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【書籍化】朱太后秘録〜お前を愛することはないと皇帝に宣言された妃が溺愛されるまで【コミカライズ】  作者: ただのぎょー
第五章

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第65話:朱妃、勧誘する。

「ごちそうさまでした。お妃様」

朱妃しゅひよ」

「……朱妃様」


 ティンなる少年は恭しく拱手する。


「えっと、それで、……奴才たちの話……を聞きたい、とのお話……ですか」

「そうよ」


 朱妃は丁に、自らの状況がどのようなものか聞き取ろうとする。彼の話は辿々(たどたど)しいものであった。

 それは、彼がまともな教育を受けていないことや、過労で頭が働いていないこともあるだろう。最初は朱妃もそう思って話を聞いていた。

 しかし、それ以上に彼の境遇からくる怯えであるのかもしれないし、彼の知性が慎重さを身につけさせたのかもしれないと思うものでもあった。

 宦官の位の上下、年齢によって序列分けされ、上位の者が下位のものにどれだけ横暴に振る舞っても良いとされているのか。朱妃はそれを知ったのであった。


「教えてくれてありがとう、丁」

「いえ、こちらこそ、お礼を言いませんと」


 丁の後にも宦官が何名かやってきて、ケバブを受け取っている。

 朱妃は彼らも見て、やはり感じるものがあるのであった。


「ねえ、あなた」

「はい、……お妃様」

「同僚に親しい友はいますか?」

「いえ……いましたが、夏の暑さにやられて倒れました」


 熱中症ということだ。話を聞いていれば、食事が満足に与えられていないことに加え、水分をとるための休みも碌にないためであるとわかる。

 実のところ宦官らはケバブを美味しそうに食べるのはもちろんだが、土器の水を美味しそうに何杯も飲んでいる。それだけ渇いているのだと朱妃は気づいた。

 だが、そういった同僚がいないのは好都合かもしれない。朱妃は言う。


「では本宮の下で働きなさい」


 丁は目を大きく見開き、口に手を添えて固まった。

 朱妃はここにも、慌てて無礼な言葉を口にしないようにという彼の思慮深さを感じる。丁はゆっくりと手を戻して答えた。


「それは、大変光栄な申し出に、ございます。ですが、太監たいかん殿の、辞令なしに仕事を変えることは叶わず」


 それはその通りであろう。朱妃は頷き、ゆっくりと問う。


「嫌ではない?」

「はい、もちろんです」


 これは本心からの言葉であると感じた。


「であれば、こちらから話を通します。このままここにいなさい。妃の我儘で留め置かれたとなれば、だれが貴方を責められましょうか」


 丁は涙を一滴落とし、その場に跪拝きはいし、叩頭こうとうした。

 

「ちょっと、そんなにしなくていいわよ」


 という形で永福宮えいふくきゅうの住人が一人増えた。

 彼はあまりにも汚れているので、門番の宦官に預けて風呂に入れさせてもらっている。風呂というよりは大きな盥で行水という形だ。

 倒坐房の裏手から、水の音と楽しそうな少年の悲鳴が聞こえてくる。

 朱妃は羅羅ララ雨雨ユユに話す。肉はまだかなり余っているが、今日は初日であるし、始めた時間が遅かったのもある。ただ丁以外の宦官は帰し、明日もやるから来るように伝えてあるので、今後広まっていけば肉の消費もすぐに増えるだろうと。

 彼女たちはそれを肯定し、話が終わるとすぐに笑みを浮かべた。


「それより朱妃様が少年を口説いているのを聞いていましたが……」

「ちょっと! そういうのじゃないわよ!」

「だってー、声掛けたの一人だけじゃないですかー」

「そうですよー」

「ちがうのよ、人が足りないでしょう。ここで雇いたかっただけ」


 朱妃は丁だけではなく、今後もこうして少しづつ人を増やしていきたいという旨を伝える。今回のケバブも最終的には宦官らだけで調理から施しまでできるようにするのが目的だとも。


「しかしなぜこんな手間を?」


 そう雨雨が問う。朱妃は頬に手を当てて少し考えて言った。


「まあ、結局のところ私たち女が三人だけじゃない」


 羅羅は得心がいったと頷いた。


「宦官たちを急に増やすのは危険ということですね。なるほど、だから子供である丁に声をかけたのですか」

「幸い、クン氏の部下の方たちが門番はやってくれていますしね。単純な人手はまず少年宦官でも充分ということですか」

「そうね。それに先日の晩、敬事房の宦官に襲われかけたじゃない。やっぱり

ちょっと大人の宦官を増やすのは怖いっていうか」


 二人は揃って拱手した。


「御意。失礼いたしました」

「御意。申し訳ありませんでした」


 朱妃は笑う。


「いいのよ。聖君に救われて無事だったのだし」


 武甲ウージァ帝から閨に呼ばれた夜の帰り、敬事房の宦官らが朱妃を宮に戻す際に襲いかかってきたのである。

 それは狼藉を働くということもあろうし、武甲帝と何を話していたのか尋問しようとしていたというのもあっただろう。

 その時に朱妃を救ったのは聖君を名乗る臉譜を被った男であった。朱妃もそれが氏であったと確信はしているが。

 羅羅が頭をよせ、声を顰める。


「そういえば癸氏が今宵いらっしゃると?」

「ええ、そうね。月が中天に登る頃にと。月齢からしてとりの刻の頃かしら?」

「たいへんです」


 羅羅は困り顔に眉間に皺を寄せた。


「何かしら」

「朱妃様、ケバブ臭うございます」


 慌てて三人は風呂の支度に向かった。

ξ˚⊿˚)ξお疲れ様です。ちょっと今話も投稿が一日遅れましたが、今週は多忙で更新が乱れてしまうと思います。


来週には平常に戻れるはずですので、ご迷惑おかけします。

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『朱太后秘録①』


9月1日発売


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― 新着の感想 ―
まめ―も大好きですで、更新ごとに愛読中ですが、そろそろこちらも進展してください。ブックマークに更新がないか毎朝確認中です。よろしくお願いします。
[一言] おねショタキターーー!!!!(大歓喜)
[一言] 人はほしいですね。
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