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追放酒場  作者: 木こる
2/10

第二杯 規格外テイマーのハーレムざまぁ

「ロアン、お前とはもう終わりだ」

「──えっ?」


 ロアンと呼ばれた背の低い少年は魔法剣士アルスの言葉に耳を疑った。

アルスとパーティーを結成して以来、もう7年のつき合いになる。

今や総勢10名以上の大所帯となった中級者パーティーの最古参として

これまで尽くしてきたつもりだ。


 結成当初のロアンには戦う力がなかった。

魔物使い(テイマー)という稀少な才能の持ち主ではあるが、術者本人が強くないと

魔物を使役できないという制約により戦闘では活躍の場がなかった。

使役する魔物がいないから戦えない、戦えないから強くなれない、

そんな悪循環に陥っていた頃のロアンをアルスは見捨てなかった。

 ロアンは荷物持ちや料理係などの雑用を積極的にこなし、

弱い魔物の相手をしながら少しずつ実力を身につけていった。


「アルス 僕たち友達じゃないか

 どうしてそんなこと言うんだ?」


 ロアンはアルスとの友情を思い返し、涙を堪えながら尋ねた。

こみ上げる感情を抑えているロアンとは対照的にアルスはただ一言、


「金だ」


と返答した。


 少しの沈黙の後ロアンは我に返り、発言の意味を理解しようとした。

アルスはその様子を見て、もっと詳しく話すべきだったと反省した。


「俺が調べたところ魔物使い(テイマー)が使役できる魔物の数は

 普通なら1匹、ベテランや高い資質の持ち主でせいぜい2、3匹らしいな

 13匹も飼ってるお前はハッキリ言って異常だ 規格外すぎる」


「17匹だよ」


「増やすな!! そのせいで餌代どんだけ掛かってると思ってんだ!

 お前のペット食わせる為に俺は毎日バイトしてんだぞ!?

 この後もシフト入ってんだよ! もういい加減ウンザリなんだよ!」


「そんなこと言われても あの子たちのおかげで

 僕たちは有名冒険者の仲間入りできたんだしさ、

 あの子たちの為に働けるなんて光栄じゃないか

 僕は世話があるから働けないけど、君はもっと働くべきだよ」


「ふざけるな! 悪目立ちしてるだけだろうが!

 サキュバスに触手スライム、女型ゴーレムとか

 そんなの連れ回してるせいで俺まで変な目で見られてんだよ!

 戦力にならない癖に食費の高い魔物ばっか増やしやがって!

 俺の苦労も少しは考えろよこの煩悩野郎が!!」


 ヒートアップしたアルスは机を叩こうとしたが、拳が振り下ろされる事はなく

冷静になるよう自分に言い聞かせ、座り直してから話を再開した。


「3匹くらいの頃はまだ どうにかなってたんだ

 才能あるからって仲間ガンガン増やしてよぉ、

 減らせ、預けろ って言っても無視されるし

 とにかくもうお前とは一緒にいられねえよ」


「彼女たちは僕の家族だよ? 捨てるわけないじゃないか

 どこぞの変態魔物使い(テイマー)に預ける気も起きないよ

 僕じゃないとダメなんだよ 彼女たちのご主人様(マスター)はね」


 アルスは呆れて物が言えなかった。よりによってロアン自身の口から

「家族」という、自分の首を絞めかねない単語が飛び出したからだ。


「お前が冒険者になったきっかけって

 妹さんの治療費を稼ぐ為だったよな?

 俺が薬代稼いでる間、お前は何してた?

