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34.メイドと事後報告

 遅い晩御飯を食べ終えた私は、未だアイスを食べているサクとサキを連れてジークの居る執務室に向かった。

 私がドアノブに手を掛けるとサキが口元にアイスを付けながら、


「小娘〜ここに誰が居るの?」


 家主に興味を示したのか、好奇心に満ちた眼差しで聞いてきた。

 

「私の雇主にしてこの村の領主ですよ」


 質問に答え、そのままドアを開ける。

 中でジークは、私が居ない間に新しく調達したらしい机で手紙らしきものを執筆していました。

 私達が執務室に入ったことさえ気付かないほどに、集中していますね。

 それに私の足元から何だか震えを感じるような……?

 何かと下を向くと、そこには私の足にしがみ付き震えているサクとサキの姿が有った。

 ……ふむ、ジークは悪魔もビビらせる程に恐いということですか!

 

 「じ、地獄の公爵様!? こ、小娘が如何して悪魔に仕えることに!?」


 サクが涙目混じりに声を荒げると漸くジークが私達の存在に気が付いた。

 

「ただいま戻りましたよ」


「うむ。……ところでそのちっこい……双子の子供は?」


「この子達は先生の使い魔です。こう見えても悪魔ですから油断はしない方が良いですよ」


 私は警告を兼ねてそう答えた。

 すると彼はじっとサクとサキを見詰め、


「わたしはジーク・リンデバルドだ。こう見えて立派な人間だぞ」


「えっ? 人間……そんな恐い顔して人間なの? サク姉、あの人は一体何を言ってるの?」


「サキ。我にも分からない……理解不能の状況に直面してるようだ」


 おやおや、サクとサキにはジークが悪魔に見えてしかたないんですね。

 仕方ないです。ここは少しジークに助け舟を出して差し上げましょうか。


「サク、サキ。確かに旦那さまの顔は恐いですが、私と旦那さまには悪魔契約が無いでしょう?」


 そう言うと漸くサクとサキはジークを観察するように見つめ、やがて安堵から脱力したのか床にへたり込んだ。


「本当に人間だぁ〜。勘違いさせるなよ小僧!」


「サキ、無闇に喧嘩を売るのはやめて。あの指輪は力を抑える呪具だよ? きっと指輪外したら悪魔も一撃で黙らせるかもしれない」


 いや、流石にそれは……無いと断言できないのが恐ろしいところですね。

 

「……しかし小僧呼びか。風貌は幼児に見えるが、わたしを小僧と呼ぶ程に齢を重ねてるのかね?」


 ジークの言葉に私達は黙り込んだ。

 彼は女性に対して質問してはならないことをしてしまったからだ。


「小娘の主人はデリカシーが無いのか? 因みに悪魔に年齢の概念は無い!」


「そうだそうだぁ! 我らは魔物が居た時代から生きてるんだぞぉ!!」


 二人に非難を向けられるジークが、私に助けを求めましたが……私はそっぽを向きました。

 するとジークは頭を掻き、椅子から立ち上がった。


「……これはわたしに非が有るか。失礼したリトルレディ達よ。無礼を詫びよう」

 

 ジークの謝罪に気を良くしたのか、サクとサキは仕方ないなぁと言わんばかりに、


「まあ、小娘が世話になってるから? 多少の非礼は許すよ」


「サク姉が許すなら我も許すよ。感謝しなさいよね」


「許されたか。時にメイドよ、財宝はどうした? まさか回収を忘れたということは無いよな?」


「大丈夫ですよ。サク、宝箱を出してください」


 私がサクに頼むと彼女は、空間から宝箱を取り出して床に置いた。

 改めて見ると大きな宝箱ですね。中身は何でしょうか?


「中身を確認する」


 ジークは宝箱に近付く。するとポケットから鍵を取り出し、宝箱を開錠した。

 ジークの腕が宝箱を開く。そんな様子に私は愚か使い魔まで緊張に息を呑んだ。

 突如宝箱が爆発! なんて事も無く開いた宝箱には金塊の山と黄金に輝くパンツが!

 ……えっ? 

 思わず私達はお互いに顔を見合わせた。

 宝箱には存在感を主張するように黄金の輝きを放つパンツ。

 如何してパンツ? というかこれを穿く人が居るの? なにそれ、どんな成金主義者?


「……よし! これを全てアラメドルク伯爵に献上するか!」


「それが良いですね! 黄金のパンツだなんて悪趣味な財宝なんかねぇ!」


「サク姉……我らはこんな物を護ってたの?」


「何も言うな……あぁ、契約者の雷を受けた意味は一体……」


 すっかり落ち込んだ二人。ここで慰めの言葉をかけるとまたアイスを頼まれるから放置ですね。

 それにしても黄金のパンツはともかく、よくもまぁ宝箱一杯に金塊を集めた物ですね。

 実はウルスラグナ団は凄腕の野盗一味だったんだなぁ〜。そんな感心を浮かべながら、私はジークに視線を……っ!?


「あの……如何して黄金のパンツを触ってるんですか?」


 それは一応女性用のパンツですよ!

 なんて叫びをグッと飲み込んで、蔑んだ眼差しを向ける。


「そんな眼で見ないでくれ。……いや、違うんだ」


 何が違うと言うんでしょうか?

 現にパンツを触ってるじゃないですか!


「君も触ってみれば分かる!」


そう言ってジークは私の手に触れないように、黄金のパンツを突き渡してきました。

 ……布地とは程遠い手触りと硬い感触が私の手の中に!

 私はてっきり噂に聴く黄金の糸と呼ばれる古代の絹を使用してるのだとばかり思っていましたが、これは黄金で形造ったパンツですか。

 それにしては女性物の下着らしい模様と装飾ですね。

 あれ? でも形ばかりとはいえパンツを見てジークは気絶しなかった。

 私は漸くそこで気が付いた。ジークの女性恐怖症は紛い物に反応しないという事実に!


「サク姉……小娘は如何して雷に打たれような衝撃を受けてるの?」


「知らないけど、我らには人間の趣向はまだ速いということだね」


「そっかぁ〜」


 そんな呑気な会話を他所に私は宝箱に黄金のパンツを仕舞い込んだ。


「……旦那さま。本気でアレを贈るんですか? 正直言って喧嘩売ってるようなものですよ」


「大丈夫だ。南の領主──アラメドルク伯爵は黄金好きと有名でね」


 確かに私もアラメドルク伯爵の噂は聞いてますが、本当に大丈夫なんでしょうか? いえ、ここはジークの判断を信じるのもメイドとしての務めですね。


「旦那さまがそこまで仰るのなら分かりました」


 これで領土戦争が回避できる。私はそう信じることにしました。


「これで私も安心して枕を高くして眠れそうですね!」


「うむ。あとはこの嘆願状と財宝をハヤテに届けて貰えば今回の件は終息するだろう」


 そんなジークの言葉に私は笑みを浮かべ、サクとサキを見送ってからお風呂に入るのでした。

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