親からの反対、体育祭、仲直り。
「お前の希望にはまだ納得できない。」
専門学校のオープンキャンパスに行ったことをお母さんから聞いたお父さんに反対された。
「どうしてさ!あそこに専門学校に行ってプロになった実績があるじゃないか!」
「確かにそういう事例はある。実を言うと、お父さんの身内、というかお前の叔父が月刊誌で連載中なんだ。そして、お前が希望している専門学校を3年在籍していて、卒業していたんだ。」
「え、いろいろ初耳なんだけど。」
「聞かれてないからな。最近まで口止めもされていたし。その人が、専門学校はやめとけ。普通に大学に行ったほうがいい。の一点張りでな。」
またか。
「身内だしそれなりに業界での経験があるから、一定の信頼はある。いつか、そいつの漫画見てあげな。絵はうまいぞ。」
絵「は」うまい。月刊誌の名前を出さないあたり、相当なマイナー雑誌だったんだろう。多分、名前を聞いても分かんないんだろうな。普通は人気の少年誌になることを目指すだろうに。
専門学校に入ってからもいろんな挫折もあっただろう。
でもそれは、その叔父に才能がなかっただけでは?俺は違う。最初からトップを目指す。最初から最後まで全力疾走さ。
「お前にそれなりの熱意があることは百も承知だ。」
「だったら!」
「だがな、お前の目指そうとしている道は茨の道だ。やりたいのなら、行動で覚悟を示してほしい。」
今日はこれ以上進路について語り合うことはなかった。平行線のまま終わってしまった。
学校でスマホアプリの漫画を観ながら、唸っていた。
お父さんの言いたいことはわかる。目に見える実績を作ればいい。でも何をすればいいかわからん。佐川にも何か意見を聞きたいけど、あいつはそもそも専門学校には否定的だからな。何言われるか分かったもんじゃない。
というか、進路について考えるのもいいが、学校にも集中しないと。これから次のテストで挽回をしなければいけないのに。
「もうすぐ体育祭があります。」
いややっぱ今は楽しむ事に集中しよう。
「体育祭では、自分たちでデザインしたクラスTシャツを作る必要があります。」
うん?
「だれか率先して作りたい人はいませんか?」
誰も手をあげずに立候補しない。
これだーッ!
「はーい!俺がやります!」
「え。」
佐川だけが口をこぼした。
委員長は少し苦笑いをした。
「一人だけじゃ不安だから、僕の推薦として佐川くんも一緒にやろうか。」
「え、まじか。」
佐川、俺もお前と同じ気持ちだぞ。
「まぁいいか。」
放課後、俺と佐川と委員長の三人は顔を見合わせる。
「委員長、花垣、とりあえずはよろしく。」
沈黙。
「あれ?君たちってそんな雰囲気悪かったっけ?夏休み前そんなんじゃなかったよね?」
「ちょっと、学校見学で一悶着あってな…」
「佐川くんが漫画専門学校をバカにしまくってたんですー!」
少しでも優位に立とうと彼を貶める。
「おい花垣、そこまで言う必要ねぇじゃねぇか?というか委員長、はっきり言って、こいつにシャツのデザインを作らせるのは反対だ。こいつがデザイン係に立候補したのは専門学校に反対する親の説得材料を作るためだけだろ?クラスのことなんか一ミリも考えちゃいねぇ。」
「なんだと!お前だって!」
食い気味に口から暴言が出る前に、委員長は俺たち二人の口を塞いだ。
「とりあえず話を戻そう!とりあえずだ!この僕らの会議は体育祭をいい思い出にするためにしようぜ。」
「ふん。」
「すまん、委員長。つまらんイザコザに巻き込んじまった。」
「それじゃあ僕のプランを聞いてくれ。花垣くん、君は来週までにデザインの草案を十個以上作成、完成ごとに逐一写真で報告してね。」
「え、じゅ、十案も⁉︎」
思いもよらない数字に狼狽えてしまう。
「更に一週間を使って僕と佐川くんで二案に絞って、そのあとはクラス投票で決める、で、今回の会議で、ある程度デザインの方向性を擦り合わせておこう。それでいいね?」
「いいね、異論なし。」
「いや俺の仕事の量多くない!?えっちょ、十もそんな作れねぇよ。委員長は俺の味方だろ?そこら辺なんとかして少なくできないのか?」
「質を突き詰めるなら、まず量からだ。こういうのは砂漠の中から宝石を探すやり方が定番さ。そう考えたら、これでも少ない方だよ。」
まさかの委員長からの裏切り。まぁ元々味方につくとは言ってなかったが。
反論を言いあぐねていると佐川が不敵に笑う。
「もしかしてぇ〜作れないって言いたいのかぁ〜?」
「いや俺、いっつも赤点を獲っててばっかりだから、デザインだけに集中できないしさ…。」
「授業で寝てなきゃ、平均以上はを獲れるだろ。」
佐川の顔から笑みが消え、無慈悲に痛いとこを突く。
委員長は何かを言いたがっているのか必死に言葉を選ぼうとしていた。
「いやぁ…あのねぇ、その、ねぇ…」
そして諦めたかのようにため息をついた。
「勉強しろ。」
瞬間、喧嘩してしまった夏休みのトラウマを呼び起こしてしまう。またあの一言が頭の中に響きまくる。相当間抜けな顔をしていたのだろう、佐川は俺の顔を見ないように後ろを向いて笑いを堪えていた。
委員長は強烈な発言をした事に驚いて、優しく説得しようとする。
「いや、僕も一緒に勉強付き合ってあげるから…ある程度はいろんな面で僕もサポートするから…」
専門学校に入るためだ、背に腹は変えられない。覚悟という概念を肌で感じた。やってやんよ。
そして、つつがなく委員長の予定通りに進み、Tシャツは完成した。睡眠時間は犠牲になって、目の下が黒い。体育祭当日は眠くてほとんど参加できなかったけど、みんな楽しそうだから別にいいや。そんなに運動神経がいいわけじゃないし。
「お疲れ。ほれ、労いのドリンク。」
「ありがと。ほんとTシャツのデザイン一つを作るにも大変ってよく分かったよ。」
「実際は十倍以上は大変だろうしな。…やっぱ行く気なのか?俺からしたら邪道だぞ。」
「今更だよ。止めないでくれ。」
「まぁいいや、俺も言えた義理じゃないけどよ。全力でやることで諦められる夢があるって事も最近わかったからな。頑張れよ。」
そして、体育祭を見に来てくれたお父さんにも熱意も伝わり、仕方なさそうに専門学校に行くことを納得してくれた。これでまた夢へ一歩近づける。あとはテストで赤点を獲らないように委員長から勉強を教えてもらわないと。
この小説の作者です。
専門学校に行く場合は、ある程度親からの信頼を築きあげておきましょう。