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追放酒場  作者: 木こる
3/10

第三杯 器公用爵万令能嬢付婚与約術破士棄

「お前を「君との「パーティーから「婚約を「追放する!「破棄する!」」


「……もう一度頼む」「聞き取れませんでしたわ」


 ──珍事発生中。1つの席で2組の追放劇が同時進行です。

 私は十子(トーコ)。ここ追放酒場の従業員です。仕事なので両方観察しますが、

どちらかといえば婚約破棄のほうが気になります。昼ドラに飢えてます。


 5人いますが椅子が2つしかないので机を半分に分けて使ってるようです。

右はいつもの冒険者の追放劇、座ってる男性が追放されるのでしょう。

左には高貴なオーラを放つ女性が鎮座しており、男女が見下ろしてます。


「じゃあもう一度言うが『僕は真実の愛を見つけたんだ!』」

「……よかったな」「ありがとう!」「狭いですぅ〜」「我慢なさい」

「なんだよお前! 割り込むなよ!」「僕に当たらないでくれ!」

「店員さん、他に席ないの!? 会話混ざって困るんだけど!」


 現場は混乱しています。見てるほうは楽しいです。

今日は団体のお客さんが来てくれたおかげで満席です。


「満席じゃ仕方ねえな まあいい、お前とは『運命の出会いだったんだ!』」

「そちらの方かしら?」「……この席どうぞ」「あっ、どうもぉ〜」


 今の交代により破棄令嬢(仮)と間女が隣り合う構図になりました。


「クローディアは君と違って『いつも後ろでコソコソしてるだけだよなぁ!』」

「……お前はわかってない」「続けなさい」「言い過ぎですよぉ〜」


「昨日のダンジョンでも『階段から突き落とすなんて何を考えているんだ!』」

「……酷いな」「言い掛かりですわ」「あっ、冒険者さんなんだぁ〜」


「クローディアのような女性は『代わりなんていくらでもいるんだよ!!』」

「……そうか」「恥を知りなさい」「はい、ストーーーップ!!」


 唯一名前が判明してる間女のクローディアが待ったをかけました。


「アルフォンス様、そちらの冒険者さん、落ち着きましょう

 どちらかが喋ってる時に割り込まない、守ってください」


「ああ、悪かった 狭くてつい、イラついちまった」

「クローディア! 君はなんて聡明なんだ!」


 さっき席を譲った男性が破棄令嬢(仮)の顔を見て何かに気づいたようです。


「……あの、もしかしてあなたはフレアローズ公爵家の御令嬢、

 テレジア様ではありませんか? 違ってたらすみません」


「あら、どこかで会った事があるのかしら?

 ええ仰る通り、(わたくし)がテレジアですわ」


「…あ、自分から名乗るべきでしたよね すみません

 俺、冒険者のリオンって言います 会った事はないですけど、

 救貧院で奉仕活動を行なっているあなたを見かけた事があります

 子供の頃、世話になってた場所なんですよ ありがとうございます」


「どういたしまして でも礼には及びませんわ

 (わたくし)(わたくし)のしたい事をしているだけですから

 それに、富める者が貧しき者を救うのは貴族として当然でしょう?」


「その当然ができる人がどれだけいるか…

 貴族がみんな、あなたのような心を持っていればいいのに」


「買い被りですわ この(わたくし)に言わせれば(わたくし)など道端の小石、

 自らの命を懸けて魔物たちから市民を守っている冒険者(あなたがた)のほうが

 尊い存在だと常々思っていますの (わたくし)からも感謝の言葉を差し上げますわ」


 いいですね。捨てられた者同士で盛り上がってます。

そんな二人を嫉妬の眼差しで見つめる男性、アルフォンス氏。

チルトランド王国の第六王子が同じ名前だった気がします。

真実の愛とやらを見つけたはずなのに、なぜ嫉妬するのでしょうか。


「おい、君! テレジアには婚約破棄を言い渡したけど、

 まだ正式に決定したわけじゃないぞ! 返事もらってないしね!

