1-2 私はばあちゃんの誇り
「ばあちゃん。何をくれるの?」
「夢ちゃんにはばばあの服なんか興味ないだろうけど、これをあげるよ」
ばあちゃんはハンガーラックからクリーニングの袋に入った赤色のコートを出してきた。
「こればあちゃんの宝物じゃん」
「あんたにあげるためにクリーニングしたんだよ」
これは確かじいちゃんからのプレゼントだったはずだ。
「これだって」
「あんたは大切だよ。他のと比べれば、夢ちゃんはこのばばあの相手をしてくれるからね」
「私はして当然のことをばあちゃんにしているだけだよ」
「その気持ちが嬉しいよ。着て見な」
ばあちゃんのコートはちょうどだった。
「温かい」
「冬にこれを着な、彼氏と遊びに行って良し。コートもきっと喜ぶよ」
「ばあちゃん、ごめんね。汚されちゃったよ。ごめんね。ばあちゃん、ごめんね」
魂が抜けた様に呆然とした日々だった。昼職には行ったし、生活は経済的な面で崩壊することは無かったが、心ここにあらずだった。
コートは乾いたし汚れは落ちている。もしかすると臭いが残っているかもしれない。
ばあちゃんのコートなのに男の臭いを嗅ぐのが嫌で、家の中にいれたものの鼻を近づけることは出来なかった。
夢には罪悪感か、ばあちゃんが出て来た。
「ばあちゃん、ごめんね。仕事で汚しちゃった」
「仕事かい? どうして」
「体売ってたら、男に体液かけられた。ごめんねこんな仕事をして」
ばあちゃんは飲んでいた温かいお茶を畳に置き、まっすぐ笑顔でこう言った。
「いいよ。夢ちゃんを守ってくれたんやろ? 夢ちゃんにあげてよかったよ。じいちゃんが守ってくれたんね」
「だって、もっと着たいと思って、でも男も許せないし」
「不埒な男はじいちゃんに頼んで苦しめてやるよ。それにしても夢ちゃん可哀相だ。変な男にいじめられた」
「でもこんな仕事しているから」
「立派じゃないか。自分で稼いで自立している。夢ちゃんがどんな仕事をしていてもばあちゃんにとっては誇りだよ。偉いね、偉いね。あんたは偉い子だ」
「ごめんね、ごめんね」
「これからもばあちゃんが守ってやる。いつも思いだしてくれてありがとうね。コートは処分しなさい。じいちゃんとばあちゃん怒らないよ」
起きたらまずはじいちゃんとばあちゃんの位牌の前のお茶を取り換える。
供えるのはいつも2人が好きだったクロワッサン。供えていると夢を思い出してきた。ばあちゃんありがとう。
コートは迷ったが、近所のお寺でお焚き上げをしてもらった。コートが燃えていくのは苦しかったが、お焚き上げをする前の日に狙ったようにばあちゃんが出てきて「ただ捨てるだけじゃないのね。ありがとう」と、言われたので勇気が湧いた。
灰の一部をもらった。小瓶に詰め込んだけど、一緒にお焚き上げをした他の人のものかもしれない。
それでもばあちゃんは喜んでくれると思う。きれいな花を買って帰ろう。私はばあちゃんの誇りだ。胸を張って。