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68.メイドと悪意

 一通り露店を巡り終えた私はこちらを見詰める視線に気付きました。

 やっぱり最初に感じた視線は気のせいじゃなかったですね。

 何処かに誘き寄せて退治してやりたいところですが、村の中はサキとサクと一緒に露店を巡ってるレオスとダルニも居ます。

 子供達は双子の使い魔に護られてるので大丈夫でしょうが、アルリダ、クレイ、コルルに何か起こってからでは遅いです。

 なので私はジークの裾を引っ張って、


「あの、旦那さま。少し森に行きませんか?」


「もう森に行くのか? わたしとしてはもう少し楽しみたいところだがな」


 今日のジークは何だか察しが悪いポンコツですね。

 いえ……村はちょっとしたお祭り気分、きっと彼も浮かれてるのでしょうね。

 仕方ない人だなぁ。なんて思った私は悪くないですよね?

 だから彼の手を握って引っ張るように森に向かったのも悪くないです。

 その途中でアマギが人間と楽しそうに談笑してる姿を見て安堵しました。


 私はジークを連れてそのまま湖まで行って、彼に振り向いて。


「旦那さま、少し疲れちゃいましたので休憩しませんか?」


「そうだな。……しかし今日の君は大胆だな」


 私は腰を下ろして、膝を手でポンっと叩きました。

 すると今度は私の意図を察したのか、彼は苦笑を浮かべ、


「本当に大胆だ」


 そう言って膝に頭を乗せました。


「旦那さまこそ随分克服してきたんじゃないですかね」


「そうだといいがね」


「私が手を握ってここまで連れて来ても気絶しませんでしたよ」


「……それは、恐らく相手が君だからなのだろうな」


 それは、どういう意味なのですか?

 私は胸に抱いた疑問を彼に聞く事はしませんでした。

 だって、森の中で血涙を流した数頭のユニコーンと額に傷が有る大熊がこちらを見てるんですもん。

 だから疑問よりも恐怖心と悪寒、寒気を感じた私は悪くないですね。ついでに言えば激しい倦怠感を感じたのは気のせい!


「……旦那さま、この森は少し恐いですね」


「……あぁ、湖の美しさとは裏腹に感じる殺意は怖すぎやしないかね!?」


 本当に森がちょっと恐いなぁ。でも視線の正体はここまで付いて来たようですね。

 

「旦那さま、気付いてますか?」


「うむ。こちらを観察する視線にだろう? やれやれもう少し出店された商品を見て置きたかったが、出て来たらどうだ?」


 彼は起き上がって森の茂みに向かって、はっきりと告げるとジークが向いていた方向とは逆方向の茂みから女性を筆頭に二人組の怪しげな男が姿を現しました。

 ……本当に今日のジークはポンコツだぁ。もしかしてジークは風邪を引いてるじゃないんですかね?

 って! それよりもあの女性は何なんですか!? あんなに肌を露出させてちゃてまぁ!

 私がリーダー格と思われる女性の装いに叫びたい気持ちをグッと堪えると、顔を真っ赤にしたジークがそちら側に振り向いてしまった。

 それは私が止めるよりも素早い行動で、同時に彼が地面に崩れ落ちたのも無理はないでしょう。


「……情報通り女に弱いらしい」


「へへっ、これで楽に仕事が果たせるってもんよ」


「こんなんで2000万だろ? 楽な仕事も有ったもんだなぁ」


 ジークの女性恐怖症が向こうに知られていた。だからそんな恥ずかしい格好をしていたんですね!

 というか狙いはジークだとして、彼の寝首を掻くことは不可能です!

 それに森にはユニコーンも居ますからね! 

 私は森に居る頼もしい幻想生物に眼を向けると、彼等は既に行動に移してました。 

 そう、ユニコーンと大熊はジークに蹴りを入れては、逆に痛めるという珍妙な行動を……って!!

 

「ちょっ!? 攻撃すべきは旦那さまじゃありません! 向こうですよ!!」


 私が露出女達の方に指を向けると、ユニコーンと大熊が渋々といった具合に立ち向かうではありませんか!

 なんと頼もしい幻想生物と動物なのでしょうか!

