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57.メイドとリオンと改名

 それは魔王ユヒナとアマギが追放村に来日する前日のこと。


「皆は少し時間が有るかね?」


 そんな事を訊ねるジークに、先生達は互いに顔を見合わせて時間が有ると頷きました。


「今からわたしの屋敷で追放村の改名案を考えたいと思うのだが如何かね? ついでにエリオ、お前も参加しろ」


 木影から私達の様子を傍観していたエリオに、ジークがそう伝えると彼は待ってました! と言わんばかりに駆け寄って来ました。

 それはまるで忠犬のようで、そんな様子に私に限らずみんな微笑んでました。

 みんなさんはエリオの参加とジークの提案を好意的に受け入れましたが、私は朝の塔に視線を向け、


「旦那さま、村の改名案を出し合うのでしたら私はリオンから意見を聴いて来ます」


 石の塔から出る気が無いリオンをこのまま放置しちゃったら、ますますリオンの居場所が無くなちゃう。

 もしかしたらリオンは気にしないかもですが、村人が仲間外れというのは私の気分が良くないです。

 

「そちらは君に任せよう。もっとも魔女殿がリオンに何かしら言ってくれれば早いと思うがね」


 ジークが挑発的な視線を先生……! なんと恐ろしい事をするんでしょうか!

 そんなジークの挑発的な視線に対して先生は余裕たっぷりな表情で軽く受け流しました。


「あの子の心の傷はそう癒えるものじゃないわ。私が何か言ったところで出て来る事は無いのよ」


「傷か。……話しメイドから聴いているが、わたしが口を挟むべきでは無いか」

 

 ジークはそう言って、私に『頼んだぞ』と視線を向けました。

 私は頷いて石の塔に向かうのでした。


 ▽ ▽ ▽


「という訳で追放村を改名する事になったのですが、リオンは何か無いですか?」


 私はこれまでの経緯を軽くリオンに伝え、何か意見は無いかと質問する。

 するとパイプ越しからリオンの声が響く。


『追放村の改名案……それを引きこもりに求める? しかも魔王来日の直前に?』


 リオンの言いたいことも理解できます。

 村の事に非協力的で交流も無い。

 なのに改名案を考える事について思う所も有るのでしょう。


「だからこそですよ。これから村は新しく発展して行くでしょう? それに以前から企画は有ったんですけどそれよりも先に解決しなきゃいけない問題もありましたから」


『ふーん。引きこもりの意見なんて通るとは思わないけど』


「案外大丈夫じゃないですかね? みなさん、意外と自己主張が激しいですから……ノーム辺りなんて天地村とか地精村って言い出しそうですし」


 それに意見が纏まらないと大変ですし、何かのきっかけで村人が仲違いする可能性も有りますからね。

 

『ミルフィの意見は?』


 私の意見? 確かにあまり改名に付いて考えてなかったなぁ。

 ここは村の特徴で決めるべきか、先の未来を見据えて魔界とミルデア王国を繋ぐ意味を込めるべきか。


「うーん、この村は妖精や幻想生物も多数生息してますからザナドゥかフェアリー村……魔界とミルデア王国を繋ぐ意味で……この辺がちょっと学の少ない私には思い浮かばないです」


『どっちも良い名前……単純明快だけどコネクト村とか?』


 なるほど。村の特徴よりもジークの思想は国と国を繋ぐための交易の町としての機能。

 ならコネクト村が一番伝わり易いですし、変に誤解されることも無いですね。

 

「良いですね! じゃあさっそく旦那さまにも伝えて来ます……本当にリオンから伝えなくて良いんですか?」


『……いいよ。外は恐い』


 うーん、トラウマはそう簡単に癒えないですよね。

 

「分かりました。それじゃあ伝えに行って来ます、あと決まったらまた来るので」


『拒否したら?』


「伝える義務が有るので拒否は受付ません」


 私は笑みを浮かべてパイプを通して伝えると、確かにパイプからくすりと小さく笑う音が聞こえました。

 

「強引なメイドだ」


「自覚は有りますよ」


 ジークに対しても結構強引な方法を取っちゃってますし、今更ですね。

 私はそんな事を思いながら屋敷へ向かいました。


 ▽ ▽ ▽


 私は屋敷に戻り、旦那さまが集まる食堂で向かうとそこでは既に白熱した議論が交わされていて……。


「コルウェン村が良いと思うわ!」


「いいや! ノーム村も捨て難いと思うぞ!」


「マデュライト村なんてのはどうだ?」


「うむぅ。ナイツ村は如何だろうか?」


「……ドワーフ村」


「レオマデュ村はどうかな?」


「ならダルク村かな」


 おっと、それぞれ自己主張の激しい名前を挙げてますねぇ!

