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62.魔王少女と屋敷

 ミルフィに案内されたそこは高台の屋敷だったわ。

 此処から一望できる村と森、魔界を繋ぐ山脈まで見渡されるなんて……中々良い場所に建てたじゃないの。

 私が人知れず関心を寄せると足元に近付く一羽の鶏……私の知ってる鶏より大きくないかしら?


「シュラウド、こちらは魔界を治める魔王ユヒナ様です。くれぐれも不敬な態度をなさらないようにお願いしますね」


 私の疑問を他所にミルフィがシュラウドと呼んだ鶏に視線を合わせてそんな事を言っていた。

 鶏に人の言葉が通じるとは思えないのだけど? それともミルフィは疲労から動物に話しかけるように?

 思えば専属メイドとして雇っていた頃もミルフィを散々振り回してきたわね。

 密かにミルフィに労いと感謝を浮かべていると。


コケッ!(承知した!)


 ……シュラウドはまるで人の言葉が理解してるかの如く一鳴きしてみせたわ。

 

「……ねぇミルフィ? この鶏は人語を理解してるのかしら」


「えぇ、理解してますね。私はシュラウドが何を言ってるのかは分かりませんけどね」


「そう。人語を理解した動物が居るのね、それはそれで面白いじゃない!」


「ユヒナ様が気に入って良かったです」


 そう言ってほんのりと微笑むミルフィは、惹かれるものがあるわ。

 彼女の笑みは相手を想って向けるもの。当然ミルフィからしたらメイドとしての矜持から来てるのでしょうけど?

 ねえ、知ってるかしら? 貴女は魔王城に勤める男性から好意の対象だったのよ。

 まぁ、ミルフィはメイドの職務を優先するあまり異性の好意を単なる社交辞令と捉えてるようだけど。

 

「罪づくりな女ね」


「うぇ!? 私は知らずの間に何か罪を重ねていたんですか!?」


 加えて天然で鈍感ときた。これじゃあジークが可哀想ねぇ。

 ジークの婚約相手がミルフィだったら魔族側として都合が良いのは当然として……逆に他所の御令嬢が嫁いだ場合、こちらに不都合が生じる可能性だって有る。

 私はそこまで浮かべて、息を吐き出した。

 ダメね。魔王として国の安寧を最優先するばかりで友人の都合を考えてないわ。

 考え事をしていたせいか私が庭の方へ歩き出すと、


「あっ! そちらは侵入者撃退用に罠を仕掛けて有るので近寄っちゃダメですよ」


 ミルフィに腕を引かれて静止された。

 

「罠とは物騒ね。まあ、ざっと見たところ侵入口は鉄柵……ならその辺りに罠を集中させてるのは明白ね」


 分かりきってる罠に掛かる間抜けはそう多くはないっと付け加えて語る。

 するとミルフィは視線を彷徨わせるながら、


「そ、そうですねー! あからさまな罠に掛かるバカは居ないですよねぇ〜!!」


 あぁ、きっとミルフィの事だから侵入者と対峙中にうっかり引っ掛かったってところね。

 敢えて口には出さないけどね!

 

「まあ良いわ。それじゃあ屋敷の中を案内してもらおうかしら?」


「お任せください!」


 そう言って歩き出すミルフィに私は後を着いて行った。


 ▽ ▽ ▽


 ミルフィに一通り屋敷内を案内された私は、最後に訪れたコレクションルームでジークがこれまで蒐集した物品を鑑賞していた。

 特に多くの使用人を抱えている訳でも無く、面白味に欠ける……質素な屋敷という印象だったわ。

 ここ以外はそうね。でも此処は! お宝の宝庫と呼ぶべき場所よ!


「何よこれ! 壁に飾られた黄金の装飾が施された剣! 途轍もない覇気と威圧感を感じるわ!」


 その証拠に私の尻尾がビンっと真っ直ぐ立つではないか。

 

「あー、それは森の湖に刺さっていた聖剣ディアウスですね」


「ほほう? ジークは聖剣に選ばれた担い手の血筋ってところかしら?」


「いえ、私が抜いて要らなかったので差し上げたんです」


 聖剣を手放すなんて勿体無い!

 一振り有れば元素供給源としても扱えるのに! 

