女神からの贈り物
海に面した美しい街並みも静まり返り、寄せては返す心地好い音で満たされた静かな街に、背広の男とフォーマルな格好の女が月に照らされる。観光客ではないにしろ、その足取りは全く迷うことなくまだ見えない目的地の舟屋を見据えていた。
「メリーは車庫から。出来るだけ戦闘は避けろ、今回の作戦でお前は戦闘員じゃないからな」
「レインこそ油断してると腕の1本持ってかれるよ? まぁ、もしそうなっても可愛いお人形の腕を私が付けてあげる」
「とびきりキュートなやつで頼む」
「じゃあ今度買いに行かないとね」
互いに全く緊張感の無い会話を最後にふた手に別れて行動を開始し、レインは施錠されていない南京錠が掛けられただけのドアを開け、入口で待ち構えていた男2人と握手を交わす。
「まさか自分で撮影したいなんでやつが居るなんてな。筋金入りの変態だぜ」
「自分の欲しいアングルじゃないとね。高い金出してるんだから満足のいく物でないと」
「俺たちも何度かやってるけど、あんたみたいなのは初めてだよ」
陽気で話しやすい大柄な鍛えられた男と気だるげに薄い会話を挟んで来る男に続き、薄暗い廊下を歩いて何個かドアを通り抜けた先の部屋に通される。
異臭と嫌な湿っぽさで眉をひそめながらまたしばらく歩いて、雰囲気の違うドアの前で立ち止まった2人に心の準備が出来たか問われる。待ちきれんとばかりにカメラを手に持ったのを確認して陽気な男が笑い、ついに少女のまつ部屋のドアが開けられる。
天井から裸の電球が吊り下げられた部屋の真ん中に、暴れないように床に固定された拘束具に拘束された片足の無い少女が虚ろな目で天井を見上げていた。だが2人の気配を感じて意識をそちらに向けたのか、酷く脅え始めて涙を流しながら泣き叫ぶ。何度も首を横に振って必死に助けを叫ぶが、部屋で待っていたもう1人の男が殴って少女を黙らせる。
死なないように痛めつけては手当をする行為を繰り返された少女の体は、血の滲んだ包帯と塞がってもいない傷でいっぱいになっていた。
「おい撮っとけよ、ぼーっとしてんなって」
「あぁ。激震が走ってついな……」
最高に頭に来たレインはサプレッサの着いた拳銃を素早く抜いて確実に2つの頭を撃ち抜き、少女の目の前でのこぎりを持っていた男の両手両足を撃って生かす。男が手放したのこぎりを拾い上げて左足に刃を当て、力いっぱい押し付けて寄せては返すを繰り返す。部屋に響き渡る悲鳴と絶叫を聞きつけて走って来た誰かに蹴り飛ばされ、部屋の壁に吹き飛ばされて当たってとまる。
「何してるの! この子の心にまた傷を付けるつもり!?」
「痛みを知らないからこういう事が出来るんだろ、だから殺す前に思い知らせてやるんだよ」
「はぁ。車庫から2階の部屋に出たけどそこからここには誰も。でも念の為もう1回見て来て、私はこの子の治療するから」
これが初犯じゃない事に怒るのも馬鹿馬鹿しくなったのか、ため息だけで言葉を飲み込んだメリーは気を失った少女の隣にしゃがみ、持って来ていた医療箱を広げる。
「後は処理班呼ぶだけだから楽にしてろ。俺は言われた通り見回ってくる」
「はいはいお願いしまーす」
もうこっちも見ずに少女の包帯を手際良く取り換えたりしながら、何かをぶつぶつと呟きながら医療箱に手を伸ばして治療していくメリーから視線を外す。
「なんだお前ら! 政府の……」
部屋から出ようとドアを開けた瞬間に残っていた男の手に抱えられたショットガンにまず左足を吹き飛ばされ、続けざまに連射で下半身、右半身と持ってかれる。右半身が千切れて離れる前に3度引き金を引いて仕留めるが、自分の体を支えられる物が無くなって床に落ちる。
「無事かメリー!」
既に手遅れな自分の心配より後ろのメリーに首だけ向けると、少女に心肺蘇生を行う姿が見えた。何度も胸骨圧迫を繰り返し、人工呼吸で空気を送り込む。
「大丈夫。あなたはきっと大丈夫! だから、お願い、戻って来て!」
「もういいやめろメリー!」
「良くない! まだ、終わってない。まだ、地獄じゃない」
「お前腹から血が出てる、流れ弾に当たったな!」
服が吸いきれないほどメリーの腹部から大量に血が流れ出ているにも関わらず、痛みも感じないかのように胸骨圧迫と人工呼吸を繰り返し続ける。情けない事に自分の体がもう持ちそうもないレインは、涙で螺旋に見えるメリーを捉えたまま目を閉じる。最後に残った聴覚から、メリーの必死に叫ぶ声を聞きながら。
「まだ生き残る価値のある世界だから! お願い……まだこの子を連れて行かないで!」
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