 私がそう関心していると露出女達は、


「これ以上近付くなら火を放つ」


 そう言って油の染み込んだ松明を魔術で着火させるではありませんか。

 結果、森を人質に取られたユニコーンと大熊は私の背後まで下がりました。

 森の中で生きる彼等にとって火は天敵。だから私はユニコーン達に逃げるように催促しました。

 すると素直に言う事を聴いてくれてくれる辺り、私は幻想生物から信頼されてるのでしょうね。


「ぐぬぬ、森を人質に……物質に取るなんて卑怯ですね! でも旦那さまの寝首を掻けるとは思わないことです!」


 私は気絶してるジークを護るようにナイフを十本構える。

 すると露出女が私に指を向けて、こら! 人に指を向けるんじゃありません!


「違う。標的はお前。そっちの悪魔顔は違う」


「……えっ? 如何して私を……まさか私を使って旦那さまを脅すつもり気ですか!?」


「……その必要も無い」


 むぅ、随分と淡々と喋る露出狂ですね。

 私が彼女に対してそんな感想を浮かべていると取り巻きの男達が、


「へへっ! 俺たちの背後には大臣が付いてんだ! 大人しくすりゃあ悪いようにはしないぜ!」


 なん小物臭漂う台詞を……いま、大臣と言いましたか? あの失脚したと噂の大臣が彼女達を使って私を?


「大臣が私に何のようなんです? はっ! 昔、彼が大事に保管してた絵画を壊しちゃったのが私だとバレた!?」


「関係ない。大臣は言った、ミルフィを捕まえ、ゲラルド王が行った真実を公表すると」


 それは、それはぁ! 

 そんな事をすればどんな結果になるのか、せっかく魔族と人間が良好な関係を築くこうとしてるのに、ジークが思い描いた夢をこいつらはっ!!

 私はナイフを十本の内それぞれ脚を狙って三本ずつ投擲した。

 左右に分散するように避ける三人組。

 最初に狙うべきは松明を持った男! 私は彼に懐から一枚の羊皮紙を投げ、


「水の元素よ我が呼び声に溢れよ!」


 水呼びの魔術を唱え、羊皮紙から溢れ出した水が松明の火を掻き消す。

 先生ならここに稲妻の魔術を唱えますが、生憎と私はそんな高等魔術は使えません!

 そして次に私は狙いをリーダー格の露出女に絞って、懐に入り込むように滑り込んだ。

 懐に入り込んだところで、そのままナイフを躊躇いも無く縦に一振り。

 露出女は身体を少しだけ晒すことでナイフを避けました。

 私はすかさず露出女から後方に退がるように大きく跳躍、同時に二人組の男にナイフを十本ばかり投擲。

 するとナイフは二人組の服ごと木々に刺さり拘束する事に成功。

 同時に地面に着地すると……っっ! 頭がっ。

 激しい頭痛に襲われ、突然意識が朦朧とする中……ずるっと足が滑るではありませんか……えっ?

 ゴチンっ!! っと後頭部を走る激痛に私の目の前は真っ暗に……。


 ▽ ▽ ▽


「っ! あ、頭が!」


 頭痛で目が覚めると……そこは暗がりの洞窟の中でした。

 身体を動かそうにも手足が縄で縛られて身動きが取れませんね。

 おまけに目覚めた私に気付いた露出女が近寄って来るじゃありませんか。


「……頭を強く打ったようだが、熱も有るようだ」


「私を気遣うなんて、随分と余裕ですね」


「受けた命令は生きたミルフィを連れて行くこと」


 思考がボヤけて考えが纏まり難いですが、私が生きてる限りダメなんだとという事は理解できます。

 ジークとユヒナのために私ができる事は一つです。

 私は舌を噛み切ってやろうと行動に出ると、それよりも速く露出女は布を挟むように縛ってきました。

 

まふゅおふぅ(まだ何もしてません)


「自害されたら捕縛された二人に悪い」


 そう言えば二人組が居ないようなぁ?


ふぁえふぁりは(二人は)どうふぇふぅ?(どうしたんです?)


「魔女と自警団に捕まった。逃げ切れたのは一人だけ」


 相手が一人ならやれる!

 

とふぃれふぃたいふぃ(お手洗いしたいです)


「そんな古典的な手には引っ掛からない。やるなら目の前でやりな」


 ……変態ですか? 

 でも許可は得たので遠慮なく私は、ごそごそと腰を動かしました。

 すると、やはり見るのは不味いと判断したのか露出女は私に背を向けました。

 意識は朦朧としますが、自害は最終手段です。

 なので速攻で関節を外して縄抜け術を駆使して拘束を解く。

 この手のプロの癖に詰めが甘いですねぇ。

 そして私は露出女の無防備な背後から……襲いかかってやりました!

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