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65.メイドと別れ

 今日はユヒナ様が帰宅される日。

 また会えると理解してても、心に巣食う寂しさは誤魔化しようが無いですね。

 でもメイドとしてできる事は笑顔で見送ることとまた来て貰えるよう努力することです。

 朝食の傍らユヒナとリゼットの見送りについて少しだけ考えては、食べる手が止まる。

 そんな私の様子に気付いたジークが心配した様子で、


「やはり寂しいのか?」


「そうですね。……追放時とは違って寂しいです」


「ふむ、ならばわたしは彼女がまた来日できるように段取りしていかなければな……此処に居る彼女の友人は会いに行きたくとも行けんからなぁ」


 苦笑を浮かべながらそんな事を言うジークに、少しだけ私の頬が綻ぶのを感じました。

 敢えてジークはユヒナの友人に対して名指ししませんでしたが、彼女の友人は私とリオンぐらいです。

 あぁ、でもユヒナならもっと友人を作ってるかもしれませんね。


「はい、村人達のためにも頑張りましょう!」


 笑みを浮かべてそう伝えるとジークは何故か呆れた眼差しでため息を吐きました。


「はぁ〜、これだからポンコツは」


 おおっと? 今日はまだ失敗していない私に対して失礼じゃないですか。

 それとも少しだけバターを焦がしのがバレたのでしょうか?


「まあ良い、ユヒナが帰宅するのは午後だ。だが、生憎と今日は天気に恵まれなかったな」


 窓に視線を向けるジークに釣られて私も窓に顔を向けた。

 するといつの間にか天候が崩れたのか、外は雨が降っているではありませんか。

 午後まで降るなら雨の中で見送り……うっかり泣いちゃってもバレないですよね?

 

「雨具のご用意をして置きますね。ところで明日はミルデアから行商人が到着するご予定でしたが……本当に紛れ込んでるんですかね」


「杞憂の範疇で有れば良しと言った具合だが、狙いを考え明日はわたしとデートにでも興じないか?」


 私がパンをひと口齧ったタイミングで、ジークの突然の提案にボトッと手に持っていたパンを落としたのは無理もないかもしれません。

 だって突然の提案……しかもデートですよ? 私とジークは侍従の関係なのに。


「デート……私はメイドですよ? 旦那さまが望むような事は……」


「……分かっているさ。あくまでも相手の目を欺く演技だ、それなら……まぁ君は不本意かもしれんがね」


 むむ、明日の備えとしての演技なら良いかなぁ。

 これでジークの身の安全を身近で護れる訳ですし……あれ? 普段から身近に居るからデートする必要無くない?


「あの、私は何かと旦那さまの側に居ますよね? それでデート、それに来客の対応中にデートとというのも……」


 来客に失礼だと思います。そう付け加えるとジークは苦笑を浮かべてました。


「確かにな。確かにそうなのだが、デートと言ってもいつも通りにしつつ気になった商品を買って周るといった感じだ。もしかすれば途中ですよ湖に立ち寄るかもしれんがね」


 まぁ、そういう事なら誘いを受けても良いですね。

 ……エリオに誘われた時はあれだけ拒んでいたはずなんですが、気心知れた相手だからでしょうか?

 ふとそこまで考えた私は、自分の抱える問題を思い出しました。しかも割と重要な問題です。


「あの、実は私は私服の類を持ち合わせて無いのですが……」


「……ふむ、午後まで時間が有るのだ。折角だからコルルの所に買いに行くか?」


「えっ、旦那さまも着いて来るつもりですか?」


「君には世話になっているからな、何か買ってやろうかと思っていたが」


 うーん、頂いたお給料はあまり手を付けて無いんですよね。

 そもそも散財するような事も無いですからね。


「ご好意は嬉しいのですが、私服ぐらいは働いたお金で買いたいです」


「そうか? 君がそう言うのならそれで良いがね。あぁ、それにしても少し焦げたバターの味も中々良いじゃないか」


 バター焦がしたのバレてましたか。

 でも結果的に褒められて良かったですよ、焦がしバターは好みによって好まれますしね。

 私とジークは午後と明日の予定を詰め合わせながら食事を続けるのでした。


 ▽ ▽ ▽


 コネクト村の大地に降る雨の中、私達一同は魔王ユヒナとリゼットを見送るべく雨具を着込んで村の中心に集まっていました。

 彼女の帰宅に寂しげな表情で見詰めるレオスとダルニ。

 また来て欲しいと微笑む先生とアルリダとクレイにコルル。

 いつでも来いっと笑みを浮かべるジーク、ウェンダム、マデュラとダイクン。

 ふと石の塔を見上げると……! テラスで身を隠しながらユヒナを見送るリオンの姿が有るじゃないですか!

 私は密かにユヒナに視線で合図を向けると、リオンの存在に気付いたユヒナが笑みを零しました。


「みんな、今日までありがとう。有意義な時間を過ごせたわ。そして改めて確信したわ、コネクト村なら私の民を預けられるとね!」


 そう言ってユヒナは村人達から要望を聴いて周ったのか、


「みなが望む人材の派遣を魔王の名に誓って約束しましょう」


 確かな約束を口にしました。

 そしてユヒナは私に近寄って、


「ミルフィ、またお別れね」


 私に抱擁してくれました。

 雨の中なのにそれが温かて、思わず涙が溢れそうになったのは、無理ないよ。

 二年間過ごしていつかは去らないと覚悟していたのに、結局正体がバレて国外追放になった。

 私はその時、ユヒナにお別れを告げられなかったのが心残りだったんです。

 でも今日は違いますよね。


「ユヒナ様、本日はコネクト村までお越し頂き誠にありがとうございました。……それと遅れましたが、二年間お世話になりました」


「良いのよ。むしろ礼を言うべきは此方の方だわ。貴方がきっかけで私を人間を知ることができたもの……それに気付いたのよ」


「な、何をですか?」


「転移魔法で往復に要する時間は数秒程度ってことにね!」


「……あの、公務で忙しいですよね」


「そんなの終わった後にでも気軽に来れるわよ」


 ……えぇ〜、多忙なユヒナの事だから暫くはコネクト村に来られないと思ってた私は一体?

 それで少し寂しくなって泣いちゃった私は……誰か私に感動を返してください!


「……あぁ、でもユヒナ様らしいです」


「そうよ。魔王は不可能を魔法でこじ開ける存在よ」


 そう言ってユヒナは微笑みながら私から離れて、転移魔法で魔界に帰って行きました。

 私はユヒナとリゼットが去った場所を見詰めてから空を見上げました。

 雨……強くなって来ましたね。

 そんな私にジークが声をかけてました。


「雨具を使っているとはいえ、長居すれば風邪を引くぞ」


「そうですね。あっ、私はコルルの所に寄って行くので旦那さまは先に帰ってください」


「あぁ、結局午前中の君は忙しそうだったからな」


 私はジークに頷いてコルルと一緒に仕立屋に向かいました。

 ……泣いちゃった所は見られてないですよね?

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