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【書籍化】朱太后秘録〜お前を愛することはないと皇帝に宣言された妃が溺愛されるまで【コミカライズ】  作者: ただのぎょー
第三章:後宮入り。

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第29話:朱妃、寝床につく。

 雨雨の取り出した包子を見て思わず笑みがこぼれる。確かに妃の食事と言えるような上等なものではないだろう。だが腹を満たすには充分だ。

 荷車を牽いてきた宦官たちが去り、女たち三人は倒座房の厨の片隅で包子にかぶり付く。


 蒸し面包パンはまだほんのりと温かく、ふかふかに柔らかい。中の具は刻まれた豚肉ににら椎茸しいたけなどか。たけのこにあたればコリっと歯応えが変わるのがまた面白い。汁気が面包の内側に染み込んでいて、茶色くなったそこがまた美味しいのだ。


「いや、助かりました」


「ふふふ」


 羅羅ララがそう言えば、朱妃しゅひは笑う。羅羅は昼も食べていなかったから、なんだかんだ言っても腹は減っていたのだろう。


「きー」


 食事前に羅羅が寝台の脇からダーダーを連れてきたので、今は朱妃の膝の上にいる。

 彼女が肉片を掌に載せて差し出せば、ダーダーは緩慢かんまんな動きで鼻先を近づけ、かぱりと大口を開けてそれを飲み込んだ。

 蜥蜴に表情はないが、目を細めてどことなく満足そうである。


「包子……食べるんですね」


 それを見た雨雨はぱちくりと瞬きをして言った。


「他の蜥蜴は知らないけれど、ダーダーは結構なんでも食べるわね」


「やはり虫の生き餌を一番好みますが、熟れた果実であるとか、こうして朱妃様が食事を分け与えても喜びますね」


 包子を夕飯とし、デザートに一人一つ、棗椰子の乾果を食べる。


「甘い⁉︎」


 雨雨は初めて口にしたのだろう。驚いた様子である。

 濃褐色の実は表面は完全に乾燥しているが、中身はねっとりとした食感に、濃厚な甘味。少し癖のある黒糖のような風味である。


「健康や美容にも良いと言われているのよ」


 そう言いながら朱妃はまた一欠片をダーダーに与える。


「それは……后妃こうひ様方がこぞって欲されるかもしれませんね」


 菓子としての味のみを求めるなら、ロウの食文化にはもっと美味なるものもある。だが、美容に良いという言葉がつくと話は別であろう。

 美のためならどんな下手物げてものでも食すのが後宮の女たちである。それは妃嬪のみならず、皇后殿下とてまぬがれれまい。この味で美容に良いというならその価値は計り知れない。


「さて、ごちそうさまでした。ところで今夜なのだけど……」


 相談の結果、三人は本房の主寝室で一緒に寝ることにした。

 羅羅と雨雨が使用人の寝床のある倒座房で寝るとすると、本房が朱妃一人になってしまうのだ。

 警備がいないので、せめて三人で固まっているべきだということ。

 布団がなく、敷物がさきほど荷車で持ってきた西方の絨毯しかないことなどが理由である。


「早くしませんと、陽が落ちてしまいますわ」


 もう陽はだいぶ西へと傾いている。


「そうね、蝋燭もないのでした」


 そう、灯りがないのである。また水もないので歯磨きも風呂も明日以降の話だ。女たちは庭を渡り、本房へと急いだ。

 羅羅と雨雨が絨毯を担いで移動した。

 寝室は部屋の奥三分の一くらいの面積が、床が一段高くなっている。ちょうど腰掛けるのに丁度良いくらいの高さだ。本来はここに布団を敷くのであろう。

 ロプノールにはない建築様式である。


「絨毯をこの上に敷いてくださいますか」


 雨雨が羅羅にそう言い、二人で絨毯を広げる。


「見事なものですね……」


 雨雨が感嘆の声を上げた。滑らかな手触りの羊毛は全体の基調は赤。大きく黄色い四角形、入れ子のようにその中は黒の四角、さらに白の四角、内側に青の四角。それらの辺には精緻な文様が施されており、それらは近くで見れば線と円の幾何学的なアラベスク、遠目に見ると植物の花やつたに見える。

