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41.アマギと鍛冶屋達と

 結局、農場で先生と出会ったので予定を変更して鍛冶屋に向かう事になりました。

 そんな鍛冶屋に向かう道中、骨組みまで完成した宿屋を通りかかったアマギが、


「完成ももう少しと言ったところかな?」


 期待を寄せながら問うた。


「えぇ、人手不足ですが何とかここまで漕ぎ着けましたよ。まぁ、先に住んでいた村人達も自分達の手で一から建てたそうですから案外慣れてるんでしょうね」


 ジークの屋敷は雇った建築業者が建てた物ですけどね。

 そう考えるとジークは意外と仲間外れなのでは?

 ちょっとだけ失礼な事を浮かべ、思わず仲間外れジークと内心で笑っていてると。


「ユヒナ様から聞いていた通り、君は笑顔が可愛らしいんだね」


 唐突にそんな事を……もしや私にモテ期が到来!? なんて事は当然ありません!

 彼の言った言葉は商人としてのお世辞、よくある社交辞令です。

 だから私はやんわりと微笑んで、


「ありがとうございます。因みにユヒナ様はもっとかわいいですよ」


「当然だとも。毎年開かれる魔王の公演で見せるユヒナ様の笑顔に魔族は感涙しお祭り騒ぎになるかね!」


「……あぁ、それも有りましたね。あの時は私も思わず開いた口が塞がりませんでしたよ」


「やっぱりミルフィもあの場に居たんだね」


 私は肯定の意を示し、到着した鍛冶屋の前で足を止めました。


「さあ、鍛冶屋に着きましたよ!」


「もう着いたのか。……この村は土地が十分に有って建物もまばらに点在してるけど、そこまで距離も開いて無いのか」


「密集せず、距離を空け過ぎず。意外と丁度良い場所に建ててるみたいですよ。まあ先生の星占術で建てる場所を決めたらしいですけど」


 加えて建材は各々自由に使用してるため、民家に統一性は皆無ですけどね。

 そんな雑談を加えた私は、さっそくドアを二、三度叩く。

 すると中からアルリダの声が聞こえたのでドアを開けて中に入りました。

 アルリダは私とアマギをひと目見て、落ち着き払った様子で、


「いらっしゃい。わたしは鍛冶屋を営むダイクンの妻アルリダよ」


「僕はディアボロ商会のアマギ」


 丁度アマギが紹介終えた直後、奥の工房からダイクンがやって来て、


「貴方が鍛治師のダイクンかな?」


「いかにも。……聖剣の鍛造から日用品の製造までやっておる」


「おお! 店内を見ただけでも幅広く扱っているとは理解したいけど、改めて本人から聞くと納得だね」


 店内に置かれた商品の数々にアマギはそう言って、立て掛けられた剣を一つ手に取りました。


「特にこのロングソード! 重くなく扱い易い上に鏡のような磨かれた刀身と刻まれた焼印がなんと言っても素晴らしい!」


「……そうか」


 ベタ褒めするアマギに対してダイクンは顔を背け、アルリダが仕方ない人と苦笑を浮かべました。  

 そんな二人の様子にアマギは剣を元に戻して、私の耳元で。


「僕、余計な事を言っちゃいましたか?」


 不安そうな声が耳元で囁かれましたが、何も心配する事は無いですよ。

 

「ダイクンは照れてるんですよ……よーく目を凝らしてみてください。僅かに口元が緩んでますから」


「えっ? ちょっと僕には分かりかねるかなぁ」


 本当に些細な変化ですが、まあ一ヶ月も付き合いが有れば気付きますよ。

 

「不器用な夫は置いておいて! ミルフィはナイフの追加注文かしら?」


「いえ、今日はアマギの案内で来ただけですよ」


 前に頼んだ聖剣も名と安全性が判明しましたからジークのコレクションルームに飾られてますし。

 でも私が聖剣を抜けた理由までは分からずじまいでしたけど。


「……宿屋に必要な調理器具は全て完成したぞ。請求は領主で良いのか?」


「はい。領収証が有れば持って行きますよ」


 そう伝えるとダイクンはアルリダに目配りを送ると、彼女は懐から一枚の請求書を私に手渡しました。

 アマギは一連のやり取りに疑問を持ったのか、


「領主が費用を工面? 徴収した税から出されてるのかな」


 そんな事を聞いてきました。


「……領主はワシらから税を取り立てておらん。何せ村は収入源が無い」


「追放村と聞いてその辺りはなんとなく予想してたけど……領主様の方はどうやって資金の工面を?」


 アマギの新たな疑問に三人の視線が一斉に私に向かう。

 ジークの資金の出どころ。確かに税を徴収せず、個人資産から出されていれば気にもなりますよね。

 特にそれが後ろ暗い事で得たお金なのかどうかも。みんなその辺りははっきりして欲しいところですよね。

 まぁ、ウェンダムが動かないという事はそういう事なんですけどねぇ。


「資金の出どころは旦那さまが商人時代に稼いだ貯蓄から支払われてます」


「商人時代……領主様とは良い話ができそうだね」


 まあ、ジークの資産は十年は贅沢と投資しても問題ない金額らしいですが……一体どんな稼ぎ方をしたのでしょうか?

