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6話

 馬車から下り、壮大な城を目の当たりにする。飾られた黄金は陽に反射し綺麗な光を放っている。自分が乗ってきた馬車以外にも一つ絢爛な馬車が停まっていた。


「他にも王子のお友達様がいらしておりまして」


 エルがそう伝えた時、城からドレスに見を包んだ女の子が出てきた。薄紫色の髪質はとても艶やかで細やかにに手入れしていることが分かる。アスタリアを見ると、丁寧な仕草で挨拶をする。それに応えるように慌てて挨拶を返す。颯爽と馬車に乗るのを確認した後、二人に案内されて城内へ。


「こちらです」


 扉の向こう側からは明らかに違う雰囲気がする。生唾を飲み込んで、アスタリアはこくんと頷く。


「では」


 リルとエルがノックして扉を開く。宿舎とは比べ物にならないぐらいの広さ。家具もほぼ全てに黄金があしらわれており一体この部屋だけでいくらかかるのか…。くらっとなりそうな意識の中、ソファに座った少年がいた。


「ようこそ」


 金髪で赤い目。間違いない、レオンハルト王子だ。


「お初お目にかかります。エイグロ騎士団所属のアスタリア・バルモです。今回は城にお招き頂き…」

「あー。そういうの要らないってリル達から聞かなかったか」

「えっ、と…」


 思ったような反応をせず、目を伏せるようにして伝えてくる。チラリと後ろの二人を盗み見ると、困り顔のリルと小さく溜息をつくエルがいた。


「王子、とりあえず挨拶されてみては」

「えぇ。一応初めましてですので、ね」


 一瞬目を閉じたレオンハルトはアスタリアよりも若干背が高い。物色するようにアスタリアを見下ろすと、右手を胸に添え挨拶に応じた。


「エイギリア第二王子レオンハルト。今回は非公式で呼ばせてもらった。わざわざご足労頂き誠に感謝する」

「あ、こっ光栄です」


 オーラが違いすぎてつい縮こまってしまう。見た目よりも丁寧な言葉遣いに驚く。本編でも礼儀は欠かさなかったレオンハルトだがこの歳からもう英才教育を完璧に受けていたのか。


「この場に呼ばれたことが一度もないので、気が回らない事もあると思いますが…」


 恐る恐る自己申告すると、レオンハルトは顎に手を置いて何かを考えた。赤い瞳はずっとアスタリアを見ている。すると後ろの二人に視線を移す。


「俺と同じ歳の奴がいたって聞いたんだが」

「ええいましたね」

「元気そうな二人でした」


 何を?と疑問符を浮かべているアスタリアに、エルが困り眉のまま言った。


「騎士団にいる、あのお友達様と同じ様に接して頂けませんか?」

「友達…と?」

「今日はそのために呼んだんです。噂の黒魔獣を撃退した子と、王子が友達になりたいと」


 まさか、そういうことだったのか。

 レオンハルトはずっと不服そうな表情をしていた。目は据わり眉は吊り上がったまま。そして突如「まあいいか」と呟いた後、後ろの二人に告げた。


「剣を二人分頼む。庭に出よう」


 ***


 爽やかな風がどこかの花の匂いを運んできていた。騎士舎の周りには無い種類の花が多く、とてつもなく古めいた花図鑑にも載っていないものばかりだ。


「では我らはここで」

「失礼しますね」


 リルとエルがレオンハルトに剣を渡して何処かへ消えてしまった。定刻になれば迎えに来るとアスタリアに言い残して。


「すごく綺麗な庭ですね」

「弟と庭師が管理してる」


 ああロコ様。そうか、お花がお好きなのか…。ぼんやりと考えていると建物から違和感を感じる。人の気配がどこかしこにある城内だが、それとは何となく違うような。


「アスタリア!」


 レオンハルトが一本の剣を差し出してくる。質感を確認しつつ手に収まるよう何度も握り直す。ここだ、と思った部分に母指球を押し当て安定させる。右足を引いて体を横に。剣を胸の前に固定させ、構えの姿勢を整える。オーリオに教わった全てだ。


