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番外編 マリオンの娘

マリオンが18歳の時に王宮侍女になったのは、子爵令嬢として少しでも良い結婚相手を見つけるために両親から勧められたからだった。

マリオンも王宮がどのような所かを社会勉強として知っておくのも悪くはないと、そんな軽い気持ちで王宮に上がったのだが、それはすぐに後悔に変わった。


王妃付きの侍女になったところまでは良かったのだが、ある日、王から寝所に呼ばれそのまま愛人にされてしまったのだ。


マリオンの立場では断ることもできず、王妃にも申し訳なくて身の置き所がなかった。


三月もすると懐妊し、側室になることは拒み王宮から去ることになったが、王妃の目は誤魔化せず、実家にいならがら毒を盛られ、道を歩けば馬車に轢かれそうになったり、階段から突き落とされそうになるという、まさに身の危険しかなく、このまま自分はお腹の子と一緒に殺されてしまうのだと諦めかけていた。


そんな時、王の護衛騎士だったアルビエール伯爵令息が自分を匿ってくれることになった。

マリオンは以前から彼に仄かな想いを抱いていたのだが、このような形で彼の庇護を受けることになったことが、酷く惨めに思えた。

寡黙なアルビエール伯爵令息は、必要最低限のことしか話さないが、誠実な人柄であるのはわかっていた。


匿ってもらえているだけでありがたいことなのに、このまま彼の妾にしてもらえたら、どんなに幸せだろうなどと、つい身勝手な願いを抱いてしまう自分を恥じた。


マリオンは寵愛を受けてはいたが、王のことは少しも愛してはいなかった。

愛してもおらず、好きでもない人の子を産むことに後ろめたさと悲しみが募るばかりだった。


アルビエール伯爵令息には妻子が既におり、そのような立場で自分を匿うことは重荷であり、王命とはいえ彼の奥方にも申し訳なく思っていた。


自分と子どもはこれからどうなってしまうのだろうか?

もうすぐ産まれる子が男児だったら·····、継承争いに巻き込まれてしまうのだろうか?


既に王には二人の王子がいるけれど、それでも私の産んだ子は敵と見なされてしまうのだろうか。

できるならば、女児が産まれて欲しい。そうすれば少しは危険が薄れるだろうから。


マリオンは臨月になると、不思議な声を聞くようになっていた。


『女の子だから安心して』とか『その子はトマと結婚するんだよ』とかが、どこからともなく聞こえてくる。


( トマって誰のこと?)


マリオンは出産が近くなって自分が少しおかしくなっているのか、幻聴かもしれないと、その事は誰にも話さなかった。


難産の末に産まれたのは女の子で、王よりも自分に似た特徴があってほっとした。

自分と同じ髪と瞳の色ならば、実家か親戚で育ててもらえる筈だ。

陛下にそっくりでは難しいことだろうから、それだけでも良かったと思った。


『マリオン、お疲れ様、よく頑張ったね』

『さあおいで、一緒に行こう』

『心配はいりません』


銀色に輝く妖精達とまばゆい天使がやって来て、マリオンは笑顔で光の世界へ旅立った。



アルビエール伯爵令息が様子を見に来た時には、既にマリオンは息絶えていて、その横でマリオンが産んだばかりの赤子が何も知らずに気持ち良さげに眠っていた。


赤子は目を覚ますとむずがって泣き、差し出したアルビエール伯爵令息の指をムギュと力一杯握り締めた。


王の密命とはいえ、彼女を引き取るのを妻が嫌がったので、マリオンの娘はマリオンの妹が引き取ることになった。


後年、このマリオンの娘が自分の婚外子であるトマの妻になろうとは伯爵は夢にも思わなかったことだろう。


この時密命のとおり伯爵がマリオンの娘を引き取っていたとしても、実は同じ結果になっていた。

彼らは生まれる前から夫婦になることが妖精達によって決められていたからだ。


トマがオベール男爵家を継がなくても、マリー·ルーの婿としてアルビエール伯爵家へトマが婿入りするか、アルビエール伯爵令嬢としてブランシュ伯爵家へマリー·ルーが嫁ぐかの他の道がちゃんと用意されていた。


どの道を選んだとしても、二人は互いが伴侶になることが覆ることはない。


それはマリオンの娘もその伴侶となるトマも、妖精の守護を受ける一族の末裔だからだ。


妖精達の決めた夫婦にとって、王族や性悪母など単なるモブに過ぎないのだ。



(了)

これにて完結です。


シリーズを通して読んで下さり本当にありがとうございました。


皆様にもお気に入りのキャラができていたら嬉しいです。

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