 私が改めてジークの商人としての一面に疑問を抱いていると背後のドアが開き、


「おーい……って!? メイドの嬢ちゃんに角がっ!? おい! 領主様が何か怒らせるような事をしたのか!」


 マデュラが私の姿を見るなり騒ぎ立てましたね。

 いやいや、怒りで角が生えるとかどんな人ですか? 

 私が怒っても角は生えませんが、私を怒らせた相手の身体にナイフが生える事は有るかもしれませんけど。

 私がそんな事を思っていると今度はマデュラの背後からジークが覗き込むように顔を覗かせ、


「ミルフィに角? 森で変なキノコでも拾い食いしたか?」


 ちょっと貴方のメイドに対して失礼過ぎません? 誰がいつ拾い食いしたのでしょうか?


「よーし! 旦那さまの本日の夕飯は森に群生してる班目模様のキノコシチューにしましょうかねぇ!」


 それで実際に角が生えるのか試してやろうじゃあないか!


「冗談だよアホメイド。それより見慣れない……というか魔族の客人が来ているようだが?」


「えぇ、彼はディアボロ商会のアマギです。追放村には仕入れと商談に訪れたそうです」


「改めて僕はアマギ。貴方と会えて心から光栄に思うよ」


「わたしもだ。わたしが治める追放村に訪れてくれた事に先ずは感謝を」


 そう言った二人は何かが通じ合ったのかお互いに硬い握手を結びました。

 二人は商人ですからね、何か通じるものが有るのでしょうか?


「ところで坑道に行っていると聞いていたけど、何か良い物でも採掘出来たのかな?」


「……わたしでは判断が難しい鉱物も多いが売れると確信を懐いた次第だ。まあ実際に見て貰った方が速いな」


 そう言ってジークはマデュラとアマギを連れて外へ出て行っちゃいました。

 それからしばらくしない内にアマギの絶叫が外から……えっ!?

 私はスカートからナイフを一本を取り出してすかさず、外へ飛び出すと。

 そこには仰向けに倒れているアマギと困惑するジークとマデュラの姿がありました。

 ……状況証拠になりますが、本当に残念です。


「旦那さま! 自首する事を強くおすすめします! だからこれ以上は罪を重ねないで!」


「ちょっと待てぇぇぇ!! わたしとマデュラは何もしてない!」


「犯人ってみんなそう言いますよね? 歴史書にも書いてあります」


 私は超優秀ですからジークとマデュラが無罪なのは最初から分かってますけどね。

 

「……わたしが捕まれば資産は凍結、君の給料は当然支払えないがね」


「やだなぁ旦那さま! メイドジョークですよぉ〜」


「君のジョークはたまにたちが悪いな」


「それよりも如何してアマギは気を失ったんですか?」


 本題に移るとジークは顎で大量の鉱石と原石が積まれた荷台を差しました。

 それが一体何だと言うんです?

 そんな疑問を胸の内に秘めながら荷台を注意深く観察しました。

 すると真紅の輝きを放つ原石が私の眼に止まった。

 見た事が無い原石ですね。私がそれに抱いた印象はたったそれだけでした。


「この真紅の原石がなんだと言うのでしょうか?」


「さあ? わたしも今まで見た事が無い原石でね」


「オレもこんな原石ははじめて見るからなぁ。判断に困っていた所でアマギなら何か分かるかと思ったんだが……」


「結果が気絶と。先生なら何か分かるんじゃないでしょうか?」


「それが魔女にも分からないらしいが、少なくとも魔石では無いらしい」


「魔石では無い物……詳しい事は先生にも分からない物ですか」


 この真紅の原石は一体何なのか、と私達が雁首揃えて頭を悩ませていると。

 目を覚ましたアマギが起き上がり、


「思わず取り乱してしまったよ。まさかレッドダイアモンドの原石が登場するとは!」


「レッドダイアモンドの原石ですか?」


 私の疑問に彼は頷き、


「魔界では大変希少価値の高い宝石でね。オークションに出せば何億、何十億と取引される代物だよ」


 アマギはそんな事を……何十億ぅぅぅ!?

 理解が追い付かない数字に突然私の目の前は真っ暗に……。

明日からお昼時間に余裕が出来そうなので、更新をお昼頃に戻します。

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