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【書籍化】朱太后秘録〜お前を愛することはないと皇帝に宣言された妃が溺愛されるまで【コミカライズ】  作者: ただのぎょー
第五章

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第54話:朱妃、陳氏と再会す。

 雨雨ユユは言う。


武甲ウージァ帝はおそらく朱妃しゅひ様だけではなく、全ての妃嬪の方々にお前を愛さない、抱くことはないと伝えているのではないかと思います」


 朱妃は尋ねた。


「流石に全員というのであれば、噂などではなく事実として広まっているのではなくて?」


 紫微城しびじょうに皇帝陛下がいる間、皇帝の夜を管理する宦官らである敬事房(けいじぼう)の者たちは毎夜、乾坤殿けんこんでんに妃嬪を連れてくるはずである。

 それで抱いてないのであれば噂などという曖昧なものにはならないのではないかと朱妃は考えてそう言い、羅羅ララも頷く。しかし雨雨は否定した。


「閨に呼ばれて抱かれなかったのは一般的に妃嬪として恥です。そうでなくとも他の妃嬪らに弱みを見せることになります。誰もが抱かれなかったとは言わぬでしょう」


 なるほど、雨雨は先ほど辛花シン・ファ尚宮を『朱妃がまだ疲れてぐっすり寝ている』と追い返したのもそういうことだろう。

 真実を知るのは皇帝陛下その人と敬事房の宦官らのみであろうが、皇帝陛下が口にすることはないだろうし、敬事房の者が皇帝の閨の話を外でするのは当然禁じられているはず。噂という形にしかならないのかと。朱妃はそう思い至り、続けて尋ねる。


「陛下が女性を抱かないのはどうしてなのかしら。その、あの、えっと……男色だんしょく的なアレだとか」

「そういう噂が立ったこともありますが否定されてはいます」


 朱妃はほっと溜息をつく。雨雨はニヤリと笑った。


「ちなみに男色という噂において、その相手として最も名が上がっていたのは癸昭キショウ様ですよ」

「まあ!」

「まあ! 朱妃様、武甲皇帝陛下はどんなお姿でしたか!」

「えっと、癸氏と似た背格好と雰囲気だけどおひげを生やしていらして……」

「まあまあまあ!」


 羅羅が高揚しているのを朱妃は意外に思った。

 だがあの良く似た顔の良い二人が抱き合っているとなるとそれは何というか絵になるというか、そういう噂が立つのも分かるような気がした。


「他にも性的不能なのではとか、真に愛する人が実は一人だけいらっしゃり、その方しか愛さないのではなど色々噂はありますけどね。どれも根拠はありません」


 朱妃が頷くと、雨雨は笑って続けた。


「朱妃様が真に愛する方で、それが後宮に来るのを待っていたのかとも期待したのですが」

「さすがにそんなことはないわよ。美しいのだったら光輝嬪こうきひんとかの方が……」


 光輝嬪とは北方の遊牧民の一族から後宮入りしたゲレルトヤーン姫のことである。北西の民の血を引き、白い肌に金の髪をした、美しくも勇ましき姫であった。


「いえ、そうは言っても今回の四姫の中で朱妃様だけが妃ですからね。そういうこともあるかと思っていたのですわ。……さて」


 と言って雨雨が身を離す。


「お話はともかく、まずは朝食の用意など致しませんと」


 朱妃と羅羅は頷いた。


「朱妃様は正房の方でお待ちください」

「あら、朝食くらい手伝っても良いでしょう?」


 実際、昨日は朝食を三人で作ったのである。鹹点心カンてんしんの一種、春餅チュンビンを作って食したのだった。とはいえ妃が料理を作る姿を見られるわけにはいかないと、昼は雨雨にくりやを追い出されたが……。

 しかし雨雨の言葉はそういうものとは異なっていた。


「いえ、そうではなくこれから朱妃様には来客の対応をしていただかねば」

「来客?」

「ええ、お渡りの翌朝には必ずお医者様がいらっしゃいますので、食事やお茶はそちらにお持ちします。羅羅は一緒に食事を作ってもらって良いですか?」

「もちろん」


 確かに交合を成したのであれば、その後の体調を医師が見るというのは理に適っている。とはいえ実際には交合はしていないのだが。


「その……皇帝陛下と交わっていないという件はお医者様にお伝えした方が良いのかしら?」

「それは朱妃様の御心のままに。お医者様が信用できるならお伝えしても良いと思いますし、そうでなければ隠されても良いのではないでしょうか」


 もっともなことであった。

 朱妃は正房へと戻る前に、まずかまどに薪と火種となるしばやおが屑を入れると、燧石すいせき火打金ひうちがねを一打ち。見事、一打ちで竈に火を付けた。


「さすがでございます、朱妃様」

「なぜこれだけで火がつくのか……」

「きー」


 羅羅が拍手し、雨雨が首を傾げ、ダーダーが竈の正面に陣取る。彼は暖炉や竈の前といった暖かい場所を好むのであった。

 朱妃が一人で正房へと戻ればすぐに雨雨が茶器を用意し、緑茶を淹れて厨へと戻っていった。

 そして茶を喫しながら飾り気のない庭を眺めていると、さして待たされることもなく門番が医師のおとないを告げた。


「お通しして」


 すると現れたのは老爺であった。後背には薬箱であろう箱を提げた女官を一人連れている。女官はぺこりと朱妃に頭を下げた。

 見覚えのある顔だ。朱妃は立ち上がって出迎える。


「あら、陳氏ではないですか。ようこそいらっしゃいました」

「ひょひょひょ、朱妃様。お邪魔するぞよ」


 奇妙な笑い声を上げながら入ってきた禿頭とくとうの老爺、それは後宮までの船旅を共にした陳医官であった。

ξ˚⊿˚)ξこの陳氏の後ろにいる女官は実のところ9/1に発売の書籍版の初版特典SSに登場していて、彼女についてはそこでしか語られないというアレです。

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『朱太后秘録①』


9月1日発売


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― 新着の感想 ―
[一言] ぶるうちいず先生「エクストリームヘヴンフラーーーッシュ!!!!」
[一言] なるほど薬箱女官が。
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