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空間魔術師は一瞬で地の底まで逃げ出した  作者: 三毛猫ジョーラ
東の大陸編

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第40話 飛び島


 飛び島までは三日の航海で到着した。



 南の大陸と東の大陸の中間辺りに位置する飛び島。島という名が付いてはいるが大きさは大陸の五分の一程度はあり、決して小さな孤島というわけではない。山脈とも呼べる切り立った山々が島の中央にそびえており、見事なまでに島を二分割している。


 南の大陸側は雨が多く「水時計ジャマイア」と呼ばれ、東の大陸側は逆に雨が少ない地域で「砂時計ジャムパシル」と呼ばれている。どの国にも属しておらず完全に自由な楽園として四大陸からの移民達がごった返す島と化している。ただ自由な反面、言わずもがなその治安は悪い。


 他の大陸同様、島にはダンジョンもあり魔物も出現する。そのため冒険者として魔物狩りを生業にする者もいて、もちろん冒険者ギルドも存在している。



 島に到着早々、ドゥーカ達はジャマイア側にある冒険者ギルドを訪れていた。彼らのパーティ「邪を滅する者(マジャラ・クジャハ)」の名は世界中に知れ渡っており、西の大陸に続き南の大陸の邪神討伐の偉業もあっという間に各地へと届いていた。


 ギルドへと足を踏み入れると畏敬と好奇の目が三人に降り注ぐ。世界中から集まったであろう冒険者達は誰もが癖の強そうな雰囲気を醸し出していた。ドゥーカとアピはすっかり慣れたものだが、ギルドを訪れるのも初めてだというラウタンは二人にやや隠れるようにして歩いていた。


「ギルド長はいるか?」


 受付嬢に冒険者カードを見せながらドゥーカが尋ねると、驚いた様子の受付嬢に奥の部屋へと案内された。


 ギルド長を待つ間、出されたフルーツを頬張りながらアピがラウタンに訊いた。


「そういえばラウタンって冒険者登録はしたの?」


「はい。冒険者ギルドじゃなくシュラセーナ王国から冒険者カードは発行してもらいました」


 そう言いながらラウタンが自らのカードをアピへと手渡す。それをアピがしげしげと見ているとノックの音がして扉が開いた。現れたのは白髪の、如何にも老獪ろうかいそうな男だった。冒険者の酸いも甘いも知り尽くしているであろうその男は、三人の目の前の椅子にどっかりと座った後、少し腰を浮かせてドゥーカに向かって手を差し出した。


「ギルド長のパルチャヤンだ。今日はどういったご用件かな?」


 差し出された握手の手を握り返しながらドゥーカが答える。


「おれはドゥーカ。こっちがアピにその横がラウタンだ」


 ギルド長が二人と握手を交わす。ドゥーカは話を続けた。


「この島に優秀な治癒術師がいるという話を耳して、今その人物を探している。冒険者の中にそのような者はいるかどうか聞きに来た次第だ」


 ギルド長は少し考えるように腕組みすると一拍置いてからドゥーカの質問に答えた。


「それはおそらくチュランの事だろう。二年くらい前に北の大陸から流れてきた治癒術師だ」


「詳しい情報を教えてもらってもいいか? できればうちのパーティに引き抜きたい」


「性別は男、歳は二十五。今はソロで活動しているからパーティに入れるのは可能だろう。ただあいつを雇うとなると高くつくぞ」


「と言うと?」ドゥーカが訊き返すとギルド長は少し前のめりになりながら答えた。


「チュランは噂に違わずかなり優秀な治癒術師だ。つまりいろんなパーティから引っ張りだこでな。本人も地位や名誉というよりは金にしか興味ないような男だ。普通なら、あのマジャラ・クジャハから誘われれば大抵の者は喜んでパーティに入るだろうが、あいつはどうだろうな……」


 少し溜息を吐くような素振りをギルド長が見せた。チュランの報酬の金額などはギルド長もわからないと言われ、ドゥーカ達は直接会ってみる事にした。



「今日チュランは二組のパーティに同時に雇われて山のふもとのダンジョンに潜ってるそうだ。一応この島で一番深いダンジョンなんだが、あんた達なら余裕だろう。地図は受付でもらってくれ」


