卒業式、吐露、別れ。
ある人はみんなで笑いあい、ある人は啜り泣き、ある人はそれをが慰める。今日は別れの悲喜交々を作り合う卒業式。この別れに対する感じ方は人それぞれだろう。
俺はというと、
「あー終わったー。」
少し無気力になっていた。感動する卒業式の雰囲気をぶち壊すほど腑抜けていた。
せっかく専門学校には入学できたのに、学校外の活動をしすぎて課題を提出せずに溜め込んで、留年になったら本当に笑えない。留年回避の道のりは涙なしでは語れないほどに厳しかった…あれは、ナオさんに頭を下げたところまで遡る…
え、そこはどうでもいい?なんで、漫画家になるサクセスストーリーを語らないからって?漫画を描いてはSNSに載せるの繰り返しだったし、漫画家としてはまだ成功はしていないから、詳細を言ってもカタルシスもクソもなかったよ。専門学校の課題提出の方がまだ面白く語れる自信がある。だから、そっちを語らせてもらうよ。
直後、自分語りを阻止するように頭をチョップされる。
「そういうのは程々にね。」
「すまん高橋、つい黄昏ちゃって。」
「卒業式で吐くセリフじゃないね、うっすい感動ね。」
「そうなるでしょ。今もSNSで交流しているし、予定が合えば気軽に会えるからな。フフッ。」
高校の時のことを思い出して、吹き出してしまった。
「どうしてそこで笑うの?」
「いや前にもこんな事があったな思っただけ。こっちの事。」
「そう。」
ずっと心に留めていた疑問を吐き出した。
「なぁ、専門学校ってなんのためにあるんだ?」
「ん?藪から棒に。」
「専門学校に通ってから漫画のことについて色々学んでだし、いろいろあったけど、結局は学校外での活動の方ががよく動いてた気がしてな。」
高橋は少し唸っていた。専門学校の関係者がいる手前、言葉を選んでいるのだろう。
「そこは自主性を重んじているから…っていうのが建前なんじゃないか?」
「実際は技術だけを教えるだけ教えて、どう活用できるかはみなさんの自由で〜って丸投げだったな。」
俺は食い気味に言葉を選ばなかった。
「出発点って考えれば、なんとなく救われる感じがしない?」
これには反論できない。
「そう考えれば、俺らよう頑張ったよなぁ。そっちは連載決まりそう?」
「まぁね。公式サイトの卒業生実績に私のペンネームが載る日が近い。そっちもSNS、頑張ってるよね?」
「いや、やっと万に行ったところだよ。まだまだ。」
「SNSの拡散力を舐めない方がいいよ。そのうち話題になれば、指数関数的に人気になっていくモノだから。」
「そうだね。でも、稼げるほどの拡散力は持っていないから、しばらくはどこかしらアシスタントをする感じかな。」
「他の最高峰と比べたら、まだまだ感じがするねぇ。」
「そうだなぁ。」
沈黙。
「写真とったら帰るか!お互いやらなきゃいけないことが多いし!」
「そ、そうだね!」
写真をパシャリ。
駅に着くまで、同じ道だったので歩いた。道中、高橋から啜り声がした気がする。
別れてしばらく歩いた後、自分を呼ぶ声がした。
「花垣くん!」
振り返った先には、仁王立ちをしている高橋。何か叫ぼうと深呼吸をする。
「勉強しろ!」
高橋は、涙を隠す様に満面の笑みだった。頭の中に声は響かなかった。その言葉はもうトラウマワードではない。この二年でいろんな視点でいろんな世界をみた。それを通して、勉強することの大切さだって学んだ。
俺は感謝を伝えようと、何も言わずに拳を掲げた。そのあとは全力で手を振りながら、角を曲がった。高校の時よりは青春ってヤツを楽しめたかもしれない。
卒業をしたとて、漫画家までの道もなってからの道も末永い。むしろ、卒業してからの方が時間が長い。専門学校は出発点。なるほど、ロマンが溢れる叙情的な哲学だ。ならば、スタートダッシュが肝心だな。
この小説の作者です。
次回で最終回です。