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03.メイドと農家


「来てみると長閑ですねぇ〜」


「うむ、長閑過ぎて欠伸が出るぐらいにな!」


 人口そのものが少ないのか人気が少ない様子にジークはわざとらしく欠伸を。

 私もそんな彼に釣られて欠伸をしましたが、外壁に囲まれ建物が密集した王都と違って空気が新鮮ですね。

 ちょっと風が冷たいけど。

 というか此処は村と評するには小さく、集落と呼ぶにはまばらに散らばる建物。

 建物ごとに使用されている建材もまばらで統一性が無いですねぇ。

 民家らしき建物がニ軒。鍛冶屋、農家、牧場、石造の立派な建物を合わせて六軒。石の塔を含めれば七軒ですか……少なっ!?

 しかし七世帯が住む村……あっ名前知りません。

 そういえば、ジークは領主でしたね。ならばこの村の名を聞いてみましょう。


「村というか農村? 旦那さま、ここは何という名なのでしょうか?」


 するとジークは強面で鋭い笑みを浮かべ、


「ここは犯罪者、都合の悪い者が最後に行き着く通称──追放村だ」


 そんな事を。

 ……いま、なんて?


「旦那さま、かわいいメイドを捕まえてご冗談を。確かに私は追放されましたとも。ですが、そんな村の話は今まで一度足りとも聴いたことがありませんよ」


「冗談では無いさ。各言うわたしは元々下層階級の出身でな。絵に描いたような真面目な商人として成功を収め、いざ領地の購入に踏み切ってみればゲラルド王に男爵位を賜りこの土地に追放されたわけだ」


 単にあの小心者が顔にびびったからでは?


「なんとなく追放理由は察せますが……ここ、ミルデア王国の領土じゃないですよね?」


 そう聞くとジークが大きく顔を晒しましたね。

 しかしジークは二十代前半に見えるぐらいには若い。商人として出世した彼に誰かしらの嫉みも有るのでしょうか。

 例えばゲラルド王と親交の厚い公爵家とか。  

 あれこれ考えても仕方ないことですかね。もう私はミルデアの大地を踏めませんし。

 今は他に考えるべきことを優先しましょう。


「つまり私の他に追放された者がこの村に……? 如何しましょう、ミルフィちゃんの貞操の危機が!」


 身の危険を感じた私が身体を抱締めるとジークは何言ってんだこいつ? と言わんばかりの蔑んだ眼を向けてきやがりましたよ。

 やめてください。その視線は私に羞恥心を与えるには十分です!


「バカなことを言ってないで就任の挨拶周りに行くぞ」


「あっ! 待ってくださいよぉ〜」


 木箱を抱えたまま私は先を行くジークの後を追う。

 そして大麦畑、小麦畑、キャベツ畑、玉葱畑、セロリ畑、そら豆畑、ひまわり畑と四種のベリー畑を裏手に持つ一軒家に到着したジークがドアをたたく。

 自宅の中から人の気配はすれど物音がしない。そりゃあ人気の少ない村で人が尋ねて来たら警戒するでしょうね。

 そんな事を思いながらドアに視線を向けているとジークが穏やかな声を発した。

 声は優しげでも顔が恐ろしい。立ち振舞いも貴族を意識したのか紳士的。でも顔が恐ろしいから台無しですね!


「本日この村に就任した領主のジーク・リンデバルドと言う者だが……」


「なんと追放村に領主様が!? ちょっと待ってくれ、いま開けるから!」


 家主はよほど慌てていたのでしょうか。物音とドタバタと足音を立てながらドアを開け、顔を覗かせたのは栗髪に紫色こ瞳で冴えない顔の中年男性でした。

 ですが、中年男性はジークの顔を見るや否や速攻で閉じましたね!


