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追放酒場  作者: 木こる
9/10

第九杯 劣等勇者の逆恨み

「アレックス、お前をこのパーティーから除名する」

「──えっ?」


 守護騎士ガーレン、回復術士リリア、攻撃術士メルティに囲まれながら

勇者アレックスはパーティー追放を言い渡された。


「…いやいやいや、おかしいだろ!

 僕は勇者だぞ!? リーダーだぞ!?」


 アレックスを見つめる3人の目は冷たい。相当やらかしたのだろう。

 落ち着いた態度のガーレンが事務的な口調で連絡事項を伝える。


「王国には報告済みだ 今日中には使者が迎えに来る

 俺たちはここでの任務を終えてから帰還する

 お前の裁判までには間に合うだろう」


 ガーレンに続き、リリアとメルティが罵倒を浴びせた。


「ゴミ勇者!」「ドブ野郎!」


 アレックスはガーレンが放った単語に驚愕した。


「さっ… 裁判ってお前……! 僕が何したってんだよぉ!?

 僕はまだ成人したばかりだぞ!? ギリギリ子供だぞ!?

 裁判のやり方なんてわかんないぞ!?」


「はあ…… 聖剣を質に入れただろう?

 あれはお前の所有物ではない 国宝だ

 勝手な真似をしてタダで済むと思うな」


「金の亡者!」「ドブ野郎!」


 “聖剣”とはかつて世界を救ったとされる、伝説の勇者が残した剣である。

そんな大層な代物を質に入れるとは、同情の余地がない。


「いやいや、それにはワケがあってさ〜

 緊急で入り用になっちゃったから仕方なかったんだ…

 報告はお前の勘違いだったって事にしといてくれよ

 頼むよガーレ〜ン 僕たち仲間じゃないか〜〜!」


「競馬で全額使い果たした埋め合わせだろう?

 そんなものが聖剣を手放す正当な理由になるわけがない

 国民の血税で買い戻したんだ 無罪放免などあり得ん」


「無計画!」「ゴミ勇者!」


 ちなみに“勇者”とは千年以上前に“人魔大戦”を終結させた人物を指し、

彼の子孫たちも血統を証明できれば勇者を名乗る事が許されている。


「でもさでもさ!

 僕が埋め合わせしてなかったら、野宿する羽目になってたよねぇ?

 誰も風邪引いてないのは僕のおかげだよ? それはわかるよね!?」


「その時点ではまだ聖剣が無い事に気付いていなかった…

 もし金が無くとも野宿くらいできるに決まってるだろう

 お前と違い、俺たちは平民出身の冒険者なんだからな」


「口が臭せぇんだよ!」「金の亡者!」


 最近は貴族が冒険者になるケースが増えてきているとはいえ

その9割以上は平民で構成されており、この業界の主役は彼らだ。


「頼むよガーレン! この通り謝るからさっ!

 勇者の称号剥奪されたら家追い出されちゃうよ〜!」


「本来お前は死刑になる運命だったが、

 俺が便宜を図ったおかげでそれは免れた

 命があるだけ幸運だと知れ

 家から追い出されるくらい些細な事だろう」


「足も臭せぇんだよ!」「無計画!」


 ガーレンの言葉に押し黙るアレックス。反省しているのではなく、

死刑になりかけたと知って恐怖したのだろう。体が震えている。


「そんな… 僕はもう、終わりなのか……?

 たった一度の過ちで全てを失ってしまうのか……!?」


「お前は若い まだやり直せる

 勇者ではなく、冒険者として出直せばいい

 ……外で馬車の音がしたな リリア、見てきてくれるか?」


「ええ、構わないわ」「口が臭せぇんだよ!」


 ガーレンの予想通り、王国からの使者が到着したようだ。

彼らは酒場の従業員に挨拶すると、すぐさま勇者を拘束した。


「うわあああっ!! ヤダヤダヤダ〜〜〜!!

 僕は勇者なんだ!! 辞めたくないよ〜〜〜っ!!」


「アレックス 自分の罪と向き合え

 後悔し、反省し、更生するんだ

 新しい自分になって帰ってこい

 きっと世界が変わって見えるはずだ」


「器が小っせぇんだよ!」「足も臭せぇんだよ!」


 アレックスは抵抗しようとしたが思うように力が入らず、

50人の屈強な兵士たちに囲まれて逃げ場がない事を悟った。


「……あ〜、もうだめか〜 これまでか〜

 …なあ、連行される前に言っておきたい事があるんだ

 僕からの最後の願いだと思って受け取って欲しい」


「……わかった、聞こう お前たちもいいな?」


「ええ、構わないわ」「ええ、構わないわ」


 アレックスは仲間たちを真剣な眼差しで見つめ、号泣しながら訴えかけた。


「…これから僕は何年も牢屋で暮らす事になるんだ!!