「とりあえず俺も試してみる」


 レオハルトも構えを取った。前に大きく剣を突き出した大胆な構えだ。王家というだけあり華がある。


「こちらこそ、宜しくおねがいします」


 さぁっと風が吹いた。一瞬静寂が訪れた瞬間、レオンハルトが剣を振り下ろして踏み出す。一気に間合いを詰めて相手の剣先に飛びかかった。太刀を剣で受け止めたアスタリアはすっと体を引く。押し負けぬようにと詰めていたレオンハルトが虚を突かれバランスを崩す。そのまま剣を右へ動かした後一瞬で引き抜く。キン!と一線が描かれた。


「うわ、お前強いな…」


 腹目掛けて刺された…ような太刀筋を見たレオンハルトは、自分が負け本番の場合死んでいる事を理解した。


「力を利用か。今まで見たことない戦い方だな」

「まあ…、ありがとうございます」


 手放しに褒められるが何となく居心地も悪い。こんな騎士がいたとしても激レアな戦い方の可能性だってあるのに。


「俺も、実は間合いに自分から飛び込んだのは初めてだ。その後の対処が遅れたけれど」

「そうだったのですか」

「なんとなく、お前を圧せて良かった。前は振るのすら下手くそだったから」

「十分綺麗です。もう訓練を?」

「まあ一応。自主練も足したほうが良いかもな」


 さっきの一戦で剣についたであろう傷を見ながらレオンハルトが呟いた。


 ***


 何日か城に通っていくうちに、レオンハルトとアスタリアもある程度仲が深まってきた。いつも剣を交えてお互いの上達具合を確認する。その後は休憩して日頃のトレーニングは何をしているのか尋ね合うのだ。アスタリアは本で調べたこと、オーリオから習った事などをレオンハルトに教える。レオンハルトもかなり凄い経歴を持つ戦士や世界を旅して来た傭兵たちから剣を習い、かなり雑食に学びを得ているらしい。


「一人の人間から学ぶことは、王家としてはよろしくないらしい。かといって武術に伝統もあんまり」

「大変ですね」

「それなりにな。色んな話が聞けるから良いとは思ってる」


 色んな人…ああ、と納得した様子でアスタリアが声を上げる。


「私もオーリオの他にディアロ…、ああいや、同じ宿舎に住んでいる仲間と切磋琢磨しています」

「宿舎? 一緒に住んでいるのか」

「ええ。家族のような人たちです」

「家族…」


 今度はレオンハルトが腑に落ちた様に笑った。構えていた剣を地面に刺し、腕を組んでアスタリアを見る。


「お前にとっては家族だから、俺にそいつらと同じ様接しろと言われても無理があったな」

「えっ」

「心外でもなんでも、俺はお前、お前は俺の一番最初の友人って事になるんだ。少し話でもするか」


 近くにベンチがあるというのに、レオンハルトは地べたに思い切り座り込む。手に触れる草の感触がとても心地よかった。見かねたアスタリアも、若干の距離を残しつつ同じ様に腰掛ける。二人の剣が仲良く並んでいた。


「お前は家族とどうやって過ごしている」

「実は稽古はあまりやっていないんです。お互い師匠が違うので」

「なるほど、流派とかか。それで喧嘩とかは?」

「いいえ全く。ああでも、怒らせる事はしばしば」

「へえ、例えば」

「…少し気恥ずかしいですが、度の過ぎた悪戯を…」

「悪戯ぁ?」


 気の抜けた返事をするレオンハルトに、少し呆気にとられながらも手応えを感じた。アスタリアは彼の様子を観察しながらテンポよく武勇伝を語っていく。恐らく、いいや絶対良くない事なのだが、「家族の話」をしてくれと彼は言ったのだ。ご所望に応えようじゃないか。


