみに、委員長には話しかけないほうがいいぜ。」

「え?」

「え、じゃねぇ。少しは自分の胸に聞け。お前のテスト勉強に付き合ったおかげなのか、第一志望の国立を落としてるからな。」

「あー…」

「浪人もする選択もあったはずだが、噂では親に止められたらしいで。話し掛けるなら言葉を選びな。」

開いた口が塞がらない。専門学校を認めてくれた俺のとこはまだ良心的だったのか。


委員長に近づく。俺に気付き、笑顔で睨みつける。目の奥には憎しみが滲み出ているかもしれない。

すぐに頭を下げ、

「委員長からの手解き、ありがとうございました!」

呆気に取られた彼は何か言おうとしていたが、その前に、そそくさと逃げる。

「じゃあね、佐川!いつか連絡し合おうね!」

「お、おう…」

佐川は(まじかこいつ)という表情をしていた。


俺は楽しくもなかった高校に別れを告げた。

卒業式で泣かなかったのは、これからの楽しみがあるからだ。



そして、入学式!

「新入生の皆さん、ご入学誠におめでとうございます。エンタメという素晴らしい世界への第一歩を踏み出した皆さんを心から歓迎します。皆さんの熱意と才能が、この学校で大きく花開くことを確信しています。エンタメ業界は今、大きな変革期を迎えて…」

退屈だ。好きな分野の話を聞くのは苦痛ではないが、やはり学校長式辞という題目はまぶたを重くさせる。大事な式典だから、頭を殴って目覚めさせる戦法が通用しない。


「漫画家として最も大切なのは、『表現したい』という強い気持ちです。

自分の心に正直に、そして読者の心に響く作品を描き続けてください。

また、漫画家になるためには、並外れた努力と忍耐力が必要です。そして…」

まぁ仕方ない、ここは目を閉じておこう…


「勉強しましょう。」

シャキーン!

多量のカフェインをはじめて摂取したような目覚めが走った。また頭に響く。


「本校では、皆さんが安心して学べる環境を用意しています。教員一同、皆さんの成長を全力でサポートしていきますので、遠慮なく質問してください。」

式辞の言葉がはっきり聞こえる。これじゃあいつ心の地雷を踏まれるか分かりたくもない。これ以上自分が傷つかないように、心を仏にした。

仏の心は入学式が終わった後も続いてしまい、家族と一緒に撮った写真を後から見たら、また間抜けな顔をしていて、すげぇ恥ずかしかった。


翌日、ガイダンスが始まる。

教室に入ると机の上には道具やテキストがある。RPGでいう初期装備だ。

全てのペン先に対応しているペン軸、漫画でしか見たことのないペン先、本屋で見たことがあるテキスト。何もかも俺の心を興奮させる。早く描きたい。


座って開始時間まで待っているとどんどん人が入ってくる。割合としては、日本人と留学生で半々だ。やはり、日本のエンタメ業界の盛り上がりは海外にも波及しているから、それを学びたい人も多いだろうか。


あと、意外にも女子の方が多い。

全ての椅子が埋まり、近くの席を見渡すと、コミックコースはなんと俺以外全員女子!これは気を引き締めなければ!あ、彼女を作るとか、そんな下世話な話はしないぞ?

学校の予定としては通常授業の前に、レクリエーションで水族館に行くらしい。これは多分女子とデートできるやつ!


そしてレクリエーションが始まる!

行きのバスで初めて自己紹介、そして自分の叶えたい夢を語るらしい!


自己紹介の順番が自分に回る。

「コミックコースの花垣大輔です!将来の夢は…」


いやちょっと待て、「漫画家になること」なんて

将来ヒットする漫画家の素養として、ここで大きく目標を掲げたり、面白いことを言う度胸が大切なんじゃないか?じゃあ何が、面白いのだろうか。まずは、原作をアニメ化させるのは壮大で面白い。

つまりもっと面白くするために俺が言える目標はこうだ。

ここまで思考するのに、コンマ1秒。


「自分が描いた原作のアニメにカメオ出演する事です!」

決まった。これにはもう拍手喝采。


パチ、パチパチ、パチ、パチ……シーン。

滑ったようだ。前もこんなことがあったのではないかと、トラウマを呼び起こされようしたが、それを塗り潰すように、「よろしくお願いします!」と叫ぶしかなかった。なぜか涙が出そうになった。お前らの顔と名前、覚えたからな。


水族館についた!

さぁ、同じ道を進む女子達よ、俺に話しかけてこい!


「マグロってうまそうだなー。」

結局、一人で水族館を回っただけだった。


今日一番楽しかったのは、水族館近くにある少し古い筐体ばかり揃えているゲームセンターで遊んだこと。クレーンゲームは一台も無く、豊富なジャンルのゲームを揃えていたので、三時間もあるバスまでの暇つぶしにはちょうど良かった。


これが専門学生の姿か?

専門学校生活に、少し懐かしく感じる一抹の不安を覚えた。

この小説の作者です。

ものすごくスペースを取るクレー射撃のゲーム、面白いです。

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