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空間魔術師は一瞬で地の底まで逃げ出した  作者: 三毛猫ジョーラ
東の大陸編

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第50話 緑の宮殿


 ヒジャウ王子が用意していたのは三頭のラクダだけだった。まさかおれ達が自分の所に来るとは思ってもみなかったのだろう。自分達が乗ってきた二頭と緊急時用のラクダ一頭のみ。仕方なくおれはアピを抱きかかえるようにし、一頭のラクダに二人で乗る事にした。鞍は一人用だったので外し、こぶの間に二人で収まる。ラウタンはいつものようにパンバルに乗っていくようだ。


泡沫ブーサ


 水の膜がパンバルの体を包むようにぴったりと張っていく。砂漠の上を歩くからだろう、いつもより厚みのある膜を張っていた。それを見た王子が感嘆の声を上げる。


「おお、素晴らしい! 君は水魔術師だったのか! それは水膜すいまくで覆ってるんだな。ほうほう。息はできるのかい?」


 あまりの王子の興奮っぷりにラウタンは少し戸惑っていた。


「は、はい。パンバルは水中でも長く呼吸ができるので……たまに顔を出させてやれば平気です」


「よければ私にもその魔法をかけてみてくれないか?」


「いいですけど……濡れますよ?」


「構わないよ! 暑いから丁度いいくらいだ」



 ラウタンは王子の顔だけを外に出し、彼の体を水の膜で覆った。


「これはいい! さすが魔力で作った水だ。ひんやりしていて快適だな!」


「だそうだ。アピもやってもらったらどうだ?」


「やぁよ。暑いのは嫌だけど、濡れるのも嫌」


 確かに王子がまたがるラクダは既にびしょ濡れだ。本人もラクダも気持ちよさそうにしてはいるが。


「それでは参りましょうか。ディンディング、先導を頼む」


「畏まりましたヒジャウ様。巨人の足跡ジャジャッカ・ラクササ


 王子の筆頭家臣だという丸々とした男が土魔法を放つ。するとさらさらとした砂の大地が、まるで踏み固められたように平らになり道となっていく。その上を三頭のラクダが軽快に走り始める。馬より乗り心地は悪いがなかなかの速さだ。


「おーこれはすごい! 結構速いな!」


 おれは思わず叫んだ。からりと乾いた気持ちいい風が顔に当たる。魔法で砂が固められているせいか砂埃もさして舞いはしない。アピの肩に乗っていたクプクプが振り落とされまいと、彼女の首に必死にしがみついていた。アピは少し苦しそうだったがクプクプがとても楽しそうに笑っているからか、我慢してそのままラクダに乗り続けた。


 焦っていたのはラウタンとパンバルだ。予想外のラクダ達の速さにあっという間に置いてけぼりにされていた。


水蛇の道(ジャランウラ)!」


 ラウタンの水魔法によって瞬時に砂漠に水の道が出来上がった。その上をパンバルが滑るように走る。この魔法は水の流れも起こすため、その速度はぐんぐん増していきすぐに追いついてしまった。


「やー! これは恐れ入った! 砂漠に水の道を作るとは! それにしてもトケッタは速いもんだな!」


 ヒジャウ王子はまたも嬉しそうにはしゃいでいた。颯爽と走るラクダ達を導くかのように、砂の道がその行く先に作り出される。そしてそれに並ぶように、きらきらと光る水の道が蛇のように伸びていく。


 いつしか地平線には夕陽がかかり始め、空は黄金色に色付いていた。その壮大な光景を見て、おれもなぜだか心が躍った。クプクプも両手を広げてなにやら笑顔で叫んでいた。


「ちょっとクプちゃん! 危ないよ!」


 飛ばされそうになったクプクプをアピが慌てて両手で掴んだ。それでもなお、クプクプはきゃっきゃと楽しそうに笑っていた。





 夜のとばりが下りる頃、ようやくヒジャウ王子の宮殿、通称「緑の宮殿」へと辿り着いた。ラウタンは平気そうだったのだが、ずっと魔法を使っていたディンディングはへとへとになっていた。途中、魔力ポーションを飲ませてやった時は涙を流しながら感謝された。



「まずは湯浴みでもしてください。うちは風呂だけは広い」


 そう王子が言うように城の中にはやたらとでかい大浴場があった。アピは客室の風呂に入るらしく、おれはラウタンとパンバルと共に広い湯船にのびのびと体を浮かべた。


 陽が沈むと砂漠の気温はぐっと下がる。ほどよい温かさのお湯が体に染み渡る。


「まさかトケッタが温泉好きとは知らなかったなぁ」


 気持ちよさそうに目を閉じて、パンバルはゆらりゆらりと泳いでいた。


「僕も知りませんでした。うちの村ではお風呂もなかったですから」


 南の大陸は一年中気温が高い。雨も多いお陰で体は洗い流すだけという習慣が根付いている。ラウタン自身も湯船に浸かったのはシュラセーナ王城の風呂が初めてだったらしい。


「私もご一緒していいかな?」


 湯煙の向こうからヒジャウ王子がやってきた。最初に会った時に思ったが、この人はどこか掴み所のない人物だ。


「かなり立派な大浴場ですね。オアシスが近いとおっしゃってましたが?」


 おれがそう尋ねると、王子は顔をジャブジャブ洗いながら答えた。


「ええ。この大陸にはオアシスが十か所程あります。王の宮殿程大きくはないのですが、この宮殿の近くにもオアシスがあるんですよ。近くには火山もあるので温泉も湧くんです」



 東の大陸では色々な鉱石が豊富にとれる。中でも宝石が王国の一番の収入源で、メラー第一王女が管轄する土地はルビーが採れ、ビルー第一王子の土地はサファイア。そしてここ、ヒジャウ第二王子の土地ではエメラルドが採れるらしい。ただエメラルドだけは採掘量が格段に低いとの事だ。


「それでも毎日温泉に入れるので、私はここが気に入ってるんですよ」


 ヒジャウ王子は笑いながらそう言った。暫くおれ達が雑談をしていると、突然リリアイラが姿を現した。しゃがみ込むように水面の上に立つと、おれにぼそぼそと喋りかけてきた。


 おれは驚きのあまり思わずリリアイラの方を見た。ラウタンもその声を聞いたのか、何か言いたげな顔でおれを見ている。そんなおれ達二人の様子をいぶかしんだのか、ヒジャウ王子が取り繕うような笑顔で訊いてきた。


「どうかしましたか?」


 おれは王子の方にゆっくりと向き直りながら口を開いた。


「ヒジャウ王子。あなたに精霊の護りが宿っているってのは本当なのか?」



 その言葉を聞いて、王子の顔からは一瞬で笑みが消え失せた。









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