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47.王の失落

 余が忌々しい呪いを受け一ヶ月以上も腹痛に悩まされトイレで公務を行う羽目にもなったが、それももう過去のこと。

 漸く余から忌々しい呪いが消えた! 

 もう、これで腹痛に悩まされることも無く自由に城内を出歩けると思えば心が晴れるというもの!

 歳も憚らず浮かれた気分で城内の廊下を歩くと数人の使用人とすれ違った。

 

「ご苦労、クラリスは何処に居る?」


 余がメイド長の所在を聴くと使用人が、


「ベンキング様! メイド長は所用で下町に出掛けております」


 簡素に答え……ん?


「ベンキング様、もうお加減はよろしいのですか?」


 余を労わる使用人の言葉……んんん??

 何がおかしい。いつもなら使用人は余に対してゲラルド王と呼ぶか国王様と呼ぶはず……。


「……一つ尋ねるがベンキングとは?」


「ゲラルド王の渾名です!」


 一人の使用人が満面の笑みを浮かべてそんな事をはっきりと告げた。

 そこに不敬罪、恐れなんて感情は一切見えない。

 つまり余の威光が地のどん底に堕ち、使用人に舐められている。

 これはいかん! なんとかして余の威光を回復させねば!

 よし、目付きと態度は恐いが彼奴に相談せねばな!

 さっそく余は西の城塔へ向かった。


 ▽ ▽ ▽


「そういう訳でクラースよ、余の威光を回復する方法を考えよ」


「生憎と忙しくてね。そんなくだらない事に時間を浪費する気は無い」


 宮廷魔術師クラースは余を鼻で笑い即答で返した。

 コイツ! 一体誰のおかげで今の地位に付けていると思っておるのか!

 余は決してそんな事は口に出さない。

 出せば最後、此奴が『貴様が師を追い出したからだろうがぁ!』って逆鱗に触れるのが目に見えておるからだ。

 それにクラースは魔女エリカの弟子なだけあって魔術師としても優秀な人材。

 此奴がブチギレて余に呪術を唱えればどうなるか。

 きっと余は惨い死に方をするであろう。

 じゃが、此奴に限っては研究の邪魔さえしなければ何もして来ないことも良く理解しておる。


「ベンキングとか呼ばれる国王に仕える宮廷魔術師ってどうなんじゃ?」


「私はその程度の瑣末な事など気にせん。むしろ鼻で笑ってやる」


「時折りそなたが羨ましくなるぞ」


 クラースが国営以外で余に非協力的なのは理解しておるが……。


「まあ、余がこの場に来たのは他に相談事が有ったからだ」


「王自ら私に相談とは珍しい。明日はノアの大洪水ですかな?」


 さっき相談したがな? 拒否したのはそなただぞ?

 

「貴族連中を正す策を用意して欲しい」


 余がトレイに篭り、魔王ユヒナの手紙を読んでから思考を重ねていた相談事にクラースは心底驚いた様子を見せ、


「貴族と関係の深い王家が正すとは? 腐敗しきった連中を綺麗に浄化でもするつもりかね」


 余は肯定の意を持って頷いた。

 というのも好き勝手に領土戦争を繰り広げる貴族連中によって、他国からミルデア王国に対する印象と信頼の失落。

 加えて国境の狭間に位置する追放村に対する侵略行為が、未然に防がれたとはいえ魔王の逆鱗に触れかかった。

 確かにミルフィは彼女に戦争の意思は無いと語っていたが、周辺諸国はその限りでは無い。

 ミルデア王国が貴族共の私利私欲に振り回され続ければ、外から攻め滅ぼされるのが関の山だ。

 

「このまま連中を放置すればミルデアは周辺諸国によって攻め込まれる」


「その危険性に付いては私の星占術でも今年中に起こると出ては居るが、どういう風の吹き回しだ?」


 確かに余はこれまで貴族を放置してきた。

 国内で領土戦争が繰り広げられようとも納められる年貢は変わらない。

 むしろ戦争によって武具と兵器、生産するのに必要な材料とそれらを用意する作業員を雇うゴールドで経済が回されているのが実情だ。

 だが、最近になってミルデア王国と交易破棄を申し出る国が急増した。

 それも理由の一つだが、腹下しの呪いによって国内を見つめ直す機会が得られたというのも有る。


「余は小心者だ、大軍を持って他国を攻め滅ぼすことも視野に入れておるが、この国にそれだけの余裕が有ると思うか?」


「無いな。何十年と続いた貴族同士の争いに民は疲弊しきっている。むしろ追放村へ逃げた方が良いとさえ考えている者も少なくはない」


 クラースが言った通りだ。

 余の国は度重なる貴族同士の争いによって民は疲弊し、国外へ移住を希望する者が急増傾向に有る。

 このままではミルデア王国が衰退し、ミルデアの土地を狙う周辺諸国による戦争が起こる。

 戦争が起こり、ミルデア王国の滅亡。そして今度は土地を巡る戦争に繋がりかねん。

 

「しかし王よ、魔王暗殺未遂はどう弁明するつもりで?」


 魔王と魔族に対する理解が余には無さすぎた。

 連中がどんな種族でどう言った主義や思想を持っているのかさえ何一つ理解していなかった。

 隣人にするには余りにも恐ろしく見えたのもまた事実。

 ひとえに余の小心が齎した結果でも有るが、大臣と公爵家が魔界に対して侵攻を考えていたのも事実だ。


「余が魔王暗殺を指示した件に付いては弁明もする気は無いが、少女一人の犠牲でミルデア王国と魔界の全面衝突は避けられたのだ」


「……なるほど。では、北を治めるアルザレス伯爵は貴族勢力に対する牽制として機能するのかね?」


「今代のアルザレス伯爵は聡い。それに領民の生活を重視する若者だ」


 逆に領民を盾にされると危うい一面も有るが……。


「……追放村には王の子が居るのだが、その子を護る気は?」


「……余があの子に出来る事は何も無い、資格さえも……」


「王の考えは良く分かった。ならば私は宮廷魔術師として大腰を入れるとしよう」


「余と協力してくれるか。先ずは大臣から排除せねばな、彼奴は貴族連中の傀儡に成り果てたからなぁ」


 こうして余はベンキングなどと渾名されたこともすっかりと忘れ、内政清掃に乗り出すのだった。

 ……いずれあの子が王座を引き継ぐ時のためにも。

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