「この前は部屋中に花束を敷き詰めました」

「なんだそれは。誕生日のサプライズか?」

「何もない日…を祝して? 強いて言えば悪ノリのアイデアが生まれた記念日として」

「騎士見習いが聞いて呆れるな。あれだけリルとエルから話を聞いたというのに」

「話を? 俺のですか?」

「そうだ」


 あの夜の噂のことを語るレオンハルト。だがこの情報は特定の人物にしか知れ渡っておらず、そのほとんどが箝口令を敷いている。


「ずっとあいつらが話すもんだから俺も気になってな。つか、結構馴染んでくれたんだな」

「え?」

「一人称。俺ももうちょっと砕けた口調で話す」


 いつもと違う表情を見せるレオンハルトになんだかホッとしてしまった。彼の本当の顔を垣間見れた気がした。ふと手に触れる草木を見てみる。ぱっと閃いたアスタリアはこっそりもぎった葉を手で包み込む。


「レオンハルト王子」

「なんだ」


 こちらへ振り返った瞬間、包んだ手の上から勢いよくもう片方の手を重ねる。すると中の葉が大きな音を立てて破裂した。びく、と肩を上げて驚くレオンハルト。あまりに無防備な驚き方にアスタリアの口からつい笑い声をこぼしてしまった。


「…アスタリアぁ…」

「っくく、あぁっ…すみませんっ…」


 はあっと息を吐くレオンハルト。笑い声を抑えるアスタリアを一瞥すると掌を頭上に押し当てて髪の毛を大きく掻き乱し始めた。


「お前みたいな騎士はこういうことをやるんだなっ」

「ほ、本当にすみません。あんなに驚くなんて」

「ったく不意打ちなんてしていいのか」

「ああ隙あり! ですかね?」

「はぁーお前なあー」


 ぐりぐりと乱される髪。その手をアスタリアが掴んで停止させた。突然の事に少し驚いたレオンハルト。だがアスタリアはレオンハルトの掌に自身の掌を重ねる。握手の形にしたアスタリアは、レオンハルトの赤い瞳をじっと見据えて告げた。


「どうか、アスタとお呼び下さい」

「…じゃあ俺はレオで」

「レオ、…様?」

「れーお。二文字の方が楽だろ」

「いいやそれは恐れ多すぎます!! もし誰かに聞かれたら」

「当たり前だ何処で呼ぶつもりだ。俺は王子だぞ。二人の場合は何呼んでも自由だろ」

「…ふたり…?」

「不服か?」


 だが有無を言わせぬようにレオンハルトが手を握る力を更に強める。咄嗟に振り解こうとしたアスタリアだったが引いた腕すらも逃さないと言った様子でレオハルトがアスタリアを強引に引き寄せる。


「俺はアスタを何にでも出来る。肝に命じておけよ」


 喉の奥が鳴る。溶けた赤い目はしっかりとアスタリアを捕らえていた。





 ***






 違うああああああああああああああ。



 レオンハルトとの関係は友好っていうか友好になってしまっている。どうしよう、どうもこうも自分があまりにも対人においての会話がいつもいつもぎこちないからなの? そういえば前世でも考えた内容は全部人の顔を見た瞬間全てが消え失せた。計画通りに会話を進めて相手受け取る私のイメージを、自分の理想に近付けられた事なんて一度でもあった? あまりにも馬鹿。一個も問題は解決していないぞ。なんで毎回毎回城に行って好き勝手レオンハルトと遊んでばかりいるんだあああアスタリアああああしっかりしろおおおおお。


 日が落ちるとになると毎度のように反省会が開かれる。ディアロの問題の解決策が一向に思い付かない。それにレオンハルトと着実に絆が深まってしまっている。いいやもしかしてこのまま「友達」路線でいけば…? でもそうなれば学園に入学出来るかどうか怪しくなってまうし、かといって…。

 かといって、レオンハルトの専属騎士になるという元のルートを辿ってしまえばそれは…。恐らく「死亡フラグ」をまっしぐらしてしまう可能性がある。

 主人公がレオンハルトと接触した時点で死亡フラグは始まる。他には邪険に扱われたり、一切出てこなかったり、出てこないはずだったのに途中で死んでたり、一人で旅に出ていったり…。

