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32.メイドと高原

 翌日の朝。朝食を摂りながら寝不足気味の私が小さく欠伸を洩らすとそれを見ていたジークが、


「寝不足かね?」


 隈の寄った目元でそんな事を聴いてきました。

 その台詞はそっくりそのまま返してあげたいですねぇ〜。

 

「昨晩は少しだけ庭に罠を仕掛け、あと今日の支度が有りましたから……ところで旦那さまは隈が凄いですね!」


「誰の所為だと思っている」


「それはつまり……私の残り香で眠れなかったとかそんなところですか?」


 確かに昨晩に私はジークの寝室に忍び込みましたよ。

 けどジークなら気にしないんじゃないでしょうか?

 それに私って化粧しないですから、精々石鹸の香りぐらいですよ。

 そう言う意味で問い掛けると彼は僅かに視線を逸らして、


「……わたしにだって眠れない時ぐらい有るさ。例えばあの件が気になったりな」


 あの件というのは分かりかねますが、ジークの言いたい事も分かります。

 私だって途中の仕事とか、編みかけのマフラーが気になって眠れなくなる時が有りますからね。

 特に職場がいつまで続くのか、老後の人生など先々の事を考え出したら不安で夜しか眠れません!

 まあ、ジークの様子を見るに昨晩の件はあまり影響が無かったと見て良さそうですね。

 

「私もやり残しが有ると気になって眠れなくちゃう時ありますよ」


 そう相槌を打ちながら、昨晩仕掛けた罠の配置を記したメモ書きをジークに差し出す。


「ふむ、柵周りに記しが集中しているな。これは侵入者と来客を区別するための物かね?」


「はい。私の経験則になりますが賊は正面玄関からあまり侵入して来ませんから」


「なるほど。因みに罠を踏むと如何なるかね?」


 質問に対して私は微笑みながら、


「爆発、痺れ、腹痛の呪い、爆笑の呪いのいずれかが発動します!」


 結論だけを答えました。

 するとジークは頭を抱え始め、


「責めて発動する罠を統一しないか?」


「えぇ〜!! サプライズは欲しいじゃないですかぁ!」


 そう言うと彼は一度考え込んだ。

 しっかりパンを齧りながら、やがて結論が出たのか。


「……まあ、悪くはないか」


 そう言って笑みを浮かべました。

 あっ、私も早く食べないと支度が遅れちゃう。

 今日の予定を思い出した私は、少し急ぎ気味に朝食を食べるのでした。

 それから朝食を済ませた私とジークは、ノーム農家で畑仕事の手伝いをするのでした。


 ▽ ▽ ▽


 畑仕事を終え、昨日頼まれた用事を済ませるべく私は、いま広い高原に来ています。

 周りは草と丘や崖に囲まれ、風が草を揺らす。

 初めて到着した頃は姿を見なかった野生の馬と山羊の群れが見えます。

 もう少し暖かくなったらお昼寝も良さそうな長閑さですね。

 そんな事を考えると急に眠気が……っ! ダメですよ私! ここは地図を確認しながら歩き出すのが得策です!


「地図によれば此処から南東に向けて歩けば良さそうですね」


 眠気を吹き飛ばすために地図を確認した私は、南東に向けて歩き出す。

 問題はこの地図がどれほどの精度で作成されているかですね。

 割と杜撰な地図も多く出回ってますが、これは当たりだと信じたいものです。


 それから私は南東に向けてしばらく歩き続け、辿り着いた丘を意気揚々と登ったのですが……。


「洞窟……有りませんね」


 目印となる大木の姿も見えません!

 如何やらこの地図は精度が悪いようです。なら信じられるのは自分の視力!

 私は周囲をざっと見渡し、500メートル進んだ先に在る小高い丘を見つけた。

 でも山頂部には大木の姿は有りません。ならもっと先に有る?


「うーん。1000メートル先にも丘が在りますが、先ずは手前の方から登ってみますかね」


 此処からでは見えない位置に大木が有るのかも。

 なら私が取るべき行動は一つですね。

 結論を出したは私は歩き始めました。


 ▽ ▽ ▽


 あれから丘を三つ程登り、更に高台を登って漸く目的の大木と洞窟を発見した頃には12時を過ぎてました!

 この地図は精度が悪いとか杜撰以前の問題! これを書いた人は何処を見て書いたんでしょうねっ!

 若干地図製作者に怒りを顕にした所で、冷静になるべく息を吐く。

 

「敵陣の前ですが、少し休憩してから行動しますか」


 それとも洞窟内に煙を送って炙り出す方がいいですかね。

 夜間に忍び込んで財宝を持ち帰るのも手段の一つとして有りかな。

 私はそんな事を思案しながら大木の側に座り込む。

 冷たい風が頬を撫で、若干汗ばんだ身体を冷やす。

 これはちょっと良くない。だから私は側の地面にナイフで魔方陣を刻んだ。

 触媒を使用しない簡易的な魔術なら大木に燃え移る事も無い。


「火の元素よ燃えよ」


 短く呪文を唱え、着火の魔術を唱える。

 すると魔方陣から発生した火が草を燃やし出す。

 そして簡易的な焚火に手を当て、冷えた身体を温める。

 これで風邪を引くことは無いですね!

 

 それから30分ほど休憩した私は行動に移した。

 大木の周囲に落ちていた枯れ木を拾い集め、それを洞窟の前に運ぶ。

 そしてまた地面に魔方陣を刻み、その上に拾い集めた枯れ木を置く。


「さて、うまく誘き出せれば良いんですけど」


 右手に隠しナイフを五本取り出し、短く着火の魔術を唱える。

 燃え出す枯れ木。でも生憎と風向きは南の方を向いていて煙が洞窟に届かない。

 そこで私は持って来ていた洋皮紙を取り出す。

 左指先を少しナイフで傷付け、血でルーン文字を描く。

 指を止血してから洋皮紙を焚火に合わせて洞窟に向け、

 

「風の元素よ、微風となり吹け」


 微風の魔術を唱えた。

 するとルーン文字を刻んだ羊皮紙から微風が吹き出す。

 煙が微風に運ばれ洞窟内に入り込みました。

 あとは警戒しながら待つだけですね!


 楽勝な仕事ですね! なんてちょっとだけ思ったのが行けなかったのか、すぐに異変が訪れました。

 確かに煙が洞窟内に入っていたのですが、突然光の壁が洞窟の前に現れて煙の侵入を防ぐではありませんか!


「まさか魔術障壁でしょうか?」


 私は魔術を中断して光の壁に近付いた。

 そこには分厚い光の壁。発動の起点となる魔方陣やルーン文字など見当たらない。

 見当たらないということは非常に厄介な問題が有るということ。


「これは魔法? それとも遠距離から魔術行使を?」


 いずれにしても財宝を護る番人は一筋縄ではいかないようです。

 はぁ〜先が思い遣られるなぁ。なんてため息を吐きながら光の壁に手が触れると……なんと! 壁をすり抜けちゃいました。


「侵入者対策じゃないんですかね?」


 単純に煙かったから使用した?

 まあ、中に入らないと仕事も終わらないですね。

 夜を待つことも考えましたが、やはりメイド業務を優先するとこのまま侵入した方が得策ですね!

 あと早く帰ってデザートの試作をしたいですし!

 そう考えた私は慎重に洞窟に足を踏み込みました。



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