 というかコルルに至ってはコルルとウェンダムを掛けてますよね!?

 私はジークにただいま戻りました、と視線だけで告げてからコルルにこっそりと近付いて耳元で囁きました。


「あまり重いと嫌われちゃいますよ」


「っ!? やっぱりコルウェンは撤回ね! ここは領主の家名からリンデバルド村の方が良いと思うの!」


 撤回が速い!? でも変わりに良い案を告げる辺り流石はコルルですね!


「……この調子で候補は挙がっているが、未だ決まらんのだよ」


「旦那さまは如何なんですか?」


「わたしか? そうだな、ミルフィリアを提案した次第だ」


 私の名前が入ってるのは如何して? それ以前にメイドが主人より目立つのは私の矜持に反します。


「却下です」


「即答、か。魔女もノリノリだったのだがなぁ」


 ジークにそんな事を言われた私は、思わず先生に視線を向けて正気を疑いちゃいました。


「当然よ。ミルフィは両国の王族と顔が効く、それに魔族と交流のきっかけを生み出したのは間違いなくミルフィなのよ」


「うーん、元を正せばゲラルド王の小心ですけど」


「……じゃあ無しね」


うん、私もそれが良いと思いますけど、如何してジークは残念そうなんですかね?

 なんでエリオも苦笑してるんですかね。


「エリオは何か無いのですか?」


「俺かい? ザナドゥって浮かんだけどさ、追放者の桃源郷って聴こえが悪いじゃん」


 彼の発言が言葉の槍になって私の胸を貫いた!

 ぐっ……まさか同じ名前を思い付くなんてぇ! いえ、私は自由で大自然溢れる桃源郷という意味ですけどね!


「……ふむ、メイドの意見は有るのかね?」


「無いですね。でも変わりにリオンから預かってきてます」


「ほう! どんな名を提供してくれたんだ?」


 ジークはリオンに対して期待を寄せた眼差しで、私に問いました。

 会ったことも言葉を交わしこともない。でも私を通して、私が知る限りのリオンに関して聞いてるから信用は得ているんでしょうのか?

 まあ、それよりも答えるのが先決ですね。


「リオンは国と国……人間と魔族を繋ぐ意味を込めてコネクト村を提案してくれました」


「……コネクト村か。先を見据えた提案をしてもらえるとは!」


 おお、ジークが頬を吊り上げてますね。

 それに村人も顔をお互いに見合わせて……あっ、なんか気まずそうに頬を掻いてますね。

 あれですか? 自己主張の強い名を提案したからですかねぇ?

 

「私は追放村の改名は、リオンの案が良いと思います」


 最後に私がそう提案するとジークと先生が顔を見合わせて頷きました。


「わたしが目指す村の在り方、未来の在り方とも一致するな。ならばわたしもリオン提案のコネクト村に賛成だ」


「私も同意ね。馬鹿な連中が難癖を付けようが無い良い名前だわ」


 ジークと先生の賛成が決めてとなり、ウェンダム達も笑みを浮かべて賛成してくれました。

 

「満場一致だな。ではこれより追放村を改め、コネクト村とする!」


 こうして私達の村はコネクト村へと改名を果たしました!

 

「じゃあ兄貴、俺は追放村がコネクト村に改名した事を喧伝して周るよ」


「頼んだぞエリオ」


 それからエリオは滞在予定を一日早めて、ミルデア王国へ帰って行きました。

 ジークはジークでユヒナとゲラルド王に対してこの度、村をコネクト村に改名したと手紙を送りました。

 そして私もリオンにコネクト村と決まった事を伝え、


「あなたのお陰で素晴らしい村になりそうですよ」


『ボクのおかげ? ……褒めてる?』


「えぇ、旦那さまも感謝してましたよ」


『……変な気分だ』


 いまリオンが何を感じて思っているかはちょっと分かりません。

 でも少しだけ前に進めたら良いですね。

 私はそんな事を胸に秘めながら、明日の用意を開始するのでした。


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