 いい感じになるのは、僕らの仲が終わってからにしてもらおうか!」


 あ、そういうとこしっかりしてる人だったんですね。意外です。


「その婚約破棄、是非ありがたく受け入れさせてもらいますわ!!」

「──えっ?」


 公爵家から王家に対して破談を持ち掛けたら失礼だけど、

王家からの申し出ならそうなりますよね。


「テレジア いいのかい? 僕は君を捨てるんだよ? 悔しくないの?

 何かもっとこう、食い下がってくるかと思って練習してきたんだよ?」


「結構です 所詮は親同士が決めた望まぬ婚約でしたし、

 アルフォンス様が真実の愛を見つけたと言うのなら

 (わたくし)にそれを邪魔する権利などございませんわ

 むしろ祝福してあげてやってもいいとさえ思ってますのよ?」


「テレジア……ありがとう! 僕はクローディアと幸せになるよ!」


「それはそれとして クローディアさん」

「!」

「貴女が勝手に階段で足を滑らせた件について、何か言う事はありまして?

 今お話しした通り(わたくし)はこの婚約を快く思っていませんでした

 アルフォンス様を奪ってくれる女性を歓迎こそすれ、

 傷付ける理由なんて何一つございませんのよ?」

「やっ、それは… 勘違い… だったかもしれなくてぇ〜」


 往生際の悪い女です。それでこそ破滅する時に輝くんですよ。


「やめるんだテレジア! クローディアが嘘なんてつくわけがない!」


「では(わたくし)が嘘を言っていると?」


「それもないと思う! 君は正直だ! …って、あれ?」


 王子が頭を抱えて考え始めました。純粋な人なんだと思います。

誰かを疑う事を知らない生き方をしてきたんでしょうけど、

それだといつか悪い女に騙されちゃいますよ、とは言えませんでした。

録音に余計な音声が入るのは困りますので。


「…そちらさんが静かになったようだし、俺たちの話をするぞ」


 まだ名前のわからない冒険者さんが切り出しました。


「リオン、お前をパーティーから追放する!」

「わかった」

「──えっ?」


 こっちもスピード解決しそうです。


「今まで世話になったな、バッカス」

「いや、ちょっと待て 今理由を…」

「べつにいいよ さっき聞いたし」

「聞こえてたの!? 俺、自分の声かき消されてたよ!?

 正直、何言ったか覚えてないぞ!? なんて言ってた!?」


 全員の名前が判明しました。理由をリピートしてくれたら私も助かります。


「……前衛が頑張ってる時に後ろでコソコソしてる、って

 当たり前だろ 俺、術士なんだからさ 後衛に何を求めてるんだよ

 ……ダンジョンで仲間とコミニュケーション取らない、って

 強化魔法、探知魔法、温度調整、照明… 色々やってるんだよ

 会話にまで頭が回らないって話を事前に伝えてるだろ

 ……俺の代わりなんていくらでもいるって言ったよな?

 ギルドで評価してもらったら、最低でも5人は用意しないと

 俺の穴埋めはできないって言われたよ …これは嬉しかった

 引き継ぎが見つかるまでは残るつもりだったけど、

 お前のほうから追い出してくれて本当にありがたいよ

 代わりがいるなら何も心配せずに去れる じゃあな」


 助かりました。何度も録音を聞き返さなくて済みそうです。


「ちょっとよろしくて? リオン、もしよければ

 (わたくし)とパーティーを組んでくださるかしら?」


「えっ それはどういう…」


「結婚という足枷が外れた今、冒険者として前線に赴きたいのです

 (わたくし)(わたくし)のしたい事をする、それがこの(わたくし)の生き方ですわ!

