君はコスモスを見たか
第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞投稿作品
下記指定キーワードを全部使用して書いてみた。
「5年/コスモス/雪山/暖炉/温泉/帽子/たまご/和菓子/金魚/クエスト/パスワード/三日月/文化祭」
雪山の麓の森に隠れるようにして建つ山小屋の中、私は暖炉を前にあの日の事を思い出していた。それは5年程前の事、当時大学生だった私が文化祭の準備をしていると、目の前に黒い帽子を目深に被った痩身の男が現れ、私に向かって「お前にクエストを与える」と言った。
「クエスト? つうかアンタ誰?」
「三日月の晩にのみ現れるコスモスの卵を食べろ」
「コスモスの卵?」
「あれを見ろ」
そういって男が指差す方向には雪山があった。
「あの山の麓の森にそれはある」
「何が?」
「パスワードは『隣の芝は良く客食う芝だ』だ」
「は?」
男は私の質問に答えぬままにその場から去った。本来であれば受ける必要など無い意味不明なクエスト。何故かそれを引き受けた私は早速雪山へと向かうも何をどう探せばいいのか分からず、ただただ歩き回っていた。すると温泉、所謂野湯を見つけた。条件反射的に服を脱ぐとザブンと湯に浸かる。すると先客がいたようで、見ればそれは白髪の老婆。折角なので私はコスモスの卵を知っているかと聞いてみた。
「お主! 何故それを知っとる!」
「え? いや、変なおじさんにそれを食べろって言われて……」
「そうか。で、パスワードは」
「パスワード? あ、確か『隣の芝は良く客食う芝だ』かな?」
「よし、ほな儂について来い」
老婆と私は温泉から出て着替えると、老婆を先頭に森の中を歩き始めた。そして暫く歩いた後、老婆は小さな祠の前で足を止めた。
「見てみい」
「は?」
「今日は三日月。これはその夜にしか現れんのじゃ」
見れば祠の中には卵らしき物体が鎮座していた。
「あれがコスモスの卵?」
「そうじゃ。だが卵の中にコスモスが入っている訳ではない。それを食べればコスモスが目の前に現れるのじゃ」
「あれを私が食べるんですか?」
「そうじゃ」
老婆は卵を手にとると自分の頭にぶつけて殻を割り、「ほれ」といって私に見せた。そこには金魚の形をした和菓子と形容するに相応しい物が入っていた。
「食え」
「これを?」
「ええから早う食え」
「……」
意を決しそれを口の中に放り込み咀嚼する。見た目が和菓子なその中身は餡こだろうと勝手に想像していたが……
グチュリ、グチャリ、ブチュチュ
「?!」
「見えたか?」
「な、何が……オェッ」
「コスモスじゃよ。無限に広がるコスモスが見えぬか?」
確かにコスモスが見えた。だがそれは和菓子のフリした本物の金魚を食べる事により見えたコスモス、つまり食中毒による幻影だったのだ。
2023年12月31日 初版
やはり1000文字制限だと難しい……。因みに「コスモス」には秋の花以外にも秩序や調和、そして宇宙といった意味もあるらしく今回はそれを利用。ちなみ対義語はカオス(混沌)。又、金魚はフナの仲間らしく食べられないこともないらしく実際に食べた人がいるようで、その結果をWEBの方で報告しているのを拝見しましたが……