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59.メイドと魔王少女

 梅雨時期に入ったコネクト村は晴々とした青空に照らされ、私達は村の中心に集まっていました。

 今日は魔王ユヒナとアマギが来日する日です。

 私を含めて今かと今かと落ち着かない様子で彼女の訪問を待っていると、足元に魔法陣が現れ光りだしたのです!


「あっ! 来ますよ!」


 私の掛け声にジーク達は喉を鳴らして、緊張感を漂わせました。

 私も久し振りの再会に想いを馳せながら魔法陣の様子を見守る中、魔法陣から光りが溢れ出して、光の中からユヒナとアマギ……あとメイドのリゼットが荷物を持って姿を現したのです。

 ユヒナは私達の様子に意外そうな表情で、


「あら? わざわざ出迎えてくれたのね。魔王として感謝するわ」


 すぐさまユヒナはスカートの摘み一礼しました。

 そんな彼女にジークが一歩前に出て、


「わたしがこの村を任されたジーク・リンデバルド。魔王様、この度はコネクト村にご足労頂き感謝を申し上げます」


「えぇ、突然の提案を受け入れて頂きこちらこそ感謝しているわ」


 そう言ってユヒナは尻尾を楽しげに揺らしながら、握手の手を差し伸ばしました!

 瞬間、私達に冷や汗が浮かぶ。当然ジークの事情を知ってるアマギも冷や汗を浮かべてながら様子を見守ってます。

 でもジークはそんな私達が見守る中、ユヒナが差し伸ばした手を優しく握り締め、


「人と魔族がより良い関係を築くために、是非とも貴女様には協力していただきものです」


 穏やかな口調で告げました。

 あれ? なんでだろう? なんだか前がよく見えないですね。

 ジークとユヒナが握手を結んでいる! きっと私は奇跡的な光景とジークの成長に感動してるんですね!


「無論その為に来たのよ。……それじゃあ早速村を案内してもらいましょうか? ミルフィ」


 おや、私を指名ですか? そちらのメイドさんが釈然としない表情で見てますけど。


「私で良いんですか?」


「元は私の専属だからね」


 まぁ、ご指名とあらば拒みません。むしろゆっくりとお話もしたいところです。


「では、先ずは宿泊先の宿酒場ウルスラグナにご案内しますね」


 こうして私は村人達の大丈夫? 失敗するなよ! なんて言いたげな視線を背中に受け歩き出しました。

 ふと、ジークは女性に一時期に触れた反動が無いのか気になってちらりと視線を向けると……立ったまま気絶してるっ!?

 驚愕を浮かべる私にユヒナはこっそりと、


「ミルフィの新しい雇主の彼、面白いわね」


 そんな事を告げていたずらっぽく微笑んでました。


「あまり旦那さまを揶揄わないでくださいよ。彼なりに悩んでいるのですから」


 敢えて私はユヒナに咎めるように注意をしました。

 するとユヒナはくすりと笑って、


「相変わらず主人思いね。また私の元に来る気はないかしら?」


 うーん、私はユヒナに追放された身なんですけどね。

 

「いえ、今の私は旦那さまのメイドですから、ユヒナ様の申し出はお断りさせていただきます」


 追放されたされてない以前に、私はジークのメイドとして生きる事を選びましたからね。

 彼をずっと支える。それが私のメイドとしての勤めです!

 なんて事を思っていると黙りを決め込んでいたリゼットが、


「ユヒナ様の申し出を断るなんて……意外ですね。てっきり泣いて喜ぶのだとばかり」


「ユヒナ様の申し出は嬉しいですけどね。今は支えたいと思える人に仕えてますから」


「それは愛ですか?」


 何言ってんだこの巨乳メイドは?

 

「胸に知能が吸われちゃってるんですか? メイドとしての矜持ですよ」

  

「別に吸われてませんよ! まぁ、貴女が相変わらずで良かったですよ」


 相変わらずとはどういう意味でしょうか?

 まあ、人はそう簡単に変われませんよ。

 私がそんな事を思っているとアマギが宿酒場ウルスラグナを見上げて。


「着いたようだね。前に来た時は未完成だったけど、中々良い出来じゃないか」


「ありがとうございます。きっとユヒナ様達に喜んで頂けますよ」


 なんせ私よりも料理上手なミントが居ますからね! 彼女なら肥えたユヒナの舌を唸らすこと間違い無し!


「それは楽しみね。庶民的な料理が待ち遠しいわぁ〜」


 えっ? よく食べてるオムライスは庶民的じゃないの?

 あぁ、食材が高級だからですか。でもオムライスは食べられませんよ? お米が無いですからね!

 私がドアに手を伸ばすとリゼットの話し声が耳に届きました。


「ユヒナ様、恐らくオムライスは出ないかと」


「……米は持参させたわよね?」


 流石はユヒナです! 用意周到ですね。

 ならミントにオムライスの作り方とお米の炊き方を書き記したメモを渡しておきますか。

 きっとユヒナが満足いく食事が出されると確信を抱いた時でした。


「……あっ」


 リゼットからやっちまったっと間抜けた声が漏れました。

 

「……忘れてきたの?」


「……申し訳ございません!」


 咎めるような眼差しを向けるユヒナと謝るリゼット。

 そんな二人から視線を外した私はアマギに顔を向け、ダメ元で訪ねました。


「あの、都合よくお米を持って来てるということは?」


「ごめん。今回は村に卸す商品とコネクト村に支払う代金しか持って来てないんだ」


「ですよね〜」


 結局ユヒナはオムライスを諦めて、宿酒場に入って行きました。

 そんな彼女の背を寂しげに付いて行くリゼット。

 

「うーん、オムレツで妥協してくれませんかね?」


「難しいでしょうが、料理人に頼んでみるよ」


「お願いします。……こんな時に対応してこその超優秀メイドなんですけどね」


「流石に村で入手できない代物を用意するのは難しいよ」


 ふむ、これは水田の製作をジークに提案してみましょうかね。

 いや、でも工事計画を立てたりすると来年になりますか。


「お米も仕入れリストに入れておきましょうかね」


「そこはジークと相談してな。……おっと、僕も要らない荷物を置いて来るよ」


 そう言い残してアマギは宿酒場に入って行きました。

 一人だけ外に残された私は空を見上げて。


「この天気が崩れない事を祈るばかりですね」


 そんな事をボヤキながら三人が戻って来るまで待つのでした。


 


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