 ご安心なさい、フレアローズ家は武人の家系 剣の腕には自信がありますの

 それと回復術士の素養も身につけておりますので簡単にはくたばりませんわ!」


「…止めるのは無理そうですね わかりました、一緒に行きましょう

 まずは冒険者登録が必要なのでギルドへ向かいます いいですね?」


「準備ならいつでもできていますわ それでは皆様ごきげんよう──」


 テレジア様とリオンさんは一礼をしてから退店なされました。

婚約解消と追放された側なのにその足取りは軽く、希望に満ちた表情でした。

店に残された3人は唖然たる面持ちで二人の背中を見送りました。


「……君、座りなよ バッカス…だっけ、

 僕のせいで混乱させてすまなかったね」


「あ、いや 俺もなんか悪かった…かな?」


「一杯奢ろう 店員さん、お願いします」


 王子が私を見ながら指を3本立ててます。そういえば私、店員さんでした。

副業に夢中で本業を忘れかけてました。反省します。


「…ところで、君はクローディアが嘘をついていると思うかい?

 僕にはわからないんだ 第三者の意見を聞かせて欲しい」

「ア、アルフォンス様!? 私をお疑いになるのですか!?」

「君は少し黙っててくれ 頼む…」


「そうだな… 正直わからんが、アンタが婚約破棄を言い渡してた時、

 勝ち誇った表情でテレジア様を見下ろしてたのは確かだぜ

 俺は戦士だ 目の良さは保証する」


「そうか… 参考にするよ ありがとう」

「アルフォンス様! こんな冒険者風情の戯言を信じるのですか!?

 貴方は私以外の人間の言葉なんて信じる必要はありません!

 ただ私だけを見ていれば良いのです! 私がそうしているように!」


 クローディアが慌ててます。本性を隠せてないのが丸わかりですが、

王子の目には一体どう映っているのでしょう。揺らいでる様子です。

 私からも第三者の意見を聞かせてあげようかな、なんて考えてると

カウンター席に座ってた若い男性が彼らに近づいて声をかけました。


「やあ、アルフォンス王子 久しぶりだね 僕を覚えているかい?」


「……! コンラッド王子! ああ、覚えているとも!

 一年以上も音沙汰がなかったから心配していたんだ!

 元気そうで安心したよ さあ君も一緒に飲もうじゃないか

 クローディア、こちらは『オリヴィアも久しぶりだね』」


 オリヴィアと呼ばれた女は一瞬硬直し、席から立ち上がって喚きました。


「わっ、私はそんな名前じゃない! 人違いです! 帰ります!!」


 それは予想外の展開で、あっという間の逮捕劇でした。

 どこの国の王子かはわかりませんが、アルフォンス王子とは親しい様子です。

そしてクローディア、もしくはオリヴィアはその場から逃げようとしましたが、

本日のお客さんが一斉に立ち上がり、退路を断ちました。全員兵士でした。


「…コンラッド! これは一体どういうことなんだ!?

 なぜクローディアが捕まってるんだ! オリヴィアって誰だ!?」


「アルフォンス…… 突然の事態に驚いているだろう 無理もない

 信じるのは難しいと思うが、その女の名はクローディアではない

 きっとオリヴィアでもない 詐欺師だ

 僕はその女に騙され婚約者を捨て、母上の形見を奪われてしまった…

 でも、テレジア卿の助力によりその女を見つける事ができたんだ

 多くの証拠も彼女が揃えてくれたものだ まったく天晴れな人だよ」


「僕は… 騙されていたのか……」


「今日の所はこれで失礼する この件が落ち着いたらまた会おう、友よ!」




 ──コンラッド王子とその兵士たちが引き上げた後、

あれだけ混雑してた店内はいつもの静けさを取り戻しました。

この店ってこんなに広かったかな、と錯覚しそうです。


「店員さん」


 落ち込むアルフォンス王子の隣で、バッカスさんが指を2本立てました。

戦士バッカス:目はいいけど頭は悪いリーダー

付与術士リオン:パーティーの便利屋さん

王子アルフォンス:良くも悪くも純粋な青年

公爵令嬢テレジア:文武両道、完全無欠のお嬢様

詐欺師:顔だけはいい女

王子コンラッド:騙されたショックで一年寝込んでたそうです


十子メモ

録音した音声を聴いた冒険者ギルドの受付嬢がテレジア様のファンになりました

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