 嗚呼…、四面楚歌…。というか一回も出てきてないのに死んでいるのが一番意味が分からない。


「アスタ! 飯、晩ごはん! 早くしろ」

「あ…、はいはあい…」


 ベッドで寝転んでジタバタしているとディアロに呼ばれた。慌てて身支度を整えて出る。


「なんか呻き声してたぞ。もしかしてぇ盛り上がってた?」

「団長から処分食らわなかったんだな」

「バッカ、そんなんじゃねぇーよ」


 因みに初日の城から帰還した時、とんでもない事態になっていたのは言うまでもない。


「今日のメインはジャガイモだってさぁ。あーまたジャガイモアレンジ週間始まんのかなぁ。ジャガイモピザが一番旨かったんだよなぁー」

「…」

「なあアスタ、何曜日の献立気になる? 俺は金曜のジャガイモプリンとか狂ってるけど結構…」

「…」

「…アスタ?」

「……ディアロ、お前…。俺たちに何か隠してないか?」

「はあ?」

「ディアロ」


 アスタリアはディアロの裾を掴んで必死に問うた。不器用に聞き出そうとするアスタリアをディアロは一瞬で冷めた表情をする。


「あー、やっぱバレるかー」

「……」

「実は…」


 周りをキョロキョロ見渡すディアロ。アスタリアもつられて周囲を確認する。「良し」と声を出したディアロは耳を指す。ジェスチャーを読み取ったアスタリアは背の高くなったディアロに耳を差し出した。


「俺さ…」


 チラリとディアロを盗み見ると、ニヤリと口角が上がったのが見え嫌な予感が全身を駆け巡った。


「すとおおおおっっぷ!!!!」

「はあっ!? なんだよアスタ!!」

「お前絶対違うだろ。俺はそういうこと聞こうとなんて一ミリもしてないんだよ!」

「はああ?? 俺にとってはクソ深刻ですがあ? 人の悩みそんな一蹴すんな!! つか聞いてもねーだろおがよ!!」

「いいや絶対禄でも無い」

「おーおーマジでこいつの言ってること分かんねぇよ俺」

「本気の真面目だったろ!」

「てめぇの真面目はリコの三分の一にも満たねーよ!」

「そういう事じゃない!!」


 ぎゃーぎゃーと騒ぎ倒す二人。猫パンチの容量でお互いじゃれ合いながら意見をぶつけまくる。一進一退、どちらに何も通じない状況に収集が付かない一方、背後にはドス黒いオーラにギラギラの目(眼鏡付き)が近付いていた。


「ディアロ!!」

「もーなんだよアスタお前変だよ!」

「変なのはお前だって言ってるだろ!」

「はあああ??」

「オイ」


 ヒッ、と身が凍える二人。猫が一瞬で大人しくなる。


「何騒いでるんだ、団長が早く来いって…」

「リコぉ〜アスタがおかしいんだよ。俺がおかしいって」

「分かったからお前は黙っててくれ」


 リコルトは眼鏡に触れながらアスタリアに向き直る。最近よくみる焦燥感に駆られた顔だった。


「アスタ、お前らしくないぞ」

「………」

「何焦ってるんだ。悩みがあれば聞くぞ」

「…ありが、とう」

「…はぁ」


 リコルトが先導して食堂へ連れて行く。二人をリコルトの両側に挟んで座らせ、食事中はアスタリアを気にかけながらもディアロの会話をさばいていた。

 いつもは元気よく食べるはずなのに黙食を続けた後皿を片付けてすぐに出ていってしまった。


「ディアロ、お前何したんだ」

「わかんない。お前のほうが分かるんじゃね?」


 城に招集されてからアスタリアの態度は少しづつ変化していった。それが一体何が原因なのか当の本人は教えてはくれない。聞く限りだと無難に稽古と休憩時の会話のみ。問題があるとは考え難いが…。


