優しいスタントマン
「トアッ……リャア――ッ」見事に、空中ブランコを決めた。
「ハーイ、カットーッ」
監督が満足気に、声を掛けた。
次は、走っている車から、飛出すシーンだ。
「トアッチャッ…フリャア」安全のための、マットの上に飛込んだ。
「監督、私まだいけます。もし、今ので満足されてないなら、もうちょっと頑張ります」
「そうか。まだ、いけるか。それじゃあ、もう一回いってくれ」
「はい…」
危険なシーンだ。人によっては、絶対何度もやりたくないような。でも、私には気迫があった。妥協したくない。
後の食事会が終わった時、偶然、エレベーターで監督と二人っきりになった。
「いやーっ、今日、助かった。正直、情けないけど、あの車の撮影、これでいいかって思いそうになった。スタントマンの君の気迫に今日、救われたよ。本当は監督が、こういうことをしないといけないんだけどね。でも、助かった。本当に、ありがとう。この後の撮影も、よろしく」
監督は、タクシーに乗って、帰って行った。
監督は、ああやって話したが、さっきの言葉で、私は気合が入ったのだった。
終
監督にそう言われたら、嬉しいわな、やっぱり。