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【書籍化】朱太后秘録〜お前を愛することはないと皇帝に宣言された妃が溺愛されるまで【コミカライズ】  作者: ただのぎょー
第五章

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第56話:朱妃、誘いを断る。

「うえぇぇ……」


 まっずぅ。


「ひょひょひょ。良薬口に苦しですぞ」


 医王湯は元々がそういう味なのか、チン氏の調合の問題か、えぐみが酷くて喉の奥がきゅっとすぼまって迫り上がってくる様な味だった。

 朱妃しゅひが目を瞑り、眉間に皺が寄るのを見て陳氏は笑う。

 なんとか飲み終えると、娜娜ナナなる女官が器を受け取って布を取り出し、朱妃の口の端を拭った。

 雨雨ユユが別の器に白湯を注いで差し出す。朱妃はそれで口を漱ぐようにして飲んだ。


「ありがとう」

「ひょひょ、口直しに話梅ワーメイでも舐めるかの」


 朱妃がこくこくと頷けば、陳氏は袖の中より小振りな壺を取り出して蓋を開けて彼女に差し出した。朱妃は一つ摘むと口の中に放り込む。

 甘味と強い酸味に唾液がじゅわっと口の中に溢れる。


「ふう、ひとごこち付きましたわ」

「まあ昨夜もお疲れであったじゃろうが、加えて旅の疲れもあるじゃろうしの。お大事になされよ」


 陳氏は朱妃が抱かれていないということを部下である娜娜にも伝えはしないのかと朱妃は考えた。

 彼女が噂を発しないようにするためか、彼女が他の女官や宦官に秘密を語るよう問い詰められたりしないためか。

 慎重なことであり、それくらい重要なことであろうと朱妃は理解する。

 朱妃は面を上げ、雨雨と視線を交わした。

 雨雨はそれをあやまたず読み取り、陳氏にこう告げた。


「陳医官、朝食はお済みですか?」

「いや、まだではあるが」

「それではこちらで朝食など召し上がりませんか」

「ふむ、迷惑ではないかね?」


 陳氏はちらと朱妃の方を見た。朱妃も言う。


「いえ、食べていただける方が助かるのです」

「ふむ?」


 朱妃は使用人が不足であるのに食量が規定量持ち込まれていて余っているという話をした。


「ふむ、それはそれは。では馳走になろうかの」

「やった」


 小さく喜びの声が発せられた。娜娜である。

 朱妃らの視線が集まると彼女は縮こまって顔を赤らめる。


「すいません。美味しそうなものがいただけると思ってつい」

「ふふ、ちゃんとした厨師がいないから簡単なものになってしまうわよ」

「いえ! とんでもない!」


 娜娜は身体の前で両手を振って否定する。まあ、料理人の腕前はともかくとしても、確かに来ている食材は妃に相応しい上等なものである。


「これ、奴才が食事を満足に与えていないようではないか」


 陳氏が諌めて朱妃らは笑った。

 雨雨が退室する際、陳氏は娜娜に手伝うよう申しつける。二人は倒坐房に食事を完成させに向かった。


「色々と不便があるようですな」

「そう……ですね」

「困り事はおありですかな?」


 もちろん色々とある。沢山ある。だが、それを一医官である陳氏に言ってどうなろうか。


癸昭キショウ大人も状況はお伝えしてあります。大丈夫ですわ」

「朱妃様は我慢強い。美徳ですが無理はなさらぬよう」


 しばらくして食事が運ばれてくる。

 羅羅ララもやってきて五人での食事だ。また門番の二人にも朝食を渡したと報告を受けた。

 今日の食事は肉夾饃ロウジァーモー饅頭マントウ、いわゆる蒸しパンに細切りにした煮込み肉を挟んだ料理である。門番には簡単に食べられるそれのみ渡したが、朱妃らの卓には海蜇クラゲ胡瓜キュウリなどの野菜の細切りを合わせた冷菜なども供された。

 主人と使用人らは食事を同卓しないのが当然であるが、陳氏はこちらの状況もわかっている。食事を共にすることとした。

 陳氏は健啖であった。肉夾饃をぺろりと平らげて話す。


「朱妃様は今日この後、商皇后しょうこうごう殿下の茶会に誘われよう」

「茶会……ですか」


 陳氏の言葉に雨雨も頷く。


「皇后殿下は頻繁に妃嬪の方々を宮にお呼びしてお話をなされます。それは後宮をお纏めになる長としてのお勤めですので」

「本宮たち妃嬪の姉である、ということですか」


 商皇后は初対面の席で自分を姉と呼ぶようにと、国外より嫁いだ朱妃ら四人の妃嬪に言ったのであった。


「是。ただ今日に関しては……朱妃様のお渡りが話の俎上そじょうに上がりましょう」


 当然であった。仮に皇后が言わずとも、他の妃嬪から尋ねられることは明らかである。


「体調不良を理由に断ってもよかろうよ。実際ほとんどの妃嬪がそうしておるからの。奴才より今日は安静にすべしと言われたと一筆書いておいても良い」

「なるほど、お願いします」


 実際、その日の昼前に皇后の遣いがやってきて茶会への出席を求めたが、朱妃は体調不良を理由にそれを断った。

 陳氏の言った通りいつものことではあるようで、対応した羅羅たちが多少の嫌味は言われたが特に追及されることもなく遣いらは帰っていった。


 朱妃はこの日、皇后の茶会に出席しないという判断を正しかったと思っている。正直、皇后や妃嬪らに囲まれて閨のことについて追及されるのは御免であるし、海千山千の女たちに囲まれれば朱妃が武甲ウージァ帝に抱かれていないことなども口にさせられた、あるいは勘づかれたかもしれない。

 ただこれに関して、朱妃が後悔したことが一つある。

 翌朝のことであった。

 光輝嬪こうきひんが近衛に捕えられたと聞いたのは。

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『朱太后秘録①』


9月1日発売


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― 新着の感想 ―
[一言] えーーー!?!?!?
[一言] 気になる引きですね。
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