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3. 戦火

マリー·ルーが16歳になった頃、アルナリア王国と隣国リーバンとの国境沿いで戦争がはじまり、トマは騎士として出兵した。

一年過ぎてもまだ終わりを見せず、姉のイザベルは戦火が広がる前に嫁ぎ、マリー·ルーだけがブランシュ家に残された。


マリー·ルーは家事から農作業までを、理由をつけて逃げる母の代わりに請け負った。

その後も戦火は広がっていき収拾がつかなくなるにつれて物価は高騰、経済は逼迫し、男手を戦争に取られて、農作物の収穫量も激減し、ブランシュ伯爵家は没落の危機に貧するまでになっていた。


窮した母アガタは実家のムーア子爵家へ自分だけ避難してしまい、ブランシュ家をマリー·ルーに全て押し付けた。

それでも有能な執事達と協力し、なんとか堪え忍んだ。

長引いた戦争の影響でブランシュ伯爵家の分家や親族は軒並み没落し、戦争に駆り出された当主や令息は戦死し、残るは戦地にいるトマのみとなってしまった。


隣国との無益な戦争は四年でようやく終結した。


大半の領地を失い、使用人も半数以下になり屋敷内で農作物を作ってなんとか飢えをしのいでいたマリー·ルーの元へ、負傷した兄のトマが帰還した。


トマの帰還を知ると母はそそくさと伯爵家へ戻って来た。


兄の婚約者アナイスは、トマの帰還を待てずに婚約を白紙に戻し、半年前に別の貴族へ嫁いでいた。


「好きでもない婚約者を三年も待てたならば上出来だ」と、婚約破棄をトマは怒りもしなかった。

ブランシュ伯爵家と分家の惨状を知るとトマはしみじみ呟いた。


「俺は悪運だけは強いな」


戦地で何度も危険な目に遭ったが、それでも生き延びたとトマは語った。


「お兄様が生還できて本当に良かったです」

「苦労をかけてすまないな」


足に大怪我をしたトマは松葉杖をついていたが、半年も経つと以前通りの生活が送れるようになった。


戦後処理に追われ国はまだ復興途中だったが、ブランシュ家はその後一年経つと徐々に安定しはじめ、領地運営も軌道に乗せる目処がたってくると、母アガタは思わぬことをマリー·ルーに言い出した。


「あなた、もうじき22歳になるんだし、トマと結婚したらどう? それなら式や持参金も必要ないからね、フフフ。そうよ、そうしなさい!」

「お、お母様、私達は兄妹ですよ!?」


マリー·ルーは母が血迷ったのかと驚きながら聞き返した。


「あなたは私が産んだ子ではないわよ」


マリー·ルーは耳を疑った。


「そ、そんな······」

「マリオンという高級娼婦があなたを産んだの。それを私が当時の恋人から頼まれて引き取ったのよ」


なぜそれを母が今まで黙っていたのかよりも、自分の本当の親の所在を知りたかった。


「······私の本当の父は誰なのですか?」

「さあ、それは知らないわ、あの人、複数の男がいたからねえ」

「······アルビエール伯爵ではないと?」

「そうね、多分違うわね」


自分の子どもではないから、母は自分にこれまでずっと無関心だったのだと思い至った。

姉達とは全く対応が違っていたからだ。


「マリオンという方は今どこに?」

「あなたを産んでしばらくして死んだわよ」


どうでもよさそうな口振りでアガタは答えた。


「私が本当の兄妹ではないことは、お兄様達は知っているのですか?」

「誰にも話していないから知らないわよ」


マリー·ルーはこの伯爵家の家族にどれだけ真実というものがあるのかまったく見当もつかない。

どうしてこんなに偽りだらけ、嘘まみれの家族で平気なのだろうと改めて義母アガタの無神経さが恐ろしく思えた。


自分が高級娼婦の娘だというのが事実ならば、トマは決して自分とは結婚はしない筈だ。

娼婦にならなければならなかった人にも事情があるとは思うが、それでも兄が最も嫌う種類の女性、何人も愛人を持ち男を手玉に取る女性から自分は生まれているのだ······。


結婚どころか、もうこれまでのような妹としても見てくれなくなるかもしれない。


この家で唯一家族として親身に接してくれていたのはトマだけだったのに······。

アガタの語った残酷な事実にマリー·ルーはうちひしがれた。


その日の夕食の席で、アガタはトマにその事実を暴露し、結婚話までして兄を驚愕させその場をも凍りつかせた。

マリー·ルーは食事の途中だったが、耐えられずに席を立って自室に閉じ籠った。


私の血を分けた家族、自分の本当の家族はここには一人もいないのだ。


それでも今まで育ててもらったことは感謝しなければならない。


マリー·ルーは最低限の荷物をまとめ屋敷を去る支度をした。



侍女が部屋にあったマリー·ルーの置き手紙を発見したのは次の日の朝だった。

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