 ダンジョンに向かう前にドゥーカ達はギルドにいた冒険者達にチュランの事を聞いてみた。その実力は評判通りのようで、曰く、深手を負った十人を同時に治した。曰く、瀕死の者を一瞬で回復させた、等々。


 治癒術師としての力はどうやら本物のようだった。ただ決まって最後に皆こう言った。「最高の治癒術師だが金には煩い」と。




「なんか話聞く感じだと私は嫌だなぁ」


 ダンジョンに入り、チュランを探しているとアピが唐突にそう言った。実際、ドゥーカ自身も多少迷ってはいた。治癒術師は最後衛に位置するので、戦闘にそれほど影響を及ぼす訳ではない。ただやはり同じパーティの仲間となるからには信頼関係はちゃんと築けなくてはならない。アピの不安もわからくはなかった。


「とりあえず一度話してみないとなぁ。今後、邪神と戦う事を考えると雇っておくってのも手かもしれないけど」


「そんなのダメだよドゥーカ兄! 仮にも命を預けるんだからお金どうこうじゃないでしょ!」


 アピがぷくっと頬を膨らませながらドゥーカに詰め寄るとリリアイラそれに反応した。


「おっ、たまにはいい事言うじゃねぇか。おまえもだいぶ大人になったな」


「私はとっくにれっきとした淑女だから! あんたこそもっと大人になるべきじゃなぁい?」


「なっ! この小娘が――」


 そんないつものやり取りをしていると、遠くの方で叫び声が聞こえた。明らかに魔物と戦っているような音がダンジョン内に響き、三人はその音の方へと急いだ。


 

 五頭のクンビラと対峙していたのは七名の冒険者達。それほど強いパーティではないのか、かなり手こずっているように見える。それでも彼らの目的は魔物の狩猟だ。余程の場合でない限りは他パーティに加勢する事はない。ドゥーカ達は少し離れた位置からその戦いの様子を見ていた。


 戦闘をしているのは主に六人の冒険者。少し後ろで白いローブに身を包んでいる男がおそらくチュランだろう。まるで傍観者のように悠々とした佇まいでじっと立っていた。


「ぎゃああっ!」


 激しい戦闘の最中、一人の剣士がクンビラの攻撃を受け片腕を嚙み千切られた。すぐに仲間が駆け寄り、その剣士を抱き起こす。


「おいっ! こいつを治してくれっ!」


 血だらけの剣士を引きずりながらチュランに声を掛けた。


「おやっ! これはひどい傷ですねぇ」


 チュランはわざとらしく驚いた様子でゆっくりと近づき、怪我をした剣士を覗き込むように見た。 


「事前に話した報酬額だと止血程度までしか治せないですが……どうします? 腕が無くなっちゃってますけど?」


「いいから治せっ! 早くしないと死んじまう!」


 剣士の仲間が必死の形相で訴えかける。だがそれでも慌てる事もなくチュランは話を続ける。


「だーかーら、止血だけでいいのかって聞いてるんだよ。腕は再生させなくていいの?」


「再生できるならやってくれ!」


「だったら報酬は五倍な。いいか?」


「わ、わかった五倍で払う! 早く治してやってくれ!」


「毎度あり~最初からケチらなきゃいいんだよ」


 そう言ってようやくチュラムは長い袖をまくりながら剣士に向かって両手をかざした。ぱあっと輝いた光が剣士の腕を包み、あっという間に腕が再生された。



「ほぉ。こりゃ随分強力な治癒魔法だ」


 ドゥーカの横でリリアイラがそう呟いた。それを聞いてドゥーカも思わず頷いた。


「確かに……ジャ・ムーでもあそこまでは出来なかったな」


 すっかり傷が癒えた剣士はすぐに戦闘に復帰していた。だが戦況は変わらない。二組の混合パーティは連携が取れておらず、すでに崩壊寸前。これ以上は無理だと判断したドゥーカが前に飛び出す。


切り裂け(レータルカント)



 五頭のクンビラ達が一瞬で切り裂かれる。唖然とした表情で振り返る冒険者達。



 だが一人、チュラムだけは舌打ちをしながら苦々しい顔でドゥーカを睨んでいた。






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