慰労会、SNS。
「今日は新刊の完売、だいちゃんの勇気ある持ち込み、そして今日も出会い。それら全てを祝そう!乾杯!」
「「カンパーイ。」」
同人誌即売会が終わり、俺と高橋はナオさんの慰労会に誘われた。なお、俺達学生は未成年、ナオさんは飲めないという理由で酒を飲まずに、ノンアルで済ませている。飲み会ではなく食事会である。何となく、居酒屋さんには悪いとは思っています。
「今日は僕の奢りだから、じゃんじゃん頼みなよ。」
「ありがたくご馳走になります。早速たこわさをいただきます。あ、もずくの天ぷらもお願いします。」
「渋くていいチョイスだねぇ〜!」
俺はまだ料理は注文していない。食事の喉が通る気がしない。
「ちょっと、少しは食べなよ。ここでありがたく食べれる分だけ食べておかないと。」
「編集部からの評価に相当応えたのだろう。俺も一回もうまく行ったことなんてなかったから、気持ちはわかるよ。それに今は食事ではなく食事会。こういう時は食事じゃなくて会話を楽しもうぜ。」
「それもそうですね。じゃあ花垣くん、なにか私やナオ丸さんに聞きたいことがあったりしない?話題にするからさ。」
一旦深呼吸する。
「…恥を忍んで聞きたいんですけど、SNSで漫画載せるってどうやってやるんですか?」
「そういえばこの人、SNS漫画について何も知らなかったらしいですね。」
「フィルターバブルって恐ろしいね。まぁやり方を説明する前に、まず、検索してみて。」
「はい。ま、ん、がっと。」
アプリが出してる漫画ほどではないが、それなりに面白い。それも大手の出版社とは違う方向性の面白さだ。というより、SNSのルール上、載せる画像の枚数に制限があるので、一コマだけだったりビフォーアフターなど、独自に進化をしているのがわかる。
「個人的におすすめの漫画はね〜…って言わなくてもいいか。」
ちょっと静かに。今いいところだから。もう俺は夢中になってるんだ。完全に沼の様にハマってしまった。
「どうしてナオ丸さんってSNSで漫画を載せる様になったんですか?」
「効率がいいというか、楽なんだよね。」
「なんか納得できます。大きいですよね、そこは。」
「SNSが教えてくれたのは、漫画のページの量と面白さは比例しないこと。まぁでも場合によっては出版社の後ろ盾がないから、アニメ化などのメディア化が難しいのが難点らしいけどね。まだ始めたばかりだから、まだわからんけど。」
「そこもちょっと大きいですね。ねぇ花垣くんってレクでの自己紹介で、原作をアニメ化させてそこでカメオ出演するとか、夢を語ってたよね?」
急に背中を刺す様にトラウマを掘り起こされ、むせてしまった。ナオさんはジョッキの中でウーロン茶を吹いた。それを言われるのは想定していなかった。
「い、今それ言うかぁ〜!?」
「ハッハッハッ!いいね、大ちゃん!俺も同じこと言ってたよ!人間誰しもそうやってカッコつけたくなるよねぇ!今もそれ目指してるの?」
「別に今はどうでもいいだろ!」
話があらぬ方向に行きそうになったので、わざとらしく咳き込んで、話を強引に進めた。
「ナオさんってどこのSNSで投稿してるんですか?」
「画像が投稿できて、人が多いところは全部やってるよ。君たちが使ってるSNSでも僕のペンネームを検索したら出てくると思うよ?」
「へ〜…あ、本当だ。」
フォロワーの表示は1.5万人。相対的には多い方だ。
「流石に疎いよ〜…一応フォローしてるから。」
「あれま。ありがと〜。これも何かの縁やから、フォローしてあげるね。ペンネームって何?」
「『てぃーさおり』って名前です。」
「あったあった。フォローっと」
「てぃーさおり、あぁ聞いたことある。やっぱり、俺フォローしてる。」
「へ〜。意外とそういうのに敏感なんやね。」
「なんかたまに面白いイラストを描いているな〜と思ってフォローしてた。」
「嘘、え、名前何してるの?」
「『フラワー大輔』にしている。」
「そんな売れない芸人みたいな。」
「偏見!それで売れてる人だっているよ!勉強しろ!」
「強がり大ちゃん。」
なにかを見た瞬間、苦虫を嚙みつぶしたような表情をしていた。
「どうした?ない?」
「あー、見つけた。ごめん、ミュートにしてた。」
「なんで?」
「君のフォロー欄、金配りや投資系などのほぼ詐欺確定のアカウントばっかりだし、お金配りの投稿しか再投稿しないから、怪しすぎるよ。」
「さ、詐欺!?でも専門学校の友達ぐらいは相互でフォローしあって…あれ、フォロワー0人⁉️専門学校奴らから全員ブロックされとる!」
「それはもうアカウントごと全部消したほうがいいなぁ、大ちゃん。多分だけど、詐欺集団のカモリストに入ってると思うよ。」
「か、カモぉ…っ?」
一周回って笑うことしかできなかった。二人の言われた通りに、今あるアカウントは削除をして漫画やイラストを載せる目的のアカウントを作った。億万長者というもう一つの夢は絶たれてしまった。
「写真でもいいから、載せておき!」
慰労会が終わり、家に帰って早速、原稿の画像を撮った。後は画像をSNSに投稿、というところであと一歩が踏み出せず、ベッドで寝転びヤキモキしていた。
新聞を読んでいるお父さんに質問していた。
「なんで、ナオさん…叔父さんは専門学校はやめとけって言ったんだろう。」
新聞をたたむ音がする。
「お父さん、素人だからよく分からないから、漫画家に向かう道は歩く距離や時間が違えど、一つだけじゃないって言いたかったんじゃないかな。」
「俺と同じで、口が不器用だからな、いろんな道を見て欲しかったし、同じ目的に向かうものを傷つけたくなかっただろう。そこら辺はもう大人だし、わかってくれるだろう?」
「そっか。そうだね。」
俺はそう言いながら、下書きとしてためていた漫画の投稿をSNSに載せた。
翌朝に起きた時には、100以上の反応が返ってきた。反応した人の中にはナオさんだけではなく、高橋も入っていた。
翌日、学校でお礼を言ったら、
「別に君のためじゃない。君が描いた漫画が取り上げるのに値しているだけの話。」
とそっぽ向いてた。逆に素直だな。
俺を評価してくれる人が身近にいるんだ。
これから漫画家として頑張れそうだ。
この小説の作者です。
居酒屋の好きなメニューは枝豆です。