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52.メイドと兄弟

 晴れやかな昼下がり! でも私の気分は曇天!

 

「なあなあ、今晩こそ森の湖でデートでもどうよ? 妖精と動物、水の精霊と風の精霊に囲まれて星空を眺めるのなんて最高じゃないか?」


 これが私の気分が曇天な理由です。

 しつこいエリオに思わずため息が漏れます。

 彼と出会ってもう三日ですが、なんとエリオは毎日のように屋敷にやって来てはこうして声をかけて来るのです。

 ……ま、確かにエリオが言った風景は綺麗だとは思いますけど、あの森でデートスポットを求めるのは間違いです!


「あの森にはユニコーンと大熊に変態生首が生息してます。それにそういうのは心に決めた人と行きたいです」


「ありゃ、俺は脈無しか……待って変態生首って?」


「私は恋愛なんてしたことは無いですけど、幾人の女性を泣かせる最低野郎は無理です」


 はっきりと拒絶の意を込めて言ってやった。

 するとエリオは自覚が有るのか、苦笑を浮かべていた。


「ですよねー。あぁ、でも君は兄貴のことが好きなのかな?」


 はっ? この男は何を血迷ったのでしょうか?

 私がジークを好きになる? メイドとして仕えるべき私が雇主を?

 それはメイドとして有り得ない失態です。

 そもそも私は単なる超優秀なメイドに過ぎません。仮に私とジークが男女の仲に発展したとして、そこで高貴で美しい御令嬢が登場したら私なんてあっさり捨てられるに決まってます。

 あと浮気防止処置として御令嬢に解雇されちゃうのも目に見えてますね。


「好きになるとか無いですね。私はメイドなので」


「メイドじゃなくて君個人はどうだい?」


 私個人? うーむ、私個人としてはジークは悪く無いとは思ってますよ。

 でもジークにはきっと相応しい女性が居ます! そしてリンデバルド家をメイドとして支えるのが私の……!?

 個人の問いなのにメイドとしての勤めと矜持を優先してる!

 

「……私って根っからの仕事人間なんですねぇ」


 自分の事を客観的に見つめ直す良い機会でした。


「とりあえず兄貴にも脈無しってことでいいのかな?」


「……でも、旦那さまが女性恐怖症を克服したら何か変わるかもしれないですね」


 その時はジークの好みに合わせてお見合いをセッティングしてあげますけどね!

 

「兄貴のアレは筋金入りというか。昔、近所の子と殴り合いの喧嘩してさ、それで怒った母さんにビンタされて顎骨粉砕、両腕両足複雑骨折、肋骨数本を骨折したからなぁ」


 エリオは笑みを浮かべながらそんな事を……おかしい。

 何かが致命的におかしいと思うのは私だけでしょうか? 

 ジークが過去にお母さんにビンタされて大怪我を負ったから女性恐怖症? 

 確かにそんな重傷を負えば私だって恐怖症を発症します。

 でもジークの場合は裸体を見ただけで気を失うほどの女性恐怖症ですよ。

 

「それが原因で? でも旦那さまはタイツ越しの下着ですら気絶するチキンハートの持ち主ですよ」


「兄貴は元々その手に免疫が無いからなぁ。……まあ兄貴は元々触れたら壊れるって恐れも有ったけど、母さんのビンタがとどめを刺したんだ」


 なるほど、元々要因は持っていたと。


「むむ、じゃあ女性恐怖症克服はどうすれば良いのでしょうか?」


「……そりゃあ女性との交流じゃないか」


 ふむ、確かに苦手意識はそれで解消されるかもですが、謂わば恐怖心も有るとなれば……着ぐるみを着るにはちょっと暑いですが!


「まあ追々試してみますかね。ところで本日はどの様なご用件で?」


 エリオが口説き目的で来たとは限りません。

 昨日だって彼はジークと何やら話し合っていた様子ですし。


「あー、兄貴と行商ルートについての話しをな」


「お仕事の話しでしたか、なら私はお邪魔になると思うので退散しますね」


「え〜、野郎二人で仕事の話なんてつまらないじゃないかぁ!」


 大事な話しですよね? 

 私がエリオに眉を寄せると、


「気晴らしに廊下に出てみればメイドとエリオか……またメイドを口説いていたのか?」


「兄貴、この子は難攻不落だよ」


 エリオがため息混じりに肩を落とした。

 それに合わせて私は小さな胸を張って、


「そう簡単に口説けるとは思わないことですね!」


 ドヤ顔を向けてやった。

 するとエリオは、


「……口説く相手を間違ったか?」


「やっと気付いたのか」


 何なんでしょうかこの兄弟は? ちょっと私に対して失礼過ぎやしません?

 

「……夕飯はチーズトーストだけで良いですかね」


「わたしの日々の楽しみの一つを奪わないでくれ!」


「兄貴……すっかり胃袋鷲掴みにされてんのな」


 鷲掴みにしてやりましたとも。

 

「メイドの作る料理は旨いからなぁ」


「珍しいよな、兄貴はとり肉以外は頓着しなかったのに」


 おや? そうだったんですか。

 ジークは何でも食べると思ってましたが、好物以外は頓着が無かったと。


「何でも文句言わずに食べてましたから意外ですね」


「わたしとしてはとり肉さえ食べらればって感じだったからな」


「ほんととり肉ばっかだったよなぁ」


 どんだけとり肉好きなんですか。

 まあ、でもとり肉料理を出すと眼を輝かせて食べてましたから……あれ? そういういえば他の料理でもそうだったような?


「うーん??」


 私がふとよぎった疑問に頭を捻るとエリオがジークに苦笑を浮かべてました。

 そんな彼にジークは五月蝿いと言いたげな眼差しを向け、


「メイドよ、コイツと話が有るから紅茶を頼む」


「かしこまりました」


 ジークに言われた私は早速キッチンに向かうのでした。


 

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