↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】朱太后秘録〜お前を愛することはないと皇帝に宣言された妃が溺愛されるまで【コミカライズ】  作者: ただのぎょー
第三章:後宮入り。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/72

第17話:朱妃、騾車に乗る。

ξ˚⊿˚)ξ「狼は眠らない」読んでたら投稿時間を忘れました(言い訳)。


という訳で第3章開始です!

「ブルルルル」


 朱妃《しゅひ》たちの前で馬のような動物が首を振っている。

 馬にしては首が短く、兎耳とも呼ばれる驢馬《ろば》ほどには耳が大きくない。つまり騾馬《らば》であった。

 驢馬の雄と馬の雌を交配させて作られる動物で、頑健かつ利口な動物である。西方の神話では王の獣とすら呼ばれ、現代でも馬の数倍の高額で取引されているものだ。

 古くから東西交易の中継地でもあるロプノール王国においても、砂漠なら駱駝《らくだ》、荒野なら騾馬が最良と言われていた。


 その騾馬は軛《くびき》で、艶《つや》やかな黒の漆《うるし》塗りの轅《ながえ》に繋がれている。その先には二輪の車体。

 ちょうど立方体のような形状の車体の表面は檜《ひのき》の板で覆われ、全体を朱漆で塗られた上には金箔で瑞鳥《ずいちょう》たる雌雄の鳳凰《ほうおう》が戯《たわむ》れる様が描かれていた。

 なんとも立派で絢爛《けんらん》たる騾車《らしゃ》であった。


「なんと素敵な……」


 朱妃は感嘆の声を上げる。


 龍河《ロンガ》を下ってきた御座船《ござぶね》は、首都玉京(ギョクケイ)近郊の湊《みなと》である龍涙《ロンレイ》へと到着したのだ。

 ここから玉京まではこの騾車で向かうのだろう。


「なんで馬車、それも騾馬なんかに牽《ひ》かせているのに乗らなきゃならないんだよ!」


 光輝嬪《こうきひん》が憤る声が湊に響く。顔を向ければ別の騾車の前で彼女が瓏《ロウ》の役人の胸ぐらを掴み、それを大勢で宥《なだ》めているようだ。


「こっ、後宮へと向かう姫は騾車に乗って玉京の市街へと向かっていただく決まりに御座います!」


 大勢の役人に囲まれて頭を下げられ、光輝嬪は舌打ちして不満げな表情を隠そうともせず、だがその身のこなしは軽やかに騾車へと乗り込んでいった。


「……光輝嬪は乱暴ですね」


 羅羅《ララ》がそっと囁く。


「そんなことを言うものではないわ。馬を伴侶《はんりょ》よりも大切にするという北方遊牧民の方ですもの」


 遊牧民は馬以外の乗用獣を使わない。また草原には道がなく、車輪も使わないと聞いていた。


「まあ、実際にはここには沢山の馬もいますしねぇ」


 羅羅が周囲を眺めて言う。

 無数の馬が湊には存在した。

 これは嫁入りの旅であると同時に、朝貢《ちょうこう》の旅でもあるのだ。

 光輝嬪が従えていた遊牧民の男たちの多くは船には乗らず、川沿いを馬で走ってきていたのである。

 これは遊牧民の最高の貢物が彼らの生産する馬であるからに他ならない。


 彼らとはこの龍涙の湊で合流した。これは列をなして玉京に向かうことで、広く民に遊牧民やロプノールの朝貢を知らしめすためである。

 両国が朝貢国となったことやその豊かさを示し、さらにそれを従える武甲《ウージァ》帝の偉大さを示すのだ。


「そうね。どんな大きな隊商《キャラバン》でもこんなに多くの馬を従えることは無いものねえ」


「きー」


 朱妃の言葉に、彼女の肩の上のダーダーが同意するように鳴いた。

 彼女は相好を崩して忠実なる蜥蜴《とかげ》を撫でる。


 光輝嬪が反発を覚えるのも当然なのかもしれない。だが、むしろ朱妃としては光輝嬪に感心してもいた。

 例えばビルグーン、先日光輝嬪が護衛として連れていた男は、今も自国の姫が騾車に乗せられたことに憤懣やるかたない様子だ。しかし彼女は明らかな怒りをあらわしながらも、すでに車の中にいるのである。


 ––切り替えが早い。あるいは、遊牧民たることを示すためにわざと怒ってみせたのかもしれないわね。


「朱妃様、どうぞ」


 雨雨《ユユ》が箱車の簾《すだれ》を持ち上げながら乗車を促した。

 彼女はこの旅の間、実質的に朱妃の従者のように振る舞うようになった。羅羅はその所作を見て覚えようとしている。

 彼女の手が簾の持ち上げ方をなぞるように体の前で動いていた。


 朱妃が乗り込むと、二人も向かい合うように乗車した。

 しばし待つと、役人が出発を告げに来る。一度大きくがたり、と揺れて騾車は進み始めた。


「……でもなんで騾馬なのかしら」


 朱妃がそう呟けば、雨雨が顔を背けた。朱妃は笑みを浮かべて尋ねた。


「雨雨は理由を知っているのね。教えてくださる?」


 彼女は口を無意味にもごもごと動かしてから話しだす。


「えっと……騾馬は宦官《かんがん》の比喩なのです」


「宦官の……ああ、交配できないからかしら?」


 朱妃は思い至った。

 騾馬は子をなすことができない。馬とも、驢馬とも、騾馬同士で番《つが》っても子ができないのだ。染色体の知識など存在しないこの時代の人間にとって、その理由は地域ごとに神話や伝承によって説明されるものであった。

 この後宮《こうきゅう》へと入る道のりで騾馬を使うのは、もう皇帝以外の男に触れることはできないという意味もあるのだろうと。


「あの、宦官が埋葬される時にですね……その……宝《パオ》を」


 雨雨の頬が僅《わず》かに朱に染まる。


「宝?」


 知らぬ言葉である。朱妃は首を傾げた。


「その、切除された自分の、アレを……」


 つまりは男の象徴《シンボル》のことであった。


 ––あー、なるほど。雨雨には申し訳ないことを尋ねてしまったわね。


 朱妃は人差し指と中指を開いて閉じながらおどけてみせた。


「ちょきんと」


 羅羅が吹き出して目を逸らす。

 雨雨は片手で顔を隠して言った。


「朱妃様、おやめください。ええ、そのちょきんとしたモノをですね。共に埋葬せねば宦官は来世で騾馬に転生すると言われているのですよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


『朱太后秘録①』


9月1日発売


画像クリックで特設ページへ飛びます

i769595
― 新着の感想 ―
[良い点] 「狼は眠らない」なら、仕方ないですね。 予告通り、ちょきん来ましたねw 「騾馬って、それはないでしょう!」 (「八男って、それはないでしょう!」的なアクセントで)
[良い点] 言い回しが楽しいです! 光輝嬪好きだなあ
[一言] ちょきんとしたものは腐敗したりしないのでしょうか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。