63.着せ替えメイド
ユヒナがコネクト村に来日して二日目のことでした。
村人と交流を終え、宿酒場に向かう途中だったユヒナとリゼットに出会って。
そしたら何故か二人が宿泊する部屋に招かれた。
そこまでは良かったんですけど……如何して私とユヒナは猫耳とちょっと露出の多いドレスを着せられてるのでしょうか?
「あの、ユヒナさま? この状況はいったい?」
「私にも分からないわ。リゼットに着せ替えの趣味が有ったなんて……くっ!!」
いくらパンイチで過ごすユヒナでも、流石に少し動くだけで下着が見えちゃうぐらいには丈が短いドレスは恥ずかしいですよね。
良かった、黒タイツを穿いていて本当に良かったです!
「……うーん。次はミルフィにこれを着て貰いますよ」
そう言って私に差し出したのは、これまた色々と際どい…小悪魔のような服装でした。
もはや下着姿みたいな布面積なんて誰が着れますかぁ!
「断固拒否です! 私は今から夕飯の仕込みも有るんですよ!」
「大丈夫です。そんなの魔法でちょちょいです!」
そう言って魔法を振りかざして、私が着ていた服と小悪魔衣装を入れ替えられました。
ぐっ! 魔法で一瞬で着替えさせるなんて……っ! やっぱり魔法って狡い!
「くっ……! リゼットは後でユヒナさまのお叱りを受けるが良いです!」
「百式のお仕置きをくれてやるから安心しなさい!」
「っ!! そんなので屈する私じゃあないです! だってこの機会ぐらいじゃないとユヒナ様はまともに服を試着してくれませんからね!」
そういえば、私もはじめてかもしれません。ユヒナが色んな服を着るのは。
……いや、それとこれとは別に如何して私も巻き込まれるんでしょうか?
「それなら私は関係無いですよね!?」
「知ってるのよ。昨日、ユヒナ様とちょっとえっちな事になったのは!!」
マジで何言ってんだこの巨乳メイドは?
私とユヒナがちょっとえっちな事に? 事故は有りましたがそれは事故です。
第一ユヒナは同棲愛好者じゃないですよ。
「はぁ? 事故は有りましたが……なんなら貴女がユヒナ様を押し倒したら如何でしょうか?」
呆れ気味に肩を竦めてそう言ってやると、リゼットは自らのメイド服に手をかけて溢れ出んばかりの巨乳を曝け出すではありませんか。
「おいリゼット、私の前で巨乳を見せるとは良い度胸じゃあない」
敵意を瞳に宿した魔王の眼光を前に、リゼットは服装を正して、
「調子に乗りました。本当に申し訳ございません!!」
東の国アズマに伝わる伝統芸、土下座を披露しました!
でもその際に胸が揺れたのは……まあしょうがない事ですね。
「それじゃあ私はもう着替えていいですよね?」
「その姿をリンデバルド様にお見せになられては如何でしょうか」
このメイドは本当に面白い提案をしますねぇ。
ジークに露出の多い姿を見せる? そんなの気絶するに決まってるじゃあないですか!
如何して結果が見えている事をわざわざ恥ずかしい想いをしてやらなきゃならないのでしょうか?
それにリゼットはメイドの心得がなってないですね。
「リゼット! メイドたる者! 主人に欲情を刺激する装いはするべからず!!」
私の怒鳴り声に近い音声に彼女は肩をびくりと震わせ、ユヒナも何故か驚いた様子で私を見つめてました。
まぁ、私が人前で怒鳴るのも珍しいからですかね。
「……私とした事が! ミルフィ、危うく初心を忘れるところでした」
「えぇ、初心忘れるべからずですよ」
「では、参考に聞きますが、貴女は普段の服装はどうしてるのですか?」
普段? 普段ってメイド服に決まってるじゃない。
「メイド服ですよ」
「……えっ? じゃあ寝る時は?」
「そうですねぇ、最近まではバニースーツ……もとい着ぐるみでしたが今は白いワンピースです」
「質問を変えます。休日の服装はどうなさっているのですか?」
ふむ、休日ですか……ん? 休日? 休日って私に有る訳ないじゃないですか。
「私は住み込みのメイドですよ? 休日なんて無いも同然です!」
そう胸を張って述べると、あれ? 二人から呆れの眼差しが……。
「ミルフィ……メイド以前に女の子としてどうかと思うわよ? いえ、思い返せば魔王城に勤めていた時もずっとメイド服だったわね」
「はぁ〜、メイド以前に女性としての魅力を欠いては主人の恥です!」
「!?!?」
あれ? 眼から汗が……。如何して私はここまで言われないといけないの?
「……あの、私服って必要ですか?」
「当然じゃないですか! 好きな男性とお出掛けする時、貴女はメイド服……いえ、仕事着で出掛けると言うのですか!?」
確かにそんな女性は中々居ないと思う。
うん、リゼットの言ってる事は正しいですね。
「……後日、コルルから私服を買います。いえ、デートする相手なんて居ないですけどね」
「あら? ジークと気晴らしに山脈や森、高原を歩くのだって悪くないと思うのだけど?」
うーん、ジークを誘うのはなぁ。
今は両国と交易を結ぶに当たって忙しい時期ですし、それにジークはその対象じゃないです。
「……気晴らしに子供達を遠足に連れて行くのも悪くないですね」
私がそんな解答を述べると、ユヒナが物凄い剣幕で迫ってくるじゃあないですかぁ!
「いい? ミルフィ! ジークは貴女の誘いを待っているに決まっているわ! いえ、貴女に誘われれば喜んで時間の都合も作るわよ!」
私は彼女の剣幕に圧倒されて、
「は、はい。今度誘ってみます」
そんな事を言ってしまった。
するとユヒナは満足そうに笑みを浮かべて、
「リゼットが迷惑をかけたわね。早くジークの下に帰って美味しい夕飯でも振る舞ってあげなさい」
「はい! では、これで失礼させて貰います!」
こうして私はメイド服に着替えてから逃げるようにその場から去って行きました。
……ジークとデート? それを少しだけ想像してみると、たまには良いのかぁなんて思わず笑みがこぼれました。