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【書籍化】朱太后秘録〜お前を愛することはないと皇帝に宣言された妃が溺愛されるまで【コミカライズ】  作者: ただのぎょー
第二章:龍河に揺られて。

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第7話:朱妃、かたかたされる。

ξ˚⊿˚)ξというわけで第二章開始です。よろしくお願いします。

 朱緋蘭ジューフェイラン朱妃しゅひ氏にそう書かれた紙が朱妃に手渡された。

 力強くも流麗りゅうれいな文字の書かれたそれを眺めては、にひっと笑みを浮かべ、それを後ろにいるロウラへと渡した。

 紙を受け取ったロウラがじいっと朱妃となったシュヘラを見つめる。朱妃はうんうんと頷くと癸氏に向き直った。


「こちらにいるわたくしの侍女、ロウラにもロウ帝国風の名前をいただけますか?」


「ロウラ……ですか」


 癸氏の鋭い眼差しが侍女の方へと向かい、彼女はわずかに身を竦ませてから首を垂れた。

 癸氏の手が再び筆を取り、『楼羅ロウラ』と記した。


「この文字はどういう意味でしょうか?」


高殿たかどの薄絹うすぎぬです」


「まあ、素敵ね!」


 朱妃は振り返ってロウラの手を握り、喜色を露わにした。

 癸氏は二人の仲睦まじい様子を見てか笑みを浮かべるも、直ぐに表情を消した。


「だが……」


 癸氏の声に朱妃は首を傾げる。癸氏の無骨で長い指が『楼』の字を指した。


「残念ながらこの名を登録することも名乗ることもできぬのです。ロウ帝国のロウの音と、皇帝の象徴たるロンの音。それらを名前に使うことはできない」


「まあ、なんてこと!」


「改名しろというのではありません。あざな、通名を名乗れば良い」


 朱妃はロウラと顔を見合わせる。通名と言われましても、と困ったようにロウラの眉根が寄っていた。


「瓏帝国ではどのような通名が一般的でしょうか?」


「……名前より一文字とって、その上に小の字をつけるのは一般的だが子供につける通名ですね。あるいは文字を重ねて言うか」


「ロウの字が使えないとなると……」


小羅シャオラ羅羅ララか」


「羅羅、可愛いわ!」


 癸氏は『楼羅』の横に『羅羅』と書いて、その紙をロウラに渡した。


「あ、ありがとうございます!」


「では両名がこの名で後宮こうきゅう入りする旨は伝えておきましょう。一旦ここまでとしますが、そちらから何か要望などありますか?」


「癸氏のお名前はどういう字を書かれるのですか?」


「私ですか?」


 癸氏は驚きを表情に浮かべ、朱妃はその表情に若さを感じた。

 彼は咳払いを一つ。


「いや、失礼。よもや自分のことを聞かれるとは思わず」


 彼の手が筆を持つ。先ほどまでの字よりも幾分速く文字が紙に書かれていく。そこには『癸昭キショウ』とあった。


「癸だけではないのですわね」


「ええ、姓は癸、名は昭と」


「やっぱり意味がおありになるの?」


「癸とは十番目であり水にしていんを意味する文字、昭とはあきらかであることを意味する文字です」


「まあ、隠であるという印象はお受けしませんわ」


 朱妃は不思議に感じる。初対面の彼からは将の如き気、男性的な力強さを感じたのだから。とはいえ姓なのだし、彼の気性とは関係のない話か。そうも思った。

 癸氏はどことなくぎこちない様子で目を逸らす。


「私のことは良いのです。そちら、何か困っていることは?」


「いえ、たいへん良くしていただいております」


 朱妃が頭を下げ、羅羅もそれに倣った。


「それは重畳ちょうじょう


 癸氏はそう言い残すと、そそくさと部屋を後にした。


「羅羅」


「朱妃、いかがいたしましたか?」


 朱妃が笑みを溢せば、羅羅も笑う。


「呼んでみただけよ」


「まあ」


 そう言ってころころと笑い合った。

 朱妃は自分が晴れやかで伸びやかな気持ちを感じていると気付いた。


「瓏帝国に住むことになる異国民は改名しなくてはならないじゃない」


「ええ」


「嫌がる人が多いって聞いてたのね。ロウラは羅羅になって嫌な気持ちかしら?」


 羅羅は胸に手を置き、少し考えてから言う。


「いえ。嫌ではありません。ロプノール王国にもう戻ることもないでしょうし、癸氏は美しい意味の言葉を下さいました。姫様はいかがですか?」


「わたくしはとっても嬉しいの。ロプノールでわたくしは疎まれていたから、その時の嫌な想い出を捨てられた気がするわ」


 そう言って浮かべた笑みに、羅羅の胸は揺り動かされた。


「姫様……」


 それは仕える主の笑顔が自然なものであったことの喜びと、今まで主のそのような表情をほとんど見ることが叶わなかった哀しみであった。


「やだ、羅羅ったら。そんな顔しないで。嬉しいの、本当よ?」


「ええ、ええ……」


 朱妃は羅羅の手を取った。

 羅羅の瞳に涙が盛り上がり、朱妃は慌てて袖で彼女の目元を拭った。


「大丈夫、大丈夫よ」


 こくこくと羅羅は頷き、懐から手巾ハンカチを出した。


 彼女が涙を拭うのを見ながら朱妃は思う。


 沢山の荷物と共にやってきたけれど、それらは全て帝国への貢物。自分の財など、ちょっとした手荷物が少々と、仕えてくれるこの羅羅一人だけ。

 紫微城しびじょうの後宮でこれから先、沢山の苦労もするだろう。特になぜか当初の予定のひんではなくその上のの位をいただくことになってしまったから。

 でもそれは開けた運命だ。ロプノールの王城の片隅で、息をひそめて過ごすような日々とは違うのだと。


 そんなことを思っていた時だった。


 かたかた。


 朱妃の手荷物が不自然な音を立てて動いた。


「えっ」


 かたかた。

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『朱太后秘録①』


9月1日発売


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― 新着の感想 ―
[一言] >癸氏は二人の仲睦まじい様子を見てか笑みを浮かべるも、直ぐに表情を消した。 やはり百合はイイ( ˘ω˘ )
[良い点] ララ! これもきゃわゆい♪ >かたかた。 ほえっ!? 荷物に一体なにが!?
[一言] 重ねて言う。 パンダのあれでしょうか。
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