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2. 女嫌い

婚約者を持ったとはいえ、兄のトマは相変わらず女嫌いだった。

母には近寄らず、妹達にもそっけない態度を取った。

それでも唯一兄らしく面倒を見たのはマリー·ルーに対してだけだ。


「ルー、お前だけは母上のようにはなるなよ」


姉達は母に似たのか、身持ちが良いとは言えなかった。


姉達は自分の意中の相手や婚約者と上手くいかないと、他の令息に慰めてもらうとか、恋愛相談と称して他の男に媚びて取り入る、二股三股など両天秤にかけるようなことを繰り返したために、上の姉リズベスの婚約者には浮気を疑われ破談寸前になり、慌てて身辺整理をして事なきを得た。


「恋愛の相談なら、同性の友人か目上の同性にすれば済むことだろう?それを男にばかり相談するのがそもそもおかしい!」


あわよくば他の男に乗り換えようとする下心が見え見えだと、兄のトマは姉達を非難した。

上の姉リズベスが結婚前に妊娠したのも、「恥じ知らずだ」となじった。

トマは貞操観念の乏しい女性を特に嫌っていた。


また、何でも泣けばそれで大目に見てもらえるだろうとか、泣けば許してもらえるだろうという打算が透けて見える女性、都合が悪くなるとすぐに弱者や被害者を装おう女性を毛嫌いした。


マリー·ルーもそのような女性の狡さは嫌悪を感じていたが、兄の女嫌いは母のせいだとわかっていた。

女嫌いというよりも、過度の女性不信だと兄の未来をマリー·ルーは心配していた。


そのせいか女性に対して厳しいとか冷たいという評判が自然に出来上がっていた。

婚約者のアナイスも兄の顔色を窺うような、どこかおどおどしていたのは、きっとそれはトマのせいなのだろう。


年頃になってもマリー·ルーの婚約者を見繕っては来ない母を不審に感じていたが、いつも男装し、夜会だけでなく茶会にすら参加したことのないマリー·ルーは、世間ではブランシュ伯爵家には実は存在していない娘ではないのかと疑念を抱くようになっていた。


「お前の実の父とおぼしき人を見てきたが、お前はそんなに似ていないぞ。俺やリズベスらの父らしき人ともみな似ていないからな。母上(あの女)の言うことは当てにならないから、真に受けるなよ」


婚約者と参加した夜会から帰って来たトマは、母への軽蔑を滲ませてマリー·ルーへ言った。

「······では、私の本当の父は誰なのでしょうか?」

「自分の子にそう思わせる親ほど最悪なものはない。俺の父も実際は誰なのかね、まったく呪わしいことだ」


トマはそう吐き捨てた。


「母上も母上だが、父上もどうかしているのだよ」


母が産んだ誰の子かわからない四人の子どもを、全員実子扱いにした父はもうこの世にはいなかった。


誰の子かわからないにしても、自分達のその実の父の血を引いた兄弟姉妹が他の貴族の家にそれぞれいるということだ。

子ども達はお互いにそれを知らずにいるのはなんと理不尽で残酷なことか。

自分の罪深さを自覚できない者とは縁を結びたくないものだ。


そんな状況を平然と作った無責任極まりない母、自分の不貞の負の遺産を放置する母をトマは許せずにいる。

生涯自分の出自を偽らないとならない我が身を呪ってさえいた。


トマは世間慣れしていないマリー·ルーを彼なりに大切に扱い、彼女だけはアガタとその娘達のようには穢れて欲しくなかった。

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