「アスタ!」


 皿の片付けはディアロに任せリコルトはアスタリアの背を追う。ふらっとリコルトを見たアスタリアは「ああ」と漏らして向き直る。「どうした」


「どうしたはお前だ。…アスタ、何があったんだ」

「いいや、何も無いんだ」

「……」

「俺は大丈夫。だからリコ…、もういいか?」


 救う人が沢山いる。時間もない。


「俺は?」

「……その…」

「…分かった」


 リコルトは宙を仰いで視線を逸らす。顔を戻してアスタリアを見た。


「お前が焦るんなら僕も焦ることにするよ」

「リコが?」


 ああと返事をし、リコルトは腰の剣をさすった。


「今騎士団の間で開催してる大会とか、集まりに出ているんだ。面倒だけどな」

「それは…」


 アスタリアが本来積むはずの「実力」だ。


「だから、実はあんまり騎士団に居ない。ディアロの方が今は守護者みたいになってる」

「…ふ、団警備員か」

「そうだな。あいつもあいつで何か考えているんだろう」

「それって賞金とか出るのか?」

「出る訳無いだろ。騎士は命があれば何も要らない」

「そうだったな…」


 息をついたアスタリア。笑顔が見れて安堵の笑みをリコルトが浮かべる。


「落ち着いたな。良かった」

「ディアロに謝らないとな」

「別に良いとは思うれど…、まあそうだな」

「すまないリコルト」

「…ん。多分あいつは部屋だ。俺は自主練でもしてるから行って来い」

「ああ。ありがとう」


 歩きながら状況を整理する。いいや、変に考えているから会話が変な方にいくのかもしれない。自然体。なるべく自然体で。…いやでもこの体はアスタリアだ。話すなら…、でも…。


「アスタ」


 優しい声が頭上でする。ふと見上げるとディアロだった。


「用は俺ですか?」

「あ…、はい!」

「いー返事。入れよ、リコは?」

「自主練だって。謝りに来た」

「ああいいよいいよ別に」


 招き入れられ、ディアロに催促されてリコルトのベッドに腰掛けた。ピシっとしていてディアロのシーツとは大違いだった。


「って止めても、お前はやるんだろうけどな」


 窓際がいいとリコルトに頼み込んでベッドを配置してもらったらしい。月明かりが丁度いい明度を保ってくれていた。


「で、なんであんなに必死だったんだ」

「…先にディアロの秘密を教えてくれ」

「あー、確かにお前から聞いてきたもんな」


 コホン、と咳払いした後ディアロが月からアスタリアへ視線を移した。


「俺、実は親が分かって生まれた月も、日付も分かったんだよ」

「そうなのか…!」


 アスタリアも実は不明のままなのだ。歳もあやふやで付けられたもの。


「で、お前らと結構離れてることが分かった訳」

「どれくらい」

「三。だから俺は兄ちゃんなんだぜ」


 ああ、とアスタリアが声を漏らす。身長が高いのは羨ましいと思っていたがそれも要因だったなんて。


「それで団長から歳ピッタリだから団が騎士だって認めるサッシュベルト付き衣装を貰えるって言われたんだ。それだけ」


 それはとても喜ばしい事だ。だが…。


「なんでそんなに嬉しそうじゃないんだ…?」

「え、嘘」


 ディアロは両頬を無理やりつねる。「どう?」とおどけてみるが、アスタリアは苦笑いのまま「いい笑顔」と答えた。


「親がさ、結構な悪らしくて」


 ディアロは再び月に視線を向けた。


「前にあっただろ、黒魔獣の…さ」

「あぁ」

「そういう関連で悪い事結構研究してて、しかもデカめの事件も起こしたっぽくて。俺に借金が伸し掛かってきたわけよ」

「……もしかして、もう」

「死んでる。変な置き土産残してってさあ。遺産とかだったら良かったのに」

「…そうか」

「別に俺は何も思わない、だからアスタも何も思わないでくれ。これからも、さ」

「そう、…そうだ。これからも一緒に騎士として!」

「出てくことにしたんだあ。俺」


 ディアロの横顔が余計に儚げに見えた。


 橙目が綺麗に光って、アスタリアをしっかり見据える。



「俺、騎士になるのやめることにした」

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