29.メイドに頼み事?
私は屋敷に帰るなり少し遅めの掃除と洗濯を終わらせ、庭を動き回るシュラウドに近付く。
「鶏小屋はもう少し待っててくださいね」
「コケーコケー!」
シュラウドは寛大な心を示すが如く翼を広げ鳴いていた。
なんか偉そうだなぁなんて思いつつも私はシュラウドの翼に視線を向ける。
骨折していた翼を優雅に動かす様子に、どうやら骨折はもう治ったようですね。
私は翼に手を伸ばして翼に巻いていたハンカチを外す。
「もう怪我は治ったようですね」
そんな言葉をかけるとシュラウドが反応を示す。
「コケコ」
盛大な態度と共にひと鳴き。
本当に態度も大きいですよね〜この鶏は。
少し頬を緩むのを感じていると北から吹いた風に髪が靡く。
風に攫われる長い銀髪を抑えていると。
「メイド。少し良いか?」
ジークの声に私は反射的に振り向き、
「お帰りなさいませ。あぁ、預かっていた費用は不要でしたので返却しますね」
メイドとして主人を迎える言葉をかけ、鑑定の費用が入った金袋を手渡した。
「うむ。是非とも君にやって貰いたい仕事が有るのだがいいかね?」
私にやって欲しい仕事? 何でしょうか、ジークは少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべてますが……。
「私にやって貰いたい仕事……まさか男性客に……ちょっと私の口から言うのも憚れることでしょうか?」
そんなお願いは断固拒否!
パワハラ、セクハラダメ! 絶対! 拒否です!
どうやらジークは私が言った意味を理解し、想像してしまったのか顔を真っ赤に、
「ば!? 違えよ! 君にはウルスラグナ団が隠した財宝の回収を任せたいのだよ!」
慌てた様子で口調を荒げながらジークはそういった。
少し揶揄っただけなのに……ジークには少し刺激が強かったですかね?
「財宝の回収ですね。じゃあ今からさくっと行って……」
来ます! と駆け出そうとした私に、
「待て待て! 判断と行動が速い! いいか? 隠し場所にはどうやら宝を護る番人が居るそうだ」
「えっ? それなら旦那さまが行けば確実じゃないですか」
私はメイドですよ? 主人に仕え護るのが勤めであって荒事は別です。
そんな文句を言いたいですが、眼で訴えるだけで我慢しましょう。
「わたしにその綺麗な瞳で物言いたげな視線をぶつけるでない」
綺麗な瞳だなんて。いえ、そんなことよりも詳細を聞いておきますか。
決して瞳を褒められたからちょっとやる気になった訳じゃ有りませんよ? あれですよ、きっと私に頼むぐらいですからジークに手が負えないような相手……あれ? そんなの私でも無理じゃん。
「旦那さま? 一応言って置きますが、旦那さまに手が負えない相手でしたら対処は私でも無理ですよ」
「いや、君なら確実に大丈夫だ。何せ番人は双子の女らしいからな!」
……この男。胸を張って言うことですかい。
呆れた視線を向けているとジークはそれに気付いたのか、一つ咳払い。
やがてポケットから折り畳んだ羊皮紙を取り出しました。
「これに財宝の隠し場所が記されている」
そう言って私に手渡した。
ふむ。どうやら高原の地図のようですね。
精度は悪いですが、村から南東に進んだ丘。そこに大きな大木の側に在る洞窟に財宝有りと。
「ところで入手した財宝はどうするのですか?」
「南の領主アラメドルク伯爵がこの村に侵攻を企てているようでな、不本意だがそれで手打ちにして貰おうという考えだ」
「物騒な話しですね。如何して領主は戦争をやりたがるのでしょうか」
「さてね。わたしにも理解し難いが、既に南の関所……湿地帯の関所に騎士団が集結しているそうだ」
「つまり私は財宝を回収したらそのまま南の関所に向かえば良いんですね」
「いや、それでは最悪間に合わない可能性も有る。そこで財宝は手紙と一緒に魔女の大鷲に運んで貰う流れだ」
「おぉ! ハヤテが運ぶなら確実で迅速に可能ですね!」
そういえば先生の自宅で見かけませんでしたが、色々と駆り出されていたのでしょう。
今度新鮮な魚をお裾分けしよっと。
そんな事を考えつつも地図を頭の中に叩き込んでから私はジークに一つ尋ねる。
「それで……ウルスラグナ団の処遇はどうなったのでしょうか?」
「あぁ、彼女らにら宿屋を経営して貰うことにした」
仮にも犯罪者である彼女らを受け入れると。
でも村の現状と性質を考えるとある意味妥当な判断なのかも。
それにジークが村に置くという判断をしたという事は、そんなに重罪を犯してないということですかね。
「そうですか。ではこれからはウルスラグナ団も村の住民ですね……【宿屋ウルスラグナ】の開業もちょっと楽しみです!」
「おいおい、勝手に宿屋の名を決めるでない。それを決めるのは彼女らだろう?」
「おっと、私としたことが先走り過ぎてましたね。後はひきこもりも引っ張り出せれば完璧ですかね」
「村唯一のひきこもりか。あまり手荒な真似はしない方が良さそうだが、君が声をかければ一発ではないかね?」
「そりゃあ私は美少女ですからね! もう旦那さまも分かってるじゃないですかぁ〜」
「……いや、君なら緊張せずに話せると思ってね」
ふむ? ちょっとどう言う意味でしょうか。
村の女性陣と比べると私の胸が貧相だからとか、そんな事を微塵も考えてませんよね? 私が美少女だから言ったんですよね?
ちょっとジークに疑うような眼差しを向けつつも、
「じゃあ財宝の回収に行って来ますね」
「今から行って恐らく夜になるだろう。高原の夜道は危険だ、だから明日にしなさい」
確かにジークの言う通りですね。
これも私のいけない癖だ。頼まれたことをすぐに片付けてしまおうとする。
自分の癖とか性格を治すのは難しいですが、改善すればメイドとして更なる磨きが!
「意気込んでいるところ悪いが、今日はシュラウドの鶏小屋建築を終わらせてしまおうか」
「そうですね。私一人でしたら建材調達諸々で時間が掛かりますが、旦那さまとならすぐに終わりますね!」
そんな事を笑顔を浮かべて言うと、何故かジークは顔を背けしまた。
「君の笑顔はたまに眩しく感じるな」
おやおや私の笑顔に照れたんですか。ほんと照れ屋さんめ〜。
思った事を胸の内に閉じ込めた私は、早速ジークと一緒に建材調達に森へ出掛けるのでした。