「領主様だと思ったらとんでもねぇ! 悪魔じゃねえかぁぁ!!」


「待て!? 確かにこんな顔だが歴とした人間だ!」


「旦那さま……大変ですね」


 私がジークを憐れむとドアがわずかに開き、隙間から家主が顔を覗かせ。


「本当か?」


 警戒を最大限に私に問い掛けてきました。

 もちろん私は首肯きましたとも……決して冗談半分で揶揄うなんてことは微塵も考えてません。

 ですから余計な事を言ったら『分かってるよな?』って眼力に込めないでください!


「もちろん旦那さまは立派な人間です。魔族を見て来た私が保証しましょう」


「魔族? あの山脈向こうの魔族を?」


「ええ、魔界の魔族を直に見て触れ合って来た超優秀メイドが言うのですから間違いありません!」


 少々物足りない胸を張って語ると家主は、


「自分で言うと信用失くすよ? あと胸を張るならもう少しおっぺえを魔女さん並みにしてからにしな!」


 唾を地面に吐き捨てながらそんな事を。


「……ほぉ?」


 この村には魔女が居ると。これは有益な情報ですね。

 何故なら魔女は魔術を魔法に近いレベルまで極め、寿命を捨て去った女魔術師に与えられる称号。

 魔術の先生も魔女で宮廷魔術師を勤めていましたが、突然姿を消しちゃったんですよね。

 先生元気かなぁ? なんて久々に会いたい気持ちが込み上げて来ますね!


「落ち着けメイド。怒りたいのは分かるが、その何処から取り出したのか分からんナイフをしまいたまえ」


 おっと、いつの間に私の指隙間に5本のナイフが有って、ドアにナイフが5本も刺さってるのでしょう?

 ちょっとメイドちゃんには分かりかねますねぇ。


「た、短気なメイドだなぁ。一つ言っておこう! オラはこの村唯一の農家! 野菜や小麦の生産を一手に成している。この意味が分かるかなぁ?」


 つまりこの村の食料事情を担う一角と言っても過言ではないと?

 大きく出ましたね。私の雇主は領主様ですよ?


「マジですみませんでした。頭を下げるので食料を売ってください」


 幾ら領主様の威を借りたとしても所詮は出会って一時間も経たないメイド。

 食料とメイドを天秤にかけたら選ぶのは誰だって食料じゃないですかぁ。


「いや、オラも身体的な事を言っちまったからなぁ。詫びと言っちゃなんだが、今朝採れたての野菜を持っててくれ」


「それは有難いが、生憎とこれから他にもあいさつがありましてね。後程、この者を遣わせるのでその際にでも」


「分かった。あぁ、オラとしたが申し遅れた。オラは村唯一の農家! ノームだ」


 とても農民とは思えない丁寧なお辞儀。


「ふむ。改めてになるがわたしがジーク・リンデバルドだ。以降宜しく頼む」


 私もノームに辞儀返して。


「私は旦那さまに支える唯一のメイド! ミルフィとも申します」


 そして差出された握手に先んじて軽やかに応じる。

 ノームが同じく握手をジークに向けると……何故かジークは少しだけ肩を強張らせ、それはもう不自然なまでに慎重に握手をしてました。

 案外顔に似合わず、人付き合いが苦手な照れ屋なのでしょうか?

 そういえば、私があいさつした時も顔を逸らしてましたからね。

 緊張してたのか、胸を撫で下すジークに向かって私は、


「旦那さまの照れ屋さんめ〜」


 メイドスキルの一つ、メイドジョークを跳ばす。

 すると彼は、


「いや、別に照れている訳では……まあ良い、次行くぞ」


 そう言うや足速と次の民家へ歩んで行きました。


「それでは私も失礼させてもらいますね」


 メイドとしてノームにあいさつを欠かさず、ジークの後を走って追うのでした。


「あのメイド、ずっと木箱抱えてるなぁ……あっ、ナイフ忘れてるぞ!?」


 彼の声に気付かないまま、私はジークの一歩後ろを付いて歩くのであった。

 その際にジークが酷く驚いたような声をあげましたが、気配なんか殺してませんよ?

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