五年後、同窓会、再会、勉強しろ。
あれから五年が経った。今日も漫画を描いている。今は個人作家で生計を立てている。
専門学校を卒業してから、SNSに漫画を載せつつ、出版社に持ち込みを続けてはいた。だが、担当がつかず、フォロワー数は二桁万人までいった。俺はSNSに注力した方が早く稼げると踏んで、出版社の持ち込みは打ち切った。
最近は漫画産業は進んでて、自分が描いた漫画の電子書籍ストアへの配信代行してくれるサービスも出来て、その印税で億万長者までとは行かないが、地に足がつく程度には稼いでいる。勧めてくれたナオさんには感謝したい。
なのに、なんか心が満たされない。
座り作業ばかりだったので、ストレスも溜まり、全身に脂肪も溜まり、お尻が少し痺れる。何か作業とは全く別のことをしたい気分だ。
決めた。散歩をしよう。そろそろ外に出ておかないと、浦島太郎になった時の衝撃が受け止められる限度を超えてしまう。時間の感覚を外に合わせておかねば。それじゃあどこ行こうか。本にすらお金を使わず貯まってきたから、たまには書店に行こうか。
半袖で外に出た。超寒い。今は9月始めだが、季節は移り変わり11月並みの寒さに気温は落ちている。迂闊だった。俺は外に出る気力を無くさない内に急いで、クローゼットから出した上着を着て、外に出た。何気ない散歩道はいい。雨が降った後の湿気や、走る車の喧騒も心地いい。
書店もいい。表示をするコンテンツを自分が観たいモノに合わせるネットは違って、その書店が推したい思想や全体のトレンドが渦巻いている。まるで情報の蠱毒だ。自分の疑問に答えてくれそうな本もすぐに見つかる。デメリットを挙げるとしたら、暖房が効き過ぎているので、上着を着るのが億劫になる。上着も少しは重いので、手荷物としてはものすごく邪魔だ。
なんとなく後回しにしていた、漫画コーナーを観に行ったら、どこかで見たことがある絵柄のポスターイラストが見えた。同じ絵柄の平積みされている漫画は既に10巻以上はある。作者名をみたら「てぃーさおり」。一緒の学校に通っていたあの高橋が描いた漫画だ。大きくなったもんだ。
驚いたのはそこからだ。そして、横に貼ってある書店の店員が作ったPOPには、「アニメ化決定」という文言があった。スマホで高橋のSNSを調べたら、その漫画のアニメ化決定、再来年の一月から2クールで放送されるらしい。お知らせの内容から察するに、あの人は文字通りの人気漫画家なんだろう。興奮を抑えながら、ささやかに再投稿をし、返信欄に激励のメッセージを送った。
虚しい。他のみんなはどうしているんだろうか?人間というものは、同じ地球の上で生きている。生きていれば、人との関係は断ち切れはしない。それでも、これほど他人とのつながりが希薄に見えてしまうのは、大人として仕方ない事なんだろうか。
家に帰り、スタンドデスクとバランスボールを衝動買いしようと、ネットショッピングをサーフィンしていると、専門学校からのお知らせが通知として来た。来月に同窓会をやるらしい。すぐに参加申し込みをした。
久しぶりに学校に来た。道中の商店街は店が変わって様変わりはしたが、こっちは全然変わっていない。人がいない、電車の音がうるさいところもそのままだ。懐かしい。さぁ、同窓会を楽しもうではないか。
すいません、楽しめていません。
食事はチェーン店で買ったのでハズレはなく美味しいが、独りだ。何の為にこのイベントに参加したか分からなくなっていた。教職の方と一期生が主導なので、学校ができてから初めての卒業した参加者もいて、年齢層は幅広い。横のつながりはほぼないので、話し掛ける相手がほぼいない。いても授業でお世話になった先生方ぐらいだ。この後、同窓会恒例のビンゴ大会があるのだが、楽しめるかな?
何もない事で、逆に疲れてきた。うんざりしてたら、服の裾を少し強く引っ張られた。振り返ると、サングラスを掛けて、マスクをしていた女性がいた。その格好だけで芸能人を彷彿とさせる。俺の知り合いに芸能人はいない。顔を見ようと目線を下げたら、その角度に対するノスタルジーが沸いた。マスクを外すと見知った顔が現れた。高橋だ。途中から来てたらしい。
「あの、その、久しぶり。」
「来てくれたんだ、高橋さん!久しぶり!」
「あ、うん。そう、久しぶり。相変わらずだね、花垣くん。」
少しぎこちない。SNSでの私明るいですよアピールの強いノリに慣れすぎてしまったからな。人気になってしまって、もう自分のことを忘れているのでないかと心配をしてしまったが、杞憂だった。高橋は、口数の少なく自分からあまり話しかけようとしない昔の高橋のまんまで安心した。
会話もなくモジモジしているうちに、自分のことを知って欲しいと他の人が這い寄る。ほとんどの人が自分の事を見ていない。個人漫画家とアニメ化が決まった漫画家の差がはっきりわかった。
高橋は目線を俺に向ける。
「あ、えっと。」
「後でな。今は顔を売ってこい。」
「うん、二次会で。」
一旦高橋とは離れた。あいつも大きくなったもんだ。俺ぁ羨ましいよ。あそこまで辿り着けるかな。
高橋が移動した分、人が掃けた。ただ一人、男の子が残っていた。
「あの、ダイスケさんですよね?いつも、漫画読んでます。」
自分のペンネームで呼ばれた。彼は自分よりも頭一つ小さい。オドオドと緊張しているし、肩をすくんでいて、可愛らしい。そして涙ぐんでいた。
「…どうしたらあなたの様な漫画家になれますか?」
俺の様に、なれるか。彼は少し焦っている様に見えた。生き急いでいる焦り方だ。おそらく、今年の卒業生だろう。肌もピチピチだ。
「アイデアを考えても何も思いつかず、ペンも握らなくなって半年が経ってしまって…このまま僕、ダラダラやってたら、何もかも腐って、何もかも終わってしまいそうなんです。あと一年以内に何か結果を残さないと、親からの援助が切られそうで…。」
「落ち着け落ち着け。俺からの回答は単純明快だ。」
その回答は昔、俺の足を引っ張っていた。しかし今は、一歩を踏み出す為の勇気を出す為に、いつも言い聞かせている魔法の言葉。俺は真っ暗の道に標となる光明を差す様にアドバイスをした。
「勉強しろ。」
俺と同じトラウマを味わえ。
漫画専門学生は勉強しろ!・完。
この小説の作者です。
初回から読んでくれた方も、初回から読むのがめんどくさくてエピローグだけ読みに来た方もここまで読んでくれてありがとうございます。小説の読み方に貴賎などありません。
この小説はとある賞のために、投稿をしました。
2024年9月に小説執筆に力を入れてから3万文字以上の長い小説を書くのは初めてでした。今の時点で自分の書けるスケールの大きい題材はないかと記憶を探った結果、「漫画系の専門学校」に至りました。
12話で終わりにしたのは、賞の特典の中に『アニメ化』という文言があったので、1クールアニメとして放送されることを想定して、それに合わせたからです。私には『2クール以内で完結しないアニメは地雷』という偏った思想を持っています。
個人的に心残りに思っていることは、専門学校のクラスメイトを華やかにできなかったことです。雰囲気だけを学びに来たワナビとか、アニメで日本語を覚えた留学生と書きたかったです。このあたり詳しく書いちゃうと、母校に出入り禁止を喰らいそうなので、書けなかったです。
とりあえずは改めて言わせてください。本当にここまで読んでくださりありがとうございました。