 きっと楽しいことなんて何もない!! 地獄のような生活だ!!

 だからその前に ……リリア!! メルティ!!

 僕の子を作ってくれ!! どっちでもいいし、両方でもいい!!

 釈放される頃に、ちょうど手のかからない年齢になってるはずだ!!」


「アレックス… お前という奴は……!

 もういい、兵士! 連行しろ!!」


「ドブ野郎!」「器が小っせぇんだよ!」


 アレックスの願いは聞き入れられず、兵士たちは速やかに連行して行った。



 ──静けさを取り戻した店内で、3人はカクテルを注文して席に着いた。


「……今回の勇者もとんでもない奴だったな

 いい加減、血統勇者制度なんて辞めてしまえばいいのに

 …リリア、あいつはどんな勇者に見えたか聞かせてくれ」


「ドブ野郎!」


「ハハ、手厳しいな

 …メルティ、この後ダンジョンを視察するから

 照明器具のバッテリー残量を確認しておいてくれ」


「ええ、構わないわ」


「ちなみにテントは1個しかないが、今夜は野宿だ

 楽しい夜になりそうだな! ハッハッハッ!!」


「ドブ野郎!」「ドブ野郎!」





 ────ヤンディール王国地下牢。


 元勇者のアレックスは手枷を嵌められたまま階段を降りていた。

前後には屈強な兵士がおり、力ずくで逃げ出すのはまず不可能に思えた。

薄暗くて周囲を見渡せず、時折聞こえる呻き声が恐怖心を掻き立てた。


「あの、いつまで掛かるんですか…?

 僕はこの後どうなるんですか……?」


 強面の兵士が振り返り睨みつける。アレックスは質問した事を後悔したが

意外にも兵士は質問に答えてくれた。


「…もう少しで到着するから我慢しろ

 貴様は金銭絡みの犯罪者の階層に収容される

 ガーレン殿の取り計らいにより死刑は回避できたようだが、

 重罪である事には変わりない 量刑が終わるまでそこで待て」


 説明が終わると兵士は向きを直して再び進み始めた。


「出してーっ! ここから出してーーーっ!!

 たまたま拾ったお金が偽物だったんです!!

 私は知らなかったんです! 本当です!!」


 声のする方を見ると、年端も行かない少女が檻の中で喚いていた。

あんな小さな子が偽造なんてできるのかと疑問に思っていると、

強面の兵士が振り返り疑問に答えてくれた。


「…あの容姿ではあるが、彼女の自宅から偽造の証拠が見つかっている

 両親も兄も既に他界しているし、使役する魔物の能力を駆使すれば

 犯行は可能と結論づけられた その魔物は逃してしまったがな……

 芝居を打って金銭を騙し取るなどの余罪が発覚している犯罪者だ」


 説明が終わると兵士は向きを直して再び進み始めた。


「違うのーっ!! 勝手に好かれただけなのーーーっ!!

 私にくれるって言った物を貰っただけなのーーーっ!!」


 うるさい女がいるなと、あまり興味を持たないで歩いていると

強面の兵士が振り返り説明をしてくれた。


「…あれは王子殿下を相手に詐欺を働いた重罪人だ

 殿下は騙されたショックのあまり一年もの間苦しまれたそうだ

 一度は破談になった元婚約者のマリアンヌ様と復縁なされ、

 今はもうすっかり立ち直られて我々も安心している

 問題は他国の王侯貴族にも同じ手口で犯行を重ねたせいで、

 どの国が裁くべきかという論争が巻き起こっている事だな」


 説明が終わると兵士は向きを直して再び進み始めた。


「出せーっ! 俺はやってないんだーーーっ!!

 信じてくれーっ!! 違うんだーーーっ!!」


 強面の兵士が振り向いた。


「アンタのせいで進まないんだよ!」


 アレックスは怒った。

(元)勇者アレックス:冒険者としての実力は普通に高い

守護騎士ガーレン:鉄壁の守りで味方を庇う前衛

回復術士リリア:後方支援のスペシャリスト

攻撃術士メルティ:広範囲大火力のアタッカー


十子メモ

50人も必要だったのかな?

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