 あぁ、そういえば人間と魔族では元素の扱い方に違いが有ったわね。

 じゃあ不用品じゃない。でもミルフィが聖剣を構える姿はちょっと見てみたいわね。

 なんて事を考えつつ、次に私は円形の石に目を向けた。

 それは人の顔と口が彫られた変わった石だったわ。


「それで、これは何なのかしら?」


「うーん、旦那さまもよく分かってないようですけど……なんだか心惹かれる物が有ったから入手したとか」


「よく分からない物を平気で置けるわね」


「そこが旦那さまの美徳じゃないでしょうか? よく分からない魔族も何の隔てもなく受け入れてますし」


「そのようね。まあ、貴女が魔族を教えていた影響も有るのでしょう?」


「そうでしょうかね? あまり教えなくても旦那さまは受け入れてたと思いますよ」


 なるほど。そこは確かにジークの美点ね。

 それにしてもコレクションルームには不思議な物が多いわね。

 勝手に七色に光る宝石だったり、磁力を帯びた石だったり。

 果ては小洒落たグラスや宝石類まで。

 

「ところでこの鹿の剥製は?」


 私が飾れた鹿の剥製に付いて訪ねるとミルフィは微笑んで答えた。


「この鹿は旦那さまが、コネクト村の森ではじめて狩った鹿ですね」


「じゃあこっちの角は?」


「それはユニコーンの角ですね」


 あぁ、魔女の家でも話題に出ていたわね。

 でも実物を見るのははじめてだわ。


「幻想生物の一部なんて中々希少価値の高い物よ? 売ればそれなりの金額で取引きされると思うのだけど」


「金銭よりもコレクションに選んだそうです。それに私がちょっと森に行けば譲って貰えますからね!」


「ふーん。じゃあ私も一本だけ記念に持ち帰ろうかしら?」


「えぇ、それがよろしいかと!」


 もう十分に見たと判断した私は、コレクションルームから立ち去ろうとした、その時だったわ。

 壁の隅に置かれた宝箱に気が付いたのは。

 

「ミルフィ、あの中身は何かしら?」


「あれは……ええっとあまり人様に見せられる物じゃないですね」


 ミルフィが珍しく言い淀む姿に益々箱の中身に興味が惹かれる。

 だけどさっきやらかしたばかりだからね。魔王は自重と反省もできるのよ。


「なら詮索はしないで置くわ。……彼の下なら安心して任せられるわね」


 ボソリと紡いだ言葉がミルフィに聴こえていたのか、彼女は笑みを浮かべてこう言った。


「はい! 旦那さまになら安心して魔界の民を預けられますよ!」


 ……別にそういう意味で言った訳じゃあないけど、今更私の口から言うのもどの口が? だしねぇ。

 それにミルフィの言うことは一理ある。


「そうね。問題はミルデア側とも交易が始まることだけど」


「そこは……まぁ、なるようになれですよ。結局私達が心配しても事は自然の成り行きに収まるというものです」


「そうだと良いわね。いえ、そう有るべきだわ。……十分楽しんだ事だし、そろそろ宿に帰ろうかしら?」


「まだ帰るには早いですよ」


 そんな事を言うユヒナに、私は連れられて食堂に向かうと……そこには豪勢な料理と装飾品に彩られた一種のパーティ会場が用意されていた。

 ……ジークとコネクト村の村人。果ては森で見かけた妖精とデュラハンの姿もそこにあったわ。


「ミルフィ、これは?」


「ユヒナ様の歓迎会です!」


 眩いと感じるほどの笑顔を浮かべたミルフィに、私の胸が熱くなるのを感じたわ。

 とんだサプライズを用意されているとは思いもよらなかった。

 しかも私に悟られずに用意するだなんて……中々やるじゃない!


「驚いたわ。屋敷に居たはずの私に悟られずに用意するなんて」


「料理は宿酒場で作り、屋敷の食堂に運ぶだけのことだったからな。……装飾品も事前にメイドが用意し段取りを整えては貰ったがね」


 ジークの種明かしに私は驚きを隠せなかったわ。

 村から屋敷までそこそこ距離が有って、しかも並べられた料理はまだ出来立てというのが一眼見て分かるほど。

 つまりコネク村と屋敷を繋ぐ直通ルートが有ると考えるべき……あぁ、此処にミルフィが居る。それが答えじゃないの。


「ミルフィ、貴女の穴掘りは見事ね」


「あら、バレちゃいましたか」


「当然よ。私の自室にも似た物が在るからねぇ」


「むぅ、そこは失念してましたね。もう少しでもユヒナ様をあっと驚かせられたのですが」


 もう十分に驚いてるわよ? ほら私の自慢の尻尾だって裂く揺れてるじゃない。

 

「積もる話しも有るだろうが、それは食事の席にでもどうかね?」


 私はジークの提案に笑みを浮かべて頷いた。

 そこからは村人を交えたパーティが始まり、私はジークと経営方針に付いて語りながら、ミルフィとリゼットのメイド談義に付いて耳を傾けたり、村人とも色んな話をしたわ。

 魔族に対する偏見を持たない村人達に私は、心から安堵するのことができた。

 あぁ、コネクト村なら私の民を預けることができる。

完結まで残りの更新続けていきます!

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