表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】朱太后秘録〜お前を愛することはないと皇帝に宣言された妃が溺愛されるまで【コミカライズ】  作者: ただのぎょー
第四章:皇帝との邂逅。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/72

第46話:朱妃、巻かれる。

 宦官の一人が朱妃しゅひの後ろに回って髪を梳く。


「髪良し!」


 左右に回った宦官が耳の孔に行灯を向けて中を照らす。


耳腔じこう良し!」


 眼を見つめられたかと思えば、額が押されて鼻の孔を覗き込まれ、次いで口腔こうこうを調べられる。舌を持たれて喉の奥や舌の裏まで確認された。


七孔しちこう良し!」


 人間の顔には目、耳、鼻、口と七つの孔がある。そこに武器を仕込むことができるとしても小さな針程度だろうし、女の細腕で優れた武人でもある武甲ウージァ帝に傷をつけられるかといえば否である。だが鴆毒ちんどくが如き猛毒を仕込めばどうか。爪で引っ掻くほどの傷で人を殺せるというのだ。


 脚を肩幅より開かれ、下から行灯で照らされる。炎の熱気が昇ってくる。

 尻を割られ宦官達に秘所をまさぐられ、覗き込まれた。


「二門良し!」


 羞恥で頭がおかしくなりそうだ。

 羅羅ララは涙を流し、雨雨ユユも手を血の気のなくなるほど強く握り込んでいた。朱妃は手を握ることすらできない。その手足の指の間まで確認されているからである。


「敬事太監! 朱緋蘭ジューフェイラン妃が寸鉄・毒物を身に着けず、またその健康を確認致しました!」


 彼らの奥に立つ高位の宦官に報告が為された。病気の有無も確認されていたようだ。彼らには、医官の知識もあるのだろう。

 力が抜け、腰砕けに倒れそうになるが、腕が掴まれ座り込むことは許されなかった。その隙に毒を仕込ませぬためである。


 断りもなく玄関が開かれ、別の宦官が入ってくる。

 もはや文句を言う気にもなれない。


「皇上が乾坤殿けんこんでんへと間もなく移られます」


「乾坤殿……?」


「皇上のお休みになる宮のことで御座います」


 紫微城しびじょうの中央には太極殿たいきょくでんがあり、その北が後宮である。

 後宮の中央を縦断するように太極殿と御花園ぎょかえんを結ぶ線上には三つの建物が並んでいた。

 南の建物が最も大きくその名が乾帝殿けんていでん、北が坤后殿こんごうでん、中央にあるのがそれらよりは一回り小さな建物で乾坤殿という。

 乾とは天であり皇帝を示す。故に乾帝殿とは天の帝がための建物、つまり皇帝のための住居である。坤とは地であり皇后を示す。故に地后殿とは地の后がための建物、つまり皇后のための建物である。


 そして乾坤殿とは即ち天と地の交わり。皇帝と皇后、あるいは皇帝と妃嬪らが交わるための建物であった。

 皇帝はこの建物に南から入り、皇后は北から、妃嬪らは東西から入ると定められているのである。


「武甲皇帝陛下はその名を竜床りゅうしょうといいます巨大な寝台ベッドの上で仰向けに横たわり、朱緋蘭妃の訪れを待っておられます。妃はその足の方から寝台の上をゆっくりと這って進み、後は皇上にその身をおゆだねください」


 そのようなことの説明を受ける間に化粧は薄く施され、髪は軽く結い纏められる。しかしそれとてかんざしなどは使えないのである。

 簡素なものであった。朱妃が見た後宮の女達はあんなにも美しく化粧を施し、髪を高く結い上げて絢爛けんらんたる衣装を纏っているのに。皇帝陛下はこのような形でしか女性を抱けないのであろうか。


「あの、衣は何を着れば……?」


 宦官は首を横に振った。

 大きく厚い布団が持ち込まれる。緋色に金糸でおおとりの描かれた、それは立派なものであった。


「えっと……」


 宦官達が朱妃に布団を押し付ける。羽毛であろう、ふかふかとした布団は彼女が経験したことのない柔らかさで、布地もまた滑らか。素晴らしい肌触りであるが……彼女はその布団に簀巻すまきにされていた。

 春巻きが直立し、その上端から朱妃の顔が覗いているような有様であった。


 朱妃の目が焦点を失い、目から生気が光が失われていくようだ。その表情は摩天まてん高地の砂狐スナギツネの如く、遠くを見つめて動かぬ虚無のものとなった。


「朱妃様、おいたわしや……」


 羅羅か雨雨が囁くように声を漏らしたが、確認のために振り返ることすらできない。


「それでは朱妃様、失礼します」


 朱妃の視線がぐるりと回転し、天井に描かれた彫り物を見た。

 身体が仰向けに寝かされたのだ。その背のあたりと腿の辺りに宦官らの腕が差し込まれ、二人がかりで持ち上げられているのである。


「では行きます。えっさ」

「ほいさ」


 振動が身体に伝わる。首ががくりと落ちかけた。


「えっさ」

「ほいさ」


 敬事房の宦官達は掛け声と共に移動する。

 本房から出て視界が暗くなった。垂絲海堂の梢が、夜空に浮かぶ星々の煌めきが視界に映る。


「えっさ」

「ほいさ」

「えっさ」

「ほいさ」


 宦官らは朱妃を抱えたまま、ひとけのない後宮の瀟洒な建物、丹塗りの柱や壁の間を駆け抜けてゆく。


「えっさ」

「ほいさ」


 そして巨大な建物の側を通り、門を潜る。

 門の脇や廊下には拱手する宦官らが立ち並んでいた。皇帝のおわす場に違いない。

 乾坤殿である。至る所が黄金と玉で飾られた建物は対称の形に四つの部屋が配され、全ての部屋の前に宦官が番をしている。暗殺への警戒、どこに皇帝陛下がいるのか分からないようにするためだ。

 しかし宦官らは迷うことなくその一室に朱妃を連れ、寝台の足元に彼女を横たえた。

 そして布団を抜き取る。朱妃は春巻きから具が飛び出るように、ぺろりと寝台に転がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


『朱太后秘録①』


9月1日発売


画像クリックで特設ページへ飛びます

i769595
― 新着の感想 ―
[一言] ふーむ、これも史実なんでしょうか。
[良い点] 羅羅や、雨雨と同じ気分なので、落ち着こうとチベスナムーブ中。
[良い点] 鴆毒キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!  wwwwww  [気になる点] いやはやさらりと流して省略してもよかったかもとおもわぬでも……ごちそうさまですた♡ [一言] いやー、長かっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