 荷物から俺の装備くすねて売り払った金を

 ギャンブルに注ぎ込んで全額失ったり、

 保存食を勝手に持ち出して魔物と遊んでたり、

 完全に最初の目的を見失ってるよな?」


 ロアンは押し黙った。盗みの件がバレていたとは知らなかったのだ。


「俺も疲れすぎて目的見失いかけてたけど、妹さんはもう完治してるし

 支える必要がなくなった だからお前とはもう終わりなんだよ」


 それ以降、会話はなかった。アルスは俯くロアンを眺めてしばらく待ったが、

何も反論しないのは話を受け入れたからだろうと納得して席を立った──。




 ──チルトランド王国領日本人村。召喚された日本人同士が身を寄せ合い、

この世界の知識を共有したり、逆に私たちの世界の技術を提供したり、

異世界文化交流の場として発展中の小さな村です。米と大豆が特産品です。


 私は十子(トーコ)。追放酒場の従業員で、今日は非番です。

3日前に新しく召喚された人たちがこの村に滞在してるとの事なので

挨拶がてら仕事道具を確保する為の交渉を持ち掛けにやってきました。


 今回召喚されたのは男子高校生が3人、目がキラキラしてます。

心踊る大冒険、待ち受ける強大な敵、自分だけが持つチートスキル、ハーレム。

そんな主人公みたいな運命を期待してる顔です。ありません。

きっと「ステータスオープン!」とかやったんだと思います。ないです。


 魔物は存在しますが、討伐するのは現地の冒険者の仕事であって、

私たちとは別次元の戦闘力を持ってる方たちです。魔法が使えます。

私たちは召喚される際に特殊能力が身につきますが、ほとんどは非戦闘系です。

戦闘系能力があったとしても異世界からの客人に危険な事はさせない方針です。


 それはさておき、交渉の時間です。彼らのスマホが目当てです。

通話、メール、インターネット不可なので持っててもほぼ無意味です。

私は録音用に何台かストックが欲しいだけです。という事実を話しても

何か他の狙いがあるんじゃないか、実は重要アイテムなんじゃないかと

疑う新人さんは多いです。日本から持ってきた唯一の道具だからどうしても

手放したくないという人や、単純に中身を見られたくないという人もいます。


 そんな状況ですので買い取りは諦めて、貸し出してくれる方を探してます。

副貨50枚。貿易都市(チュートリア)内だけの独自通貨で、計算しやすくて助かります。

一日一食なら月30枚で生活できるという、とてもわかりやすい単位です。

毎月のレンタル料だけで生き延びてる方を何名か知ってます。


 交渉の結果、2台のスマホを借りる事ができました。上出来です。

副貨100枚を3人で分けると10枚しか自由にできませんが、頑張ってください。


 もう彼らに用はないので次の野暮用を済ませたいと思います。

この村には“神スキル”と称される人物が住んでます。その方の能力は“充電”であり、

日本から持ち込まれた電化製品限定ですが、使える状態にしてくれます。

私の副業には欠かせないビジネスパートナーです。


「やあ、十子(トーコ)ちゃん いつものでいいね?

 それより聞いたかい? 天才魔物使い(テイマー)って噂の少年が死んだんだってさ

 なんでも、自分が飼ってた魔物たちに食い殺されたらしいよ

 よっぽどお腹を空かせてたんだろうねえ」


 物騒な事件だなと思いました。それと同時に自業自得だなとも思いました。

飼い主としてペットの面倒を見切れないのなら最初から飼わないで欲しい。

手に負えなくなったのなら懐に余裕のあるベテラン魔物使い(テイマー)に預けるなり、

冒険者ギルドを通して保護施設に送るなり、方法はあったはずです。


 これは余談なんですが、もし私が事件現場にいたとしても“無敵”の能力は

発動しなかったと思います。捕食行為は敵意ではなく食欲に基づくものであり、

戦闘行為とは言えないからです。その魔物たちは目の前の餌を食べただけです。

魔法剣士アルス:敏腕アルバイターとして有名

魔物使いロアン:エロい魔物を集めてることで有名


十子メモ

充電1台で副貨10枚取られます 多分ボッてると思います

大陸共通の通貨は正貨と呼ばれ、大正貨と小正貨に分かれます

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