 全体としては完全に線対称であり、点対称でもある。


ロウの美と西方の美ではその思想が違うのだけれど、どちらも素敵よね」


 朱妃はそう言いながら、ダーダーを絨毯の上、枕側に放った。


「踏まれないようなところにいてね」


「きー」


 会話をしているかのような反応に雨雨が笑う。

 三人でその上に並んで腰掛けた時、周囲は薄暗くなっていた。靴を脱ぎ、帯や装飾品を外して、楽になったところで横になる。

 羅羅が帯を丸めて枕がわりにし、三人はそこに頭をのせた。


「火は入れなくて良いですかね」


 雨雨が言う。

 冬は凍える玉京ギョクケイも、今は秋口の快適な気候であり暑くもなく寒くもない。また砂漠とは異なり、夜の気温が急激に冷えるわけではない。

 布団がないので身体を冷やして風邪をひいてもいけないが、三人で身を寄せ合っていれば充分暖かいだろう。


「大丈夫ではなくて? 夜に火も、危ないでしょう」


 朱妃は言う。少し、口調が硬くなったことを彼女は自覚した。一応、炭は運んであるが、火の番がいる訳ではない。


「そうですね……」


 羅羅の声はもう眠りに落ちかけている。

 そう言えばこの部屋には暖炉や囲炉裏いろりはない。まだ秋だからか火鉢の類も用意されていないが、どこに火をつけるつもりだったのだろうか。

 そんなことを考えている内に、朱妃の瞼も重くなってくる。

 頭を傾ければ、雨雨はもう目を瞑っていた。彼女が一番疲れているだろう。


「おやすみなさい……」


 応えはない。そして部屋は暗く、静かになった。

ξ˚⊿˚)ξこれにて第三章終了です。


ξ˚⊿˚)ξ後宮に入りましたわ!


皇帝は?


ξ˚⊿˚)ξ…………(目逸らし)。


と言うわけで、面白いなあなど思われていたらブックマークとか評価とか応援いただければ幸いです。

実際、ジャンル別日間や月間ランキングに入っているのはありがたいです。応援ありがとうございます。


さて章の切り替わりということもありますし、また数日お休みいただきます。

書籍化関連作業とかね。書き溜めとかね。まあ色々です。


ξ˚⊿˚)ξどうせ書き溜めとかろくにできないんですけどね! 知ってる。


次回更新は4/10(月)にしましょうか。

閑話2か4章の1話かはまだ未定ですがそのどちらかです。

それと、ここまでの登場人物リストをあげておこうかと思います。


あ、以前も書きましたが、『追放された公爵令嬢、ヴィルヘルミーナが幸せになるまで。』

アーススター・ルナレーベルより6月に上下巻で同時刊行です。


やったー。


ちなみにアーススターさんで1・2巻の同時刊行は初めてだって編集さんが言ってました。


ξ˚⊿˚)ξ 買って!!


詳報はまたいずれ。よろしくお願いいたしますー。

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『朱太后秘録①』


9月1日発売


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― 新着の感想 ―
[一言] (*´ー`*)横浜中華街に行きたいなぁ。でも黒胡麻の月餅しか記憶している味がない……。 肉まんは皮が分厚くてよかったですね(中身の記憶薄い)
[良い点] >「他の蜥蜴は知らないけれど、ダーダーは結構なんでも食べるわね」 人間も食うのではあるまいな?
[一言] >「他の蜥蜴は知らないけれど、ダーダーは結構なんでも食べるわね」 やはり普通の蜥蜴ではない?